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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
『灼陽が昇る時』第一章

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◆第九話『連合国との交渉』

「相手の存在を意識しなければ、交信術は使えないのですが……」

「交信玉にその必要はない。ただ、玉に触れてアストラを流すだけで起動するよ」


 交信玉を前にしたシャラに、ハルがそう説明する。


 すでに準備は終わり、いつでも開始できる状況となったが、ひとつだけ気になることがあった。ゼノは細めた目を部屋の隅へと向ける。


「お前たち、どうしてそんなに離れてる?」


 ハルとゲンゴロウが揃って距離を置いていた。

 そればかりか鍋を被ったり、布を羽織ったりしている。


「あ~、ほら。ボクら、ちょっとわけありでソラールを出てるからさ」

「察しろよ。俺たちの風貌からよっ」


 ゲンゴロウだけならならず者といった風貌で想像はしやすいが、〝俺たち〟と言われると、ハルも含まれることになる。……まるで想像できなかった。


 彼女たちの事情は気になるところだが、これから始めるのはダナガとソラール王国の交渉事だ。ハルたちがいようがいまいが支障はない。


 ゼノはシャラに頷いて開始を促した


「聞こえますか」


 アストラを流したことにより、交信玉がうっすらと青い光を発しはじめた。シャラがアストラを使った際、その輪郭に生まれる光膜と同じものだ。


 第一声の呼びかけからしばらく待ってみたが、反応はなかった。間を置いて、いま一度シャラが声をかけてみるが、やはり返事はない。


「なにも見えないし、誰も応じないな」

「本当に通じているのデショウカ?」

「……嘘だったとしたら、さっきの金を返してもらう」


 ついにはシギがしびれを切らしてハルを睨みつけていた。


「ま、待って待って! 相手にもアストラ使いがいないとなにも見えないし聞こえないんだよ」

「つまり、いまはこっちの情報だけが相手に伝わってるって状況か」

「そういうこと。だからまずは相手に気づいてもらわないとなにも始まらないんだ」

「もう1つの交信玉の持ち主は、これの使い方を知ってるのか?」

「さ、さあ。そもそもソラールのどこにあるのかもわからないし」


 言いながら、ばつが悪そうに目をそらすハル。

 彼女は〝ソラール王国〟にあるとは口にしただけで嘘は言っていない。


「……倉庫に置かれてる可能性もあるということデスカ」


 まなじりを下げながら、そうこぼすグリッグ。

 そんな中、シャラが交信玉の土台を見つめながら言う。


「占星石が多く使われていますし、そんな扱い方をするとは思えません」

「……たしかに。美術品として飾られていてもおかしくはなさそうだ」


 だとすれば高貴な者が持っている可能性も高い。ならば、いまするべきなのは、そういった者に通じていると信じて、声をかけることだ。


「俺はゼノ・クラーラ。かつて帝国と争って破れた者だ。だが、もう一度立ち上がり、新しい仲間たちと帝国相手に戦っている。ただ、帝国は強大で俺たちだけでは厳しい戦況だ。叶うならば、いまも帝国に抗い続けているという連合国と協力関係を結びたい。もし賛同してくれるなら返事をくれ」


 最後に、この玉を使って会話をするにはアストラ使いが必要なことを伝えた。自身の知名度を使うのはあまり好きではないが、この場合はやむを得ない。


 シャラが不安げな顔で見上げてくる。


「来て、くれるでしょうか」

「仮に聞こえていたとしたら、きっと来るはずだ。相手が本当に国を生かしたいと思ってるならな」


 そうであって欲しい。でなければ、これからダナガの歩む道がより険しいものとなることは間違いないからだ。


『――聞こえていますか』


 ふいに耳に届いた声は、たしかにこの場にいる誰のものでもなかった。全員が驚愕した様子で顔を見合わせたのち、交信玉にいま一度注目した。ゼノは、代表してその声に反応する。


「ああ、聞こえている」

『無事に繋がったようですね。返事が遅くなってしまい申し訳ありません。なにぶん初めて使うもので手間取ってしまいました』


 話しているうちに、相手側の姿が交信玉に映し出された。初老の男だ。皺が深く、厳しさの中にもどこか柔らかな印象を感じられる。背景に関してはぼやけていて、赤色が多く使われていることぐらいしかわからない


「早速で悪いが、あんたが誰なのかを知りたい」

『リューキ・リュイエス。ソラール王国の宰相を務めているものです』

「……こいつは大物が来てくれたな」

『それだけ、この交信玉が特別なものだということです』


 占星石がふんだんに使われているため、高貴な者が持っているかもしれない。そう予想はしたが、まさかこれほどの者にいきなり当たるとは。幸先のよさに仲間と揃って笑みを浮かべてしまうが、相手――リューキの険しい顔によって早々に制された。


『あなたのこと。そしてあなたの目的はわかりました。ただ、これからお話しをする前にひとつだけ質問をさせて頂きたい。あなたがたは、この交信玉をどこで手に入れたのですか?』


 入手先は、いまも部屋の隅で隠れているハルだ。

 ちらりと横目で窺ってみたところ、全力で首を振る彼女が映った。


「悪いが、話すことはできない。そういう決まりなんだ」

『そう、ですか』

「食いついてこないんだな」

『そもそも訊いたことすら、わたしにとっては許されざることでしたから』


 知らなくてもよかった質問をした、ということだろうか。よくわからないが、交信玉が特別なものであることは理解できた。いずれにせよ本題から外れたことだ。


 ゼノは早速とばかりに話を切り出す。


「連合国は外じゃ滅ぼされたものだとされてる」

『予想はしていましたが、やはりそうでしたか』

「俺もフォルツティアが仲間に加わるまでは、そうだと思っていた」


 あえてその名を出したが、予想どおりリューキが食いついた。


『フォルツティア王国が仲間に……? それは本当ですか?』

「帝国にハメられそうになったところを偶然助ける形になってな。いまは俺たちと行動をともにしている」


 フォルツティアは由緒正しい国だ。多くの周辺諸国に救いの手を差し出し、信頼を勝ち取ってきた国でもある。帝国に落とされて久しいが、培った格というものはまだ残っているようだった。


『どうやらわたしが思っている以上に大所帯のようですね』

「少なくとも俺が帝国と戦っていた2年前と同じか、それ以上の戦力にはなってる。合流できれば帝国が相手でも充分に戦えるはずだ」

『合流……考えはあるのですか?』

「俺たちは南要塞島に攻撃をしかける。あわせて連合国にも攻勢に出てほしい」


 要塞島を躱して連合国側へ向かおうにも、すぐに追いつかれて裏をとられるのは必至。おそらく、これ以外の策はない。


『我々を睨んでいる帝国軍をそちらに向かわせないように、ですか』

「ああ、ただ牽制するだけで構わない」


 いまやこちらにはルピナという13輝将級の戦士がいる。南要塞島の戦力だけなら、苦戦は強いられるものの、おそらく突破はできる。


 だが、連合国を睨んでいるという帝国軍の中には13輝将も含まれているという。それらが南要塞島に来れば突破は難しいものとなる。……すべては連合国次第だ。


『申し訳ないのですが、我々は動くことはできません』

「……なぜだ?」

『簡単な話です。あなた方を信用していないからです』


 とんだ食わせ物だ。まさかここにきてその言葉を放たれるとは思わなかった。シャラやグリッグ、シギたちも同様に困惑している。


『仮にこの交信が帝国の手によるものであったら我々連合国は終わりです』

「そんなわけはアリマセン! わたしたちの家族は帝国に殺されマシタ! そんな相手のために動くなんてこと、するわけアリマセン!」


 珍しくグリッグが声を荒げていたが、感情に任せた叫びが通じる相手ではなかった。リューキは眉ひとつ動かさずに、じっとしている。


「あんたらもすでに限界が近いと聞いている」

『たしかにそうかもしれません。ですが、だからといって真偽の不明な情報をもとに動くわけにはいきません』


 たしかにそのとおりではある。だが、こちらは〝真実〟であることを知っている状況だ。もどかしいことこのうえなかった。


「そっちの考えはわかった。ただ、こっちも簡単に諦められるほど、余裕があるわけじゃない。改めて話の場を設けたい」

『……また、偶然にもこの交信玉の声が聞こえたときは応じましょう』


 その言葉を最後に、リューキの顔が消えた。

 シャラが交信玉から手を放したのを機に、ゼノはため息をつく。


「思った以上に保守的だな」

「わたしにとって憧れの国デシタ。それナノニ……」


 グリッグはひどく失望しているようだった。

 どうやら彼の想像するソラール王国とは、かけ離れた対応だったようだ。


「ま、ソラールは昔からあんな感じだからね。何事も慎重に動いて……気づいたときには取り返しのつかなくなることなんて少なくない。そんな国だ」


 呆れ気味にそう語るハルからは悲しさや寂しさといった感情が窺えた。ただ、失望している様子はなく、むしろどこか慈しんですらいるように感じられた。


「なにはともあれ、あの宰相の信頼を得られないとですね」

「……それが難しい」


 シャラが纏めた言葉に、シギが難しい顔で唸る。


「ひとまずこの件はダナガに持ち帰ろう」


 ここでうだうだと悩んでいるよりも、考える頭を増やしたほうがよっぽど効率的だ。ゼノはいまも部屋の隅で待機中のハルに向かって問いかける。


「ハル、交信玉を借りられないか?」

「べつにいいよ。っていうか、もうきみたちにあげるよ」


 あまりにあっさりとしていたこともあり、一瞬聞き間違いかと思ってしまった。ゼノはシャラやグリッグ、シギと揃って唖然としてしまう。そんな中、ただひとりゲンゴロウだけは「お頭っ!?」と焦っていた。


 このゲンゴロウの反応。また先のリューキ・リュイエスも口にしていたが、交信玉が特別なものであることは間違いないはずだが……。


「大切なものなんじゃないのか?」

「それなりには。でも、さっきお金を受け取っちゃったしね。それに、さ。交信玉を譲る代わりといっちゃなんなんだけど、ひとつお願いがあるんだ」


 言うやいなや、ハルが期待に満ちた目を向けてきた。


「きみたちの島を見学したいんだ。いいかな?」



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