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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
『灼陽が昇る時』第ニ章

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◆第ニ話『優れた技術者』

 次にハルを連れてきたのは、フォルツティア王国の本土――フォルツィアット島だ。


 事前に客人が来ると伝えていたこともあり、ルピナとユリアスが迎えてくれた。互いに紹介を済ませたのち、王城へ向かいはじめる。


「近くで見るのは初めてだけど……本当に圧倒されるね」

「そう言っていただけると我々も嬉しい限りだ。なにしろ我々フォルツティアの歴史が詰まった、いわば象徴のような建物だからな」


 城を見上げながら感嘆するハルに、ルピナが誇らしげに答えていた。


 そばではシャラが和やかな顔で周囲を見回している。初めて訪れたときもそうだが、周辺を彩る花々のほうに価値を見出しているようだった。


「ゼノさん、今日はどのくらいいてくださるのですか?」


 隣に並んだユリアスがそう訊いてきた。

 途端、ルピナが困ったような顔を見せる。


「ユリアス、嬉しいのはわかるが、もう少し場をわきまえろ」

「も、申し訳ございません」


 ユリアスはいまや一国の王。威厳を保つために相応の振る舞いが求められるのは当然のことだ。ただ、あまりにしゅんとしたその姿を前にしてか、注意をしたルピナ自身が怒気を抜かれていた。


 そんな2人の様子を静観していたハルが、興味深そうな顔を向けてきた。


「フォルツティアって、きみたちに加わったばかりなんだろう?」

「間もないとは言えるな」

「そのわりに、やけにきみを慕ってるんだね」


 自分のことを言われていると察したらしい。

 早々に立ち直ったユリアスが自ら口を開いた。


「ゼノさんは我が国を救ってくれた恩人ですから。それに色々なことに相談に乗ってくれますし……わたしにとっては兄のようなお方なんです」

「ような、っていうか、そのまんまな感じだね」

「はい。わたしも実際にそのようになっていただけたら、といつも思っています」


 ユリアスが無垢な笑みとともにそう口にすると、ルピナが慌てふためいた様子で「ユ、ユリアスッ」と声をあげた。そんな2人のやり取りを横目にしながら、ハルが無言で見つめてくる。


「……なんだ?」

「いや、なにもないよ」


 言いたいことはなんとなくわかったが、あえて触れないことにした。触れれば最後。いまも隣で面白くなさそうなシャラまでも巻き込んで面倒なことになりそうだったからだ。


「ガ、ガリアッドの訓練は見ていくのかっ? 今日は城の裏で訓練しているがっ!」


 話題転換をはかってか、ルピナが無駄に力のこもった問いかけをしてきた。ガリアッドは戦いでも主力となる部分だ。戦力を把握するためにも訓練を見ておいて損はないが、今回は客人がそばにいる。


「どうする? ハルがよければ行くつもりだが」

「せっかくだし、見学させてもらおうかな」



     ◆◆◆◆◆


「これは驚いたね……」


 フォルツティアット城の裏を訪れるなり、ハルが目を瞬かせていた。


 武器を使わずに対戦形式の訓練をしている5機のガリアッド。そのうちの1機が、残りの4機を相手に圧倒していたのだ。投げたり叩きつけたりと完全にほかを手玉にとっている。


「本当に見るたびにすごくなっている気がします」


 ユリアスがわずかに悔しげにそうこぼした。

 歳が近いこともあり2人は互いに意識しあっている。2人の成長が著しいのも、この関係のおかげかもしれないと思うことは少なくない。


「あれだけ動かせる人を見たのは初めてだよ」


 改めてハルが感嘆交じりにそう口にした。


「いまやあいつはガリアッド部隊で一番の乗り手だからな」

「ああ。我々フォルツティアも少なからず研鑽を積んでいたのだが……彼にはどうにも太刀打ちできないようだ」


 称賛も交えながら肩を竦めるルピナ。

 そんな彼女の言葉を聞いて、どういうことなのかとハルが首を傾げていた。


「搭乗者が最近ガリアッドに乗ったばかりなんだ」

「あ、あれでまだ初心者なのかい? ……すごい才能だね」


 ハルが心底驚いたように呆けている。そのさまからはほかの誰かに話したときよりも、凄さを明確に理解しているように感じられた。


「機械弄りが好きだと言っていたが、やっぱりガリアッドにも詳しいのか?」

「ま、どこか壊れてたらわかるぐらいにはね」


 途端に難しい顔をしたかと思うや、ハルが1機のガリアッドを指差した。


「あの一番動いてるガリアッド、ここに呼んでもらってもいいかな?」

「べつに構わないが、どうした?」

「ちょっと気になることがあってね」


 言ってしまえば、ハルはよそ者だ。さらに言えば、素性もいまだはっきりとわからない。本来ならば触れさせるわけにはいかないが……彼女が持つ独特の空気感に賭けてみたい気に駆られた。


 エルクのガリアッドを近くに呼ぶと、早速ハルが色々な動きを指示しはじめた。最初は両腕を同様に見ていたが、徐々に左腕に絞られた。最後には自らガリアッドによじ登り、腰に携えていた持ち前の工具で接合部を触りはじめる。


「ん~、やっぱりね。左腕の接合部がわずかにずれてる」

「エルク、違和感はあったのか?」

「は、はい。ただ整備の方々に点検もお願いしたのですが……」

「なおらなかったのか」


 整備してもらっている側とあって、あまり強く言えなかったのだろう。エルクは控えめに頷いた。ルピナが申し訳なさそうに顔を歪める。


「すまない。まだまだ習熟が足りないようだ」

「ま~、これはちょっと気づきにくいかもだから無理もないよ。――よっと」


 軽快に飛び降りたのち、額を手の甲で擦るハル。汚れがついてしまったのか。擦った場所が黒くくすんでいる。ただ、そんなことなどいっさい気にする様子もなく、楽しげに顔を綻ばせていた。


「修理できるところはあるんだよね? よかったらボクがなおすけど、どうかな?」



     ◆◆◆◆◆


「動きがよくなってます! ありがとうございます!」

「それはよかったよ! もしほかにも気になるところがあったら言ってくれ!」


 一旦、城内の格納庫に戻ったのち、左腕を外しての本格的な修理を行った。その後、再びエルクがガリアッドに乗り込んで動かしてみたところ、格段に動きがよくなったようだった。エルクもまるではしゃぐようにガリアッドを動かしている。


 修理した本人であるハルも満足気に頷いている。


「悪いな」

「いいよ。こっちは見学させてってお願いした身だからね。これぐらいはさせてよ」


 言って、快活な笑みを返してくれるハル。その姿からは苦労したといった様子は見られない。彼女にとってガリアッドの修理程度、本当に大したことではないのかもしれない。


「そもそもお頭は機械弄りさえできればなにもいらねぇみたいな人だからな。本当に気にする必要なんてねぇよ」

「おい、ゲンゴロウ。それじゃボクがおかしな奴みたいじゃないか」

「違うんすか?」

「このっ!」


 三つ編みを引っ張られ、「うがー!」と悲鳴をあげるゲンゴロウ。そんな2人の過激な触れあいを見て、ユリアスが目をぱちくりとさせていた。


「ほ、本当に賑やかな方たちですね」

「出会ってから、ずっとあの調子です」


 呆れ半分にそう答えるシャラ。もはやお馴染みとなった光景を前に場は和んでいたが、ルピナが1人険しい顔をしていた。


「……クラーラ」

「まだ決まったわけじゃない」


 あれほどガリアッドに詳しいとなれば、帝国と深い関係であることを疑ってしまうのも無理はない。実際、こちらもその可能性は1度考えた。ただ、シャラが大丈夫だと断定した相手だ。敵ではないと信じたい。


「あ~、大丈夫だよ。帝国と繋がってるってことだけはないから安心してくれ。詳しくは話せないけどね」


 ふいにハルが少し困ったような笑みを向けてきた。

 どうやら空気からこちらの疑念を察したらしい。

 ルピナがばつが悪そうにしたのち、頭を下げる。


「……すまない。客人に向ける目ではなかった」

「いいよ。こっちも疑われるような存在だってことは理解してるつもりだしね」


 気にしていないとばかりにハルは笑みを返したが、ルピナは自分を許せなかったようだ。少し思案するように難しい顔をしたのち、「クラーラ」とこちらに提案してくる。


「ニアン島を商業島にする件だが……まだ簡易ながら多少は〝息抜き〟としての機能を果たせるまでにはなったと思う。観光地としては不十分かもしれないが、ここよりは楽しんでもらえるかもしれない」


 つまり次の案内先にどうか、ということだろう。

 ここは素直にルピナの想いを汲んでニアン島へ向かうことにした。



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