◆第四話『テムザス島』
ゼノはシャラに乗ったままの状態でシュボス北端に下り立った。
視界には、幾人かの仲間たちが集まっている。
グリッグにシギ。クァーナにレイカ。そしてルピナだ。
「大丈夫だ。ほかに島はなかった」
方針決定後から3日かけて無事にテムザスの近くに到着。
いましがた周辺の空域を見回ってきたところだった。
以前、バナトリエ島を訪れた際、付近に待機していたラドゲイの島を見逃してしまったことがあった。あの過去を繰り返さないため、入念に確認してきたので間違いはない。
「帝国兵は?」
クァーナがわずかにこわばった顔で訊いてきた。
「少なくとも纏まった戦力はいないはずだ」
「ってことは上陸決定ね」
「ああ。予定どおり視察に行ってくる。グリッグ、シギ。出発の準備だ。すぐに出るぞ」
上陸メンバーの選考理由は単純。
荒事になっても彼らなら多少は融通が利くからだ。
「了解デス。ってシギ、操縦はわたしがシマスッ」
「……俺もあれから上達した。任せろ」
「いえ、上達の度合いが低すぎマス! いい加減、気づいてクダサイッ」
結局、グリッグが折れたようだが……。
大柄な男と小柄な男が揉みあう姿はなかなかに面白いものだった。
そんな2人の微笑ましいといっていいのかわからない光景を横目に見つつ、ゼノは見送りにきた仲間のほうへ向きなおった。堂々とした立ち姿に黄金の髪を流した女性――ルピナへと目を向ける。
「ルピナ、みんなを頼む」
「ああ、任せてくれ」
ルピナは佩いた剣の柄に手を当てながら、力強く頷いた。
いつ帝国の急襲があるとも限らない状況だ。
単独で13輝将に対応できるルピナの存在はなにより頼もしかった。
「お気をつけて……!」
レイカからやけに力のこもった声が飛んでくる。
ゼノは頷いて応じつつ、シャラの首を撫でた。
「それじゃ行ってくる。シャラ、頼むっ」
◆◆◆◆◆
テムザス島の発着場はこじんまりとしていた。
輸送船もそう多く停められない。ガリアッドが2体も運び込まれれば、それだけで埋まってしまいそうな規模だ。
ただ、配された警備兵は決して少なくなかった。
「白銀の翼竜に、でかい斧……」
「もしかして《雷帝のクラーラ》……?」
風銃を構えて近寄ってきたのは10人程度。
全員が驚きと怯えを目に宿している。
シャラが人の姿に戻り、隣に並んでくる。
「さすがに知られているみたいですね」
「どのみち隠すつもりはなかったが、挨拶する手間が省けたな」
本能的に敵わないと感じているのだろうか。
こちらが1歩前に出ると、警備兵たちが2、3歩下がった。腰が引けた状態で、揺れる銃口を向けてくる。
「ど、どうしてこんな島に……!?」
「べつにお前たちをどうこうするつもりはない。俺たちは――」
敵意がないことを示しつつ用件を伝えようとした、その直後。
騒がしい声が背後から聞こえてきた。
「シギッ、減速! 減速してクダサイッ!」
「……くっ、踏むほうを間違えたっ」
一緒にシュボスを発ったはずのシギたちがようやく到着したようだ。彼らの空車輪が頭上をとおりすぎ、警備兵たちの中に突っ込んでいった。
警備兵たちが悲鳴をあげながら全力で四散する中、空車輪が下部を大胆にこすらせながらすべるように着陸を果たす。
「……なんとかなった」
「ど、どこがデスカッ」
安堵するシギを本気で怒鳴るグリッグ。
怪我人は出なかったが、なかなかに派手な着地だった。その証拠に警備兵たちが恐怖で顔をこわばらせている。
説得力はないが、言わざるを得なかった。
「改めて言うが、お前たちをどうこうするつもりはない」
「この島に帝国兵はいない! 探したって無駄だぞ!」
どうやら完全に警戒されてしまったようだ。
再び幾つもの銃口が向けられる。
「そもそもテムザスには教会がある! 手を出せば聖王国が黙っていないぞ!」
「あー、その教会に用があってきたんだ」
「教会に……?」
どうやら予想外の答えだったらしい。
警備兵たちが怪訝な顔を見合わせていた。
「……何事だっ!?」
島の中央側から1人の男が駆けてきた。
年齢は40歳程度か。華美な装飾こそつけていないが、身なりが整っている。地位の高い人物で間違いないだろう。
「レイゾンさん……それが――」
「あんたは?」
直接、話したほうが早い。
そう思って事情を説明しようとする警備兵の言葉に割って入った。
「……わたしはこのテムザスの領主、レイゾンです」
「クラーラだ。この島の教会に用があってきた」
警備兵たちの怯え方や、クラーラの名前からすぐに事情を察したようだ。レイゾンが唾を呑んだのち、こわばった顔を向けてくる。
「用とは、どのようなものでしょう?」
「それは教会の人間に話す」
「話して頂けなければ案内するわけには――」
「聖王国の庇護下に入ってるだけでお前たちは聖王国の人間じゃないだろ。先に聞いたらまずいんじゃないのか?」
言葉に詰まったようにレイゾンが口を結んだ。
その後、彼は思案する素振りを見せたのち、静かに息を吐きだした。
「……わかりました。ついてきてください。わたしが教会まで案内します」




