やっぱりだめか……
さて、自宅でのお泊まり会も終わり、モニカちゃんの宿泊研修の日がやってきた。
モニカちゃんは次の日には無事にレドになり、予想通り最年少レドとしてお祝いパーリーやらなんやらに呼ばれ、今まで中々一緒の時間は取れなかった。
現在公爵家のモニカちゃんの部屋で出発の準備をしていた。
モニカちゃん、呪具は置いていきなさい。研修に持って行ったら災いが起きるから。
「せんせとやっと二人きりになれた……せんせ、らぶ」
「ふふっ、お疲れ様。学院のみんなには何か言われた?」
「まぁ……サーレスにはズルしたんだろとか、ノウドの癖にとか言われたけど、なんかガキだなーって思ったら面白くて。無言でレド証見せたら捨て台詞吐いて話し掛けに来なくなったよっ」
「よーしよしえらいえらいっ、見事に見返せたって事だねっ」
「うんっ、私の目指す所はせんせの妹だから、学院の奴らはもうどうでも良いの」
「成長したなぁー。友達出来た?」
モニカちゃんは笑顔のまま窓の景色を眺めた。
友達出来なかったのね……気持ちはわかるよ。出来ねえもんは出来ねえからね。
友達はモニカちゃんから歩み寄らないと出来ないだろうな。今まで陰で見下していた女子がレドになってしまったのだから、子供心に難しいよね。
まぁその内出来るよ。めっちゃ可愛いもん。
宿泊研修は西の領土の山岳地帯。年毎に東西南北と変わるらしいが、東のサーレスじゃなくて良かったと心底思うよ。
そういえばあれからサーレスからの接触は無いな。
諦めたか?
「レドになれば変わるかなって少し期待したけど、みんな腫れ物を触るような態度……私がそう見えているからか近付きたくないのかも」
「モニカちゃんは公爵家だから、普通なら怖いよ。今まで馬鹿にしていた事が露呈したらとか……自分の事しか考えないもんさ。私の時も似たようなもんだったよ」
「せんせは、良いの? 見返したいとか、復讐したいとか……」
「私の代わりに、みんなが動いてくれてさ……私が出る幕なんて無かったんだ」
「良いなぁ……私には、そんな人居ない」
「今は私が居るし、キャロもああ見えて情に厚いから守ってくれる。でもこれからどう拡げるかはモニカちゃん次第になるから、ね」
「むぅー。わかってる。お父様にも言われたし……私は一人前にならないといけない」
そう、公爵の許しを得るには一人前と認められないといけないとの事。それだけ聖女ルーの妹は大きな壁……まぁわかるよ。このままじゃ私に依存して何も出来なくなってしまいそうだから。
「公爵様は心配性だからね。よしっ、どう?」
「ゎ……ちょっ……」
「ん? 変だった?」
「ぃゃ……ぁの……」
鏡で確認してみる。折角なのでぐるぐる眼鏡を取るためにクルルになってみたのだが……男に見える魔導具と可愛いアクセを付けたから、いつも通りだよな?
「……モニカちゃん?」
「まっ、待って! 近いっ! ぁぃゃそうじゃなくてっ! あっ、うっ、ぅっ、ぅぅぅっ!」
モニカちゃんが壁まで後退り、頭をぶんぶん振って話を聞いてくれない。
……コンコンと扉がノックされて直ぐにカンナさんが入ってきた。
「お嬢さまっ、どうなされ……あっ……まじか……」
「かんなぁぁ! せんせがぁぁっ!」
「カンナさん、なにか失敗しましたかね?」
「あぁ……あの、ルクナ様、いえ、クルル様? いや、流石に実際に見ると……破壊力が……」
「ひぐっ、ひぐっ、ふぅぅ、せんせが、ぅぅ……」
「カンナさん、鼻血出ていますよ」
「えっ? いやっ、来ないでっ、下さいっ」
「せんせっ、来ないでっ、ぃゃゃっぱ来てっ、ぁぁいやまだだめっ!」
カンナさんまで壁にくっ付いてしまった。
うーん、もしかして……ここで悪戯心が発動してしまうのが私なのだよ。
「モニカ、カンナ……こっちにおいで」
「っ! ぁ……ぇ……と……」
「……ぐっ……めっちゃカッコ可愛い……推しが、変わる……落ち着け、まだ、大丈夫」
「……来てくれないのか、寂しいなぁ。モニカ、お顔を見せて」
「ぅっ、やっ、せん、せ……」
近付いて頬に手を添え、少し顔を上げさせると真っ赤な顔にうるうるした瞳が私の視線と重なり、直ぐに視線が逸らされた。口はへの字で今にも泣きそうで、ぷるぷると小動物みたいで可愛い。
「モニカ……可愛い」
「っ、っ、ぅ、ぅゎぁぁあああああああ!」
あっ……モニカちゃんが半狂乱になって部屋を出て行き、階段を駆け降りていった……
残るはカンナさん……視線を向けるとカンナさんの肩がビクッと跳ねた。
「もぅ……そうだカンナ、プレゼントがあるんだ」
「ぇっ、いや……あの……」
カンナさんの手首に猫のチャーム付きのレザー紐の腕輪を嵌めた。うーんちょっと可愛い過ぎだったか?
「ごめんね。ちょっと子供っぽかったかな?」
「い、いえ……」
「お詫びに、そうだなぁ……」
「ひぅっ──」
カンナさんの頭に手を添えて、ナデナデ……
「いつも頑張っているの、知っているよ。いいこいいこ」
「……ぅ、ぐすっ、ありがとう、ござい……うえっ、うぅっ……」
カンナさんが立てなくなったのかペタリと座り込み、泣きそうになりながら私を見詰め……私は見下ろす形になったので、どさくさに紛れておでこにちゅー。
そこでドタドタと階段を駆け上がる音が響いた。
「せんせっ! 何があったっ……の……えっ……」
「あぁ公爵様、ご機嫌よう」
「きゅ、きゅるるん!? えぇっ!? うそっ!?」
公爵が急いでやって来て見たのは、私が泣いているカンナさんをなでなでしている光景……後からモニカちゃんが恐る恐る部屋を覗き……私とカンナさんを見て硬直していた。
「せん、せ……やだ……カンナ撫でないで……胸が、痛い、痛いよぉ……うぇぇぇぇぇ……」
「わだじ、うれ、しいです、うっ、うぅ……」
「あの……きゅるるん? 説明、して?」
「いやぁ……クルルで宿泊研修に行こうと思ったのですが……これは、ダメみたいですね」
「やだぁぁぁ! やだよぉぉぉ!」
「ぐすっ、ぐすっ……しあわせ、です……」
「あのさ……とりあえず、きゅるるんやめて貰って良い? 見られて嬉しいんだけどさ……凄く嬉しいんだよ?」
「了解です。解除」
ぐるぐる眼鏡を掛けてクルルからルクナにチェンジ。
椅子に座って二人が落ち着くのを待つ事にした。
モニカちゃんは公爵にしがみついて離れず、カンナさんはずっと深呼吸していた。
「ぐすっ、ひっく、ひっく……」
「せんせ、朝から話題に尽きないよね……」
「すみません。クルルの時はこんな感じなので、つい……」
「はぁ……この調子じゃモニカの一人立ちはまだ先か……カンナも、大丈夫か?」
「ふぅ、ふぅ、大丈夫、じゃないですが……推しが増えました」
「あ、うん、そうだよねー。今度イシュらんとイルイルも来るんだろ? はぁ……怖い」
「私も怖いです。もしみんながウォルおかぁさんに会ったらとか、アズリーナ王女に会ったらとか思うと不安で不安で……」
「そんなに不安? あっもしかして前にアズリーナ王女と会っていたとか?」
「はい、その時はみんなアズリーナ王女とは知らずに親戚のおばちゃん程度の仲だったのですがね。セイラン辺りが暴走しそうで……ところでサーレス公爵からはまた何か言われています?」
モニカちゃんがじーっと見ていたので、微笑みかけるとプイッとされてしまった。
ちょっとショックなんだが……
「来ているよ。どうしても謝罪したいみたいで煩いから、氷神巫女様に頼めって言って突き放しているのは変わらないかな」
「そうですか……ウォルおかぁさんからすると、私と出会うきっかけを作ってくれたサーレスに感謝しそうですが」
「俺にはわからんがな。そろそろ出発の時間なんだが……モニカ、少しは落ち着いたか?」
「……ぅん」
「モニカちゃん、楽しみだねっ」
……またプイッてされた。
嫌われちゃったかな……しょぼん。




