◆第九話『新しい家族』
シュボス島の中央塔指揮所にて。
テムザス島での出来事を仲間たちに簡潔に説明。
その後、ミリィを紹介したのだが――。
「可愛い~っ」
「こいつぁ……将来美人になるの間違いないねぇな」
クァーナが興奮したように声をあげ、ヴィンスが神妙に頷いていた。ほかの者たちもミリィの愛らしさに感嘆している。
ただ、レイカだけは妙に顔をこわばらせていた。
「あの、この子はいったい……?」
「ゼノさんの隠し子、デショウカ」
「そ、そうなのですかっ?」
グリッグが示した見解に、本気でレイカが反応していた。
「なわけないだろ、グリッグの冗談だ」
「ハハハ、こう見えても冗談は得意ナンデス」
そのわりに信じているのはレイカだけだったというのは、触れるべきではないのだろう。
「先ほどの話にも出てきた、聖王が気にかけていたという強いアストラの持ち主か」
そう訊いてきたのはルピナだ。
ああ、とゼノは頷きつつ、いまも背に隠れるミリィを見やる。
「これからここで面倒を見ることにした」
そう伝えると、仲間の多くが驚いたように目を見開いていた。
いまでこそ落ちついているが、いつ帝国が襲ってくるかわからない環境だ。そんな場所にか弱い少女を連れてきたとなれば、彼らのような反応をするのも無理はなかった。
ただ、それを承知のうえで手を伸ばした。
ミリィもまた自身の意志で手を掴んだ。
少なくとも互いに後悔はしていないことはたしかだった。
「ここにいるのは俺の仲間だ。挨拶できるか?」
「……は、はいっ」
いきなり見知らぬ場所に連れてこられたうえに、周りには見知らぬ大人達が集まっているのだ。人見知りでなくとも緊張するのも無理はない。だが、ミリィは意を決したように、前に出てきた。
「ミリィ、です。よ、よろしく……お願いします」
たどたどしくはあったが、相変わらず10歳程度の少女とはとても思えないほどしっかりとした挨拶だった。
「しっかりとした子だ」
「だな、俺がこんぐらいのときは、鼻水垂らしてぼーっとしてたぜ」
ルピナに続いて、ヴィンスが感心したように頷いていた。
ほかの仲間たちも同様の反応を見せている。
だが、ミリィにとっては納得できない出来だったらしい。悔しそうに隣まで戻ってくると、俯きながらぼそりとこぼす。
「……なにも言えなくて、ごめんなさい」
「充分だ。これからここで暮らすことになるんだ。自然と話したいことも出てくる」
急いで溶け込む必要はない。
それにここには気さくな人間が多い。
きっとミリィも本来の自分を出せるようになるに違いない。
「シャラちゃん、ちょっと寂しいんじゃない?」
「なにがですか?」
そばではクァーナのシャラ弄りがまた始まっていた。
悪戯っ子のような笑みを浮かべつつ、クァーナが続ける。
「いや、ゼノをとられちゃって」
「べつにそんなことはないです」
「ほんと~?」
いつもならシャラが珍しい動揺っぷりを披露する場面だ。しかし、今回ばかりはまったく動じていなかった。
「本当だと思うぜ。なにしろ進んで自分から乗せたぐらいだからな」
「え、あのシャラちゃんがゼノ以外を乗せた……?」
クァーナが心底驚いていた。
ほかの者たちも信じられないといった顔をしている。
ミリィがひとり事情がわからずに混乱している。
「あの……?」
「シャラは俺以外を絶対に乗せようとしないんだ」
その話を聞いた途端、ミリィが焦りはじめた。
きっと〝悪いことをした〟と思ってしまったのだろう。慌ててシャラのほうへといまにも泣きそうな顔を向ける。
が、機先を制するようにシャラがミリィの頭に手を置いた。親指で前髪を撫でながら、優しい声音で告げる。
「いいんですよ、ミリィは特別ですから」
「……シャラさん」
やはりシャラもミリィに特別な感情を抱いているようだ。ミリィもそれを感じとったか、すぐに心を落ちつかせていた。
そんな2人の微笑ましい光景を前にしてか、場の空気も和やかなものになっていた。
「にしても、こうしてみると親子みたいだな」
「ゼノとシャラちゃんが夫婦で、ミリィちゃんはその娘って感じかな」
ヴィンスの言葉に乗っかるクァーナ。
親子という言葉を聞いて、ふと思いついた案があった。
「ミリィ。お前が良ければ俺の……クラーラを名乗らないか?」
そう問いかけた、瞬間。
仲間たちが騒然としていた。
オルクスが恐る恐るといった様子で口にする。
「ま、まさかとは思うが、その子を嫁に迎えるってことか?」
「そんなわけないでしょうっ。さ、さすがに娘として、ですよね」
レイカが即座に切り捨てつつも、不安そうな顔を向けてくる。
言い方のせいか、どうやら誤解を与えてしまったようだ。
「ただ、家族になれればいい。そう思っただけだが……年齢的にもそうなるか」
ミリィはいまだ怯えている。ゆえに明確な形として〝家族〟という居場所があれば、少しでも安心できるかもしれないと思った。
「どうだ、ミリィ。いやなら断ってもいいんだぞ」
「い、いやじゃないですっ! ただ、いいのかなって……」
「いいもなにも、俺から言い出したことだ」
「だ、だったら……ミリィもそうなれたら、嬉しいです」
「なら決まりだ」
ミリィの頭を軽く撫でたのち、仲間たちの顔を見回した。
「みんな、これからミリィは俺の娘として扱ってくれ」
個人的な問題とあってか。
とくに反論もなく受け入れてくれた。
「了解した。ならば、わたしの娘も同然ということだな」
「うわっ、ルピナちゃん、意外と積極的」
クァーナが口を押さえて大げさに驚いてみせた。
少しの間、きょとんとしていたルピナだが、やがて意味を理解したようだ。その顔を真っ赤に染め上げた。
「い、いやそういう意味で言ったわけではっ! ただ、以前にクラーラが仲間は全員が家族だと言っていたからであって! 決して他意はないっ、本当だ!」
「大丈夫ですよ、ルピナさん。わたしはわかっていましたから」
「レイカさん、そんなこと言ってるわりにさっき思い切り焦ってたよね」
「ク、クァーナ!」
ルピナもレイカも見事にクァーナの餌食になっていた。それを見て、また男たちも笑い声をあげる。最近では見慣れた光景だ。
「悪いな。騒がしくて」
苦笑しつつ、ミリィに声をかけようとする。
と、彼女がなにやら下向きながら、「……ミリィ・クラーラ」とぼそぼそと呟いて嬉しそうに口元を緩めていた。どうやら思った以上に喜んでくれているようだ。
「ミリィ、これからよろしくな」
今日、この日。
またひとつ、守るべきものが増えた。
そう強く思えるほどに、向けられた彼女の笑みは愛らしく、また陽のように眩しかった。
「……はいっ!」




