◆第三話『合流に向けて』
「……聞いたことのない名前だな」
ゼノはヴィンスとレイカに視線を向けた。
彼らも知らないとばかりに首を振っている。
「かなりのご老体との話だ。あまり表舞台に出ることをよしとしていなかったのか、あるいは隠居していたのか。その名が知られるようになったのは帝国との争いが始まってからだ」
13輝将3人を相手に持ちこたえているぐらいだ。
相当な手練であることは間違いないだろう。
「その爺さんが仲間になったら帝国相手でも真っ向からやれるんじゃねえか? こっちにはゼノとルピナもいるしな」
「真っ向からやれるかどうかはわからないが、帝国も簡単に手を出せなくなるのは間違いないな」
ヴィンスの考えは楽観的だが、現状では最善の道と言えるだろう。希望の兆しがわずかに垣間見えてきた中、なにやらレイカが難しい顔をしていた。
「ただ、連合国はとても保守的だと聞いています。仮に協力関係となることを申し出たとして、受け入れてもらえるかどうか……」
「そのあたりに関しては、わたしも実際に話したわけではないのでわからないな」
ルピナがまなじりを下げながら答えた。
連合国が保守的であることは有名だが……。
「こんな状況だ。さすがに相手も話には乗ってくるだろう」
「とはいえ、連合国も帝国の再三に渡る攻撃で所有の島を減らされている。いつ崩れてもおかしくはない」
「合流するなら急がないとか」
こちらの言葉に、ルピナがこくりと頷く。
「問題はどう合流するか、だな」
ヴィンスがため息交じりにこぼした。
「我々が連合国と合流することは帝国も避けたいはずだ。間違いなく対策はとってくるだろう。要塞島を動かしてくる可能性も充分に考えられる」
「東に抜けるにしても要塞島か、あるいは同等の帝国戦力との衝突は必至か」
ルピナが予測した帝国の動きに、ゼノはそう応じながら机に目を落とした。
机には、ルピナが知りえる島々の配置が記された世界地図が置かれている。初めて目にしたときもそうだが、ひどく窮屈な状況だといった感想しか湧いてこない。
「となると、ここから北側をとおって東に向かうのは……かなり危険ですね。北西要塞を上手く迂回できても北東要塞がありますし。仮に北東要塞に足止めされれば、後ろを北西要塞に突かれる可能性もあります」
レイカの言うとおり北側をとおって東へ向かう道はもっとも避けるべきだ。北西要塞にはあの狡猾なコディンがいる。こちらを潰す絶好の機会を逃すとは思えない。
「第10空域より外側に迂回できればいいんだけどな~」
「コンテイルのそばしか島は飛べないんだ。こればかりは仕方ない」
愚痴をこぼしたヴィンスに、そんな〝当たり前〟の答えで応じた。
と、ルピナが考えがまとまったのか、小さく頷いた。
「やはり南側に向かうのが最善かもしれない。わたしが帝国にいたときと変わらなければ、南要塞に駐在しているのは2人の13輝将だけだ」
「フォルツティアが加わったことで俺たちの戦力は大幅に上がった。要塞島が相手でも配属された13輝将が2人なら充分に勝てる」
前回の連携具合なら間違いなく勝てるという確信があった。どうやらルピナも同じだったようで互いに目が合い、どちらからともなく頷いた。
「でもよ、さっきも言ってたが帝国も警戒してんだろ? 13輝将を増やされたり、仮に2人だったとしてもほかの兵力を増やしてきそうだよな」
「包囲される可能性は考えられますね」
ヴィンスとレイカが示した未来は充分にありえる。
それほどまでに帝国の物量は凄まじいものがある。
「……帝国の注意をべつにそらせればいいんだが」
「たとえば連合国に攻勢に出てもらうってのはどうだ? かなり厳しい状況だって話だから、見せかけでも」
どうだ、とばかりにヴィンスが得意気な顔を向けてきた。
「たしかにそれなら帝国も俺たちだけに集中するわけにはいかなくなるだろう。だが、連絡を取り合おうにも、連合国は帝国に包囲されている状況だ」
「ぐ……連絡手段のことをすっかり忘れてたぜ」
ヴィンスが悔しげにもらした、そのとき。
「いや、できる……かもしれない」
ルピナが発言した。
ただ、その顔はひどく険しい。
「連合国の領内に1つだけ教会の置かれた島がある。ちょうど位置が連合国本土の背面付近とあって帝国も手を焼いていた島だが……」
「巡礼島を使うってことか」
そのとおりだ、とルピナが頷いた。
「あの聖王国が協力してくれるとはとても考えられませんが……」
「もともと聖王国には接触するつもりだったんだ。試してみる価値はある」
そうですね、とレイカが頷いた。
彼女には以前にも話したが、聖王国と接触することは決して無駄にはならない。〝聖王国と繋がったかもしれない〟という疑心をわずかでも帝国に抱かせられるからだ。
ルピナとヴィンスとも顔を合わせたが、首肯が返ってきた。どうやら当面の方針は決まったようだ。
「ひとまず巡礼島を探すところからだな」
「っても直接見つけるのは難しいよな、2つしかないし」
ヴィンスの言うとおり聖王国の巡礼島は2つしかない。それも教会が置かれた世界中の島々を回っているため、ばったり会うなんてことはほとんどない。それこそ《竜の亡骸》と同程度に見かけるのが珍しい島だ。
「教会のある島に寄って聞いてみるのが現実的ですね」
「それならちょうど南側へ向かう道中に1つ候補地がある」
とくに問題となる点も見つからなかったため、ルピナが候補に挙げた島に決定した。
テムザス島。
弟8空域、76コンテイル付近に浮遊する島だ。




