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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
『灼陽が昇る時』第一章

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◆第六話『グリッグの成長』

「いったい何者なんだ、あいつ……!」

「け、剣が見えねえとかどうなってんだっ!」

「おい、もう5歩目だぞ!」


 時間が経つにつれて大きくなっていく周囲のどよめきと歓声。矢斬りの1歩目を難なく突破したグリッグが、さらに歩を進めていき、ついに4歩目も突破した。


「や、やりやがった!」

「しかもまだ余裕があるぞ……!」

「こいつは、もしかするともしかするかもしれねぇ!」


 盛り上がりを見せる舞台に釣られてか、さらに多くの観衆が集まってきていた。高まる期待を乗せた声援を受け、グリッグが照れつつも律儀に礼を返している。そんな仲間の姿を前にしてか、シャラとシギが少し誇らしげな顔を見せていた。


「すごいですね」

「……あいつ、また腕を上げたみたいだ」

「そりゃ、あんなにも死線をくぐってきてるからな」


 日々の鍛錬もあるが、それ以上に帝国と争う日々がグリッグをさらに強くさせているのは間違いないだろう。


「おい、もうやめといたほうがいいんじゃねえか? ここからはレベルが違う。以前に挑戦した奴だって回避が間に合わなくて死んでるぐらいだ」


 進行役の男がそうグリッグに提案していた。

 一見、親身にも見えるが、焦っているのは明らかだ。そんな彼の考えは観衆にもバレているようで、あちこちからヤジが飛びはじめる。


「なにいってんだ! まだまだいけるだろ!」

「成功されたら大損するからってビビってんのか!?」

「くそ、あいつら余計なこと言いやがって……」


 観衆の声に気圧されて進行役の男も諦めたようだ。苛立ち混じりにグリッグへと視線を向け、続行するかどうかを求めていた。


「まだイケマス」

「ちっ、わかったよ。死んでも知らねぇからな!」


 進行役の男の舌打ちとともに、矢斬りが再開される。もとより5歩目でも、まだ余裕があった状態だ。進行役の男が危惧していた〝死〟なんて言葉がちらつくことなく、9歩目を突破。そしてついに――。


「さ、最後までいってしまいましたね」

「グリッグならいけるのはわかっていたが、思った以上に余裕があったな」

「……当然の結果」


 シャラは驚愕とともに、シギは得意気にそう口にしていた。

 観衆たちも10歩目突破者を観るのは初めてだったようで大いに盛り上がっている。そんな中、ただひとり――進行役の男だけが唖然としてうな垂れていた。


「あ、ありえねぇ。俺だって8歩目が最高だってのに……フェザリアでも使わなけりゃ、あんなの反応できるわきゃ――」


 なにやらはっとなった進行役の男が、「そうか、そういうことか!」とひとり声をあげておかしな笑いをあげはじめた。かと思うや、グリッグへととんでもないことを口にした。


「お前、フェザリアを使ったな?」

「なにを言っているのデスカ。そんなもの、いっさい使ってイマセン」


 そう答えたグリッグは心底困惑しているようだった。無理もない反応だ。なにしろ彼は本当にフェザリアを使っていない。観衆たちもフェザリア特有の光を目にしていないからか、進行役の男を批難しはじめる。


「払うのがいやだからって往生際が悪いぞ!」

「そうだそうだ! さっさと金を渡せ!」

「うるせぇ! お前たちもおかしいと思わなかったのか!? あんな近い場所から撃たれたもんに反応できるわけねぇだろ! こいつは、俺たちに気づかれないぐらい微弱なフェザリアを使ってたんだよ! とんだ食わせ物だぜ!」


 完全なでたらめだが、その言い分を信じてしまう観衆たちも少なからずいるようだった。意見が二分され、周囲に緊張が走る中、進行役の男がしたり顔を見せる。


 できれば静観したいところだが、このままでは気分が悪い。なによりグリッグを送り出した手前、放置するわけにもいかない。ゼノは1歩前へと出て、進行役の男をねめつける。


「フェザリアなしじゃ無理だって決めつけてるくせに、10歩目を用意してる。それこそおかしな話じゃないのか?」

「そ、それは……今回みたいに不正者を見つけるためだ!」

「嘘です」


 シャラもまた隣に並ぶ形で前に出てきた。彼女の青い瞳は、心の奥底まで見透かしているのではないか、と思うほど澄んでいる。そんな目に見つめられ、進行役の男も良心の呵責に駆られたか、わずかにうろたえていた。


「う、嘘じゃねえよ! てめぇらっ、不正したってのにこれ以上ぐちぐち言ってくるってんなら、わかってんだろうなっ!?」


 進行役の男が腰に携えた鞘からカタナを抜き、切っ先を向けてきた。


「……やるなら、やる」


 シギも臨戦態勢でそばまで出てきた。

 すでにやる気満々なようで短剣を抜いて構えている。


 途端に殺伐とした空気が流れはじめるが、観衆は距離をとっただけで逃げようとはしなかった。むしろ先ほどよりも盛り上がってすらいる。場所が場所なだけに、こういった揉め事にも慣れているのだろう。


 正直、相手を制圧する程度なら造作もない。ただ、このアストス島に来たのは、〝連合国と連絡をとるため〟だ。悪目立ちすることで、目的達成に支障がきたすような展開だけは避けたい。


 面倒なことになったな、と思いながら対処を考えていた、そのとき。


「おい、ゲンゴロウッ!」


 どこからか可愛らしい声が聞こえてきた。



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