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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
『灼陽が昇る時』第ニ章

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◆第一話『賑やかな客人』

「あの島ってもともとは監視島だったんだろう?」

「……信じられないっすね。あんなでけぇもんがあるなんて」


 併走する空車輪には、ハルとゲンゴロウが乗っていた。


 ――きみたちの島を見学したい。

 そんなハルの望みを叶えるため、ともにダナガの島々のもとへ向かっている。いまはちょうどシュボス中央塔が見えてきたところだ。


「これを建てた看守長がなかなかに自己顕示欲が強い奴でな。おかげで俺たちは快適な暮らしをさせてもらってる」


 元の持ち主であるデジャンは下衆な人間だったが、この一点においては感謝の気持ちで一杯だ。


 ハルは空車輪の後部座席から身を乗り出しはじめた。吹きつける風から目を守るように手を当てながら、ほかの島々の姿を確認している。


「それに思った以上に島が多いんだね」

「すべて、わたしたちが戦ってきた証デスネ」

「……ああ、勲章だ」


 ハルたちの乗る空車輪の向こう側には、グリッグとシギも飛んでいた。2人とも誇らしげな顔をしている。そんな彼らを見て、ハルはなにを思ったのか、どこか満足気に口元を緩めていた。


 間もなくしてシュボス島に辿りついた。

 中央島の4階に設けられた、発着場に停泊させる。


「あ、ゼノさんだ!」

「おい、みんな! ゼノが戻ったぞ!」


 周囲で作業していた者たちが声をかけてきたり、笑みを向けてきたりと思い思いの形で迎えてくれた。中央塔の下から手を振ってくれている者もいる。彼らに軽く手を挙げて応じていると、ハルから呆けた顔を向けられた。


「す、すごいね……なんていうか島総出で出迎えられてる感じだ」

「ゼノさんはわたしたちにとって特別ですから」

「……ああ、雷帝は俺たちの象徴だ」


 そう答えるグリッグとシギ。

 思わず反応に困っていたところ、隣を歩くシャラが楽しげに顔を覗いてくる。


「ゼノが照れてます」

「べつにそんなんじゃない。……あ~、悪い。ヴィンスとクァーナ。レイカを指揮所に呼んでくれるか?」


 誤魔化しがてら近くで荷運びをしていた者に声をかけたのち、ゼノは先導する形で上階へと向かった。



     ◆◆◆◆◆


「つまり聖王の予言は当たったってことだ」

「わかっちゃいたが、ほんとおっそろしいな」


 シュボス中央塔の指揮所にて。

 ヴィンスやレイカ、クァーナに、ハルたちとの出会いから交信玉でソラール王国の宰相と接触をはかったことまで説明した。


「で、これがその交信玉ってわけだ」


 机に置かれた交信玉をヴィンスが触れずに凝視していた。レイカもまた興味津々といった様子だが、難しい顔も覗かせている。


「これで遠くの島にいる方と話せるなんて……不思議ですね」

「ああ、俺たちも使うまでは信じられなかった」

「でも、いったい誰がこんなものを作ったんだろうね」


 クァーナがそう疑問をこぼした、瞬間。


「……さ、さあね。ボクたちも色々あってたまたま手に入れただけだから。な、ゲンゴロウ!?」

「あ、ああ、そうです! なんやかんやあって、俺たちの手に!」


 これほど誤魔化すのが下手な者たちを見たことがない。とにもかくにも、いま入手先はさほど重要ではない。それをレイカもわかっているようで早々に話を戻した。


「いずれにせよ、どうにかしてそのソラール王国の宰相から信頼を得なければなりませんね」

「ああ。俺たちの状況が状況だ。連合国に余裕がないことも考えれば、あまり悠長にはしていられない。各自で案を考えておいてくれるか」


 各々から了解の意が返ってくる。

 そうしてハルたちの紹介も兼ねた会議が一段落したときだった。


「し、失礼します……っ」


 可愛らしい声が聞こえてきたかと思うや、ミリィが入ってきた。どうやら茶を運びにきてくれたらしい。緊張もあってか、少し危なげな足取りでそばまで来ると、全員に茶を配ってくれた。


「あ~、ミリィ。ひとつ訊きたいことがある」

「う、うん?」

「その格好はなんなんだ?」


 ミリィはメイド服を着ていた。

 どんな服を着ようが彼女の勝手だ。しかし、他者の意思が介在したことは疑いようがなく、訊かずにはいられなかった。


 ミリィが恥ずかしげにぼそぼそと話しはじめる。


「ゼノさんの役に立ちたくて。こういうことが得意そうなスフレさんに相談したら、この服を着れば万事解決です、って言われたの」

「うん。あたしはスフレさんはいい仕事をしたと思う」

「彼女の言うとおり万事解決ですね」


 クァーナとレイカが揃って力強く頷いていた。

 ただ、彼女たちの称賛を得てもミリィは笑みを作らなかった。スカートをぎゅっと握りながら窺うような目を向けてくる。


「変、かな?」

「いいや、似合ってるぞ」


 瞬間、ミリィがぱあっと顔を明るくした。

 その姿を見たシャラが微笑みかける。


「よかったですね、ミリィ」

「うんっ」


 歳相応のあどけなさと無垢さが窺えるいい笑みだ。ヴィンスやクァーナからにやにやと笑われてなかなかにむず痒いが……不思議と悪い気はしなかった。


「ね、彼女は?」


 ハルから問われ、紹介がまだだったことを思いだした。自分で紹介できるかを目線で問いかけてみると、ミリィがこくりと頷いた。


「ミリィ・クラーラ、です……」

「クラーラって……もしかして」

「ああ、俺の娘だ」


 途端にハルが目を瞬かせ、周囲の女性たちの顔を見はじめる。が、誰からも面影を見出せなかったのか、ついには眉間に皺を作りながら首をかしげてしまった。


「ボクには難しい問題みたいだ」

「養子みたいなもんだ。といっても、俺は本当の娘となんら変わりないと思ってる」


 言って、ミリィに微笑みかけた。過ごした時間はまだ少ないが、気持ちだけではすでに本当の家族と同じぐらい大切に思っている。人前とあってか、はにかむ形ではあったが、ミリィも嬉しそうな顔で迎えてくれた。


 ハルが「なるほど、そういうことか」と納得しつつ、続ける。


「にしても、メイド服ってあんまり見る機会がなかったけど、なかなか可愛いものだね。ま、ボクにはとうてい似合いそうもないけど」

「いいや、お頭なら似合うに決まってる!」

「や、やめろゲンゴロウ! 人様の前で恥ずかしいだろっ!」


 2人の賑やかなやり取りに周囲に笑いが起きた。


 まるでずっと前から一緒にいたかのように、すっかり場に溶け込んでいる。ハルたちなら招き入れても問題ないと思っていたが、むしろ仲間たちにいい影響を与えてくれていた。


 ゼノは立ち上がったのち、いまだ顔が赤いままのハルに声をかける。


「ほかの場所も見るだろ?」

「ああ、ぜひともお願いするよっ」



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