◆第七話『軋轢』
グウェル中央施設の発着場にて。
5、60人程度の集団が半々にわかれて対峙していた。
一方は先日、囚人島コゼトから解放した者たち。
もう一方はフォルツティア兵だ。
ルピナもいるが、少し距離をとって静観している。
両者の間にはヴィンスやオルクスの姿も見える。
ゼノはテムザス島に向かっていた仲間とともに下り立ったのち、ヴィンスたちに声をかける。
「2人も来てたのか」
「おぉ、ゼノ。俺は喧嘩程度さしときゃいいって思ったんだが」
「さすがにこの規模のを放置するわけにもいかないからな」
ヴィンスに続いてオルクスが呆れたように言った。
いまも睨み合いが続いて険悪な雰囲気だが、これでも落ちついたほうなのだろう。
「ルピナ、事情を説明してくれるか?」
そう問いかけると、ルピナがばつの悪そうな顔を見せた。一瞬、目をそらしたのちに、とつとつと彼女らしくない声で話しはじめる。
「頼まれていたとおり我々の中に組み込む形で部隊分けをしようとしたのだが……」
ルピナはそこで言葉を詰まらせてしまう。
ただ、続きを催促する必要はなかった。
「こいつらが俺たちの言うことをまるで聞かなかったんだ!」
「それだけじゃない。ルピナ様を売国奴なんて……っ」
いまやフォルツティアの王はユリアスだが、苦しい属国時代を引っ張ってきたのはルピナだ。いわばフォルツティアにとっての象徴。そんな彼女を貶めたのだ。フォルツティア兵が怒るのも無理はない。
「帝国の靴を舐めてた奴らにどうして俺たちが従わなきゃならねんだよ」
「大体、ほとんど交戦もせずに降伏した女が王だった臆病国家だろ? この先、大事なときに逃げ出すんじゃねえのか」
コゼトの元囚人たちが嘲るように言った。
見下しているのがありありと伝わってくる。
「ルピナ様がどのようなお気持ちで決断されたかも知らずに……っ」
フォルツティア兵たちがさらに怒りをあらわにする。
「ひどい、ですね」
「これは怒るのも無理はないね……」
シャラとクァーナも不快感をあらわにしていた。
そばではグリッグとシギもわずかに苛立っている。グリッグは穏やかに「黙らせマショウカ?」と提案し、シギが「……良案だ」と賛同していた。
ただ、当のルピナは怒気をまとっていなかった。
むしろ自分のせいで揉め事になったと思っていそうだった。
「それで、お前たちの要求は?」
コゼトの元囚人たちに問いかけた。
彼らはすでに考えをまとめていたらしい。
頷き合ったのちに、代表して1人の男が口にする。
「俺たちだけの部隊設立だ」
受け入れてもらえると思っているのか、その顔は自信に満ちていた。
彼らがいたのは、ダナガと同じように帝国に歯向かった者たちが収容された島だ。帝国と戦うためなら、団結できる者たちが集まっていると思ったのだが……。
どうやらダナガが特別だったようだ。
ゼノはため息をついたのち、代表者を睨みつける。
「指示を聞けない奴らで部隊を作るなんて面白い冗談だな」
「いや、だからそれは指示を出す奴が――」
「ルピナにお前たちを任せたのは俺だぞ」
こちらの言葉に代表者が押し黙った。
「大体、フォルツティアを仲間に迎えたのも俺の判断だ。つまり、お前らの不満はすべて俺に向けられるべきだ。文句があるならいまここで俺に直接言え」
フォルツティア兵を背にする形で代表者の前に立った。その後ろにいるたちも含め、〝文句〟を口にするよう強要するが、誰一人として怯えて口を開く気配がない。
「……31人か。残念だが、仕方ないな」
「し、仕方ないって……なにが」
「決まってるだろ。お前たちを切り捨てる」
途端、コゼトの元囚人たちの間に動揺が走った。
代表者が乾いた笑みを浮かべながら懇願してくる。
「ま、待ってくれ。冗談だろ……? ただ不満を言っただけだぜ……っ」
「不満じゃないだろ。悪いが、仲間を貶めるような奴はいらない」
ゼノは戦斧を抜くなり振り上げた。
ヴィンスやクァーナから諌めるような声が飛んでくるが、構わずに振り落とす。巨大な刃が、恐怖に染まった代表者の顔面を両断する――。
直前、甲高い音が響いた。
間に差し込まれたのは1本の長剣。その緑光をまとった鈍色の刃に先には、黄金の髪で縁取られた凛々しい顔が映っている。
「どういうつもりだ、ルピナ? こいつらはお前を貶めたんだぞ」
「……わかっている。だが、ここで彼らを見捨てれば、わたしはもっと後悔する」
ルピナは瞳に強い意志を宿しながら続ける。
「頼む、クラーラ。彼らのことは、わたしに任せてもらえないだろうか」
彼女は帝国に屈したことを悔いていた。
同時にあの選択が正しいとも信じたいようだった。
どちらの感情も呑み込み、前へと進むため。
これは彼女にとっては必要な選択なのだろう。
「わかった」
ゼノは戦斧を引いて背負いなおした。
助かったとばかりに安堵するコゼトの元囚人たち。
そんな彼らを横目に見つつ、ルピナに宣言する。
「ただし、次にこいつらが問題を起こしたら容赦なく始末する。いいな?」
「……承知した」
本当に損な性格をしている。
だが、そんな彼女だからこそ仲間にしたいと思えたのも事実だ。
コゼトの囚人たちをひと睨みして牽制したのち、ゼノはその場をあとにした。




