◆第ニ話『絢爛会議』
「すごいですね……城の中にこれほどの設備があるなんて」
「10機も収納してまだまだ余裕があるのかよ……」
ルピナ案内のもと、ゼノはヴィンス、レイカとともにフォルツィアットの城を訪れていた。いまは格納庫を見学中だが、ヴィンスとレイカが揃って感嘆していた。
「ここには技術指南を受けた整備士たちがいる。ガリアッドの整備、修理が可能だ」
そうルピナが説明してくれる。
現在、すべてのガリアッドがここに収納されていた。 先の囚人島強襲で使ったこともあり、点検をしている状態だ。終わり次第、各島に配置する予定となっている。
「使い捨てせずに済むのは大きいな」
「とはいえ、部品の製造まではできない。予備も含めれば当面は凌げるはずだが」
「損傷させないようにするに越したことはないか」
そういうことだ、とルピナが頷いた。
「にしても、結局フォルツティアに戻すことになったな」
「仕方ありません。錬度的にも差がありすぎますから」
ヴィンスの悔しげな声にレイカが苦笑いを浮かべる。
ダナガでも幾人かの候補者がガリアッドの訓練に当たっていたが、すでに訓練していたフォルツティア兵に及ぶわけもなく。ヴィンスの言ったとおり、再び彼らに委ねる形となった。
そんな2人のやり取りに、ルピナが少しだけまなじりを下げていた。
「ただ、ガリアッドの操縦者はあまり多くない。今後、帝国から奪取することも考えれば訓練を続けてもらったほうがいい」
「ちょうどいい見本もいることだしな。そのつもりで伝えておく」
「いずれはフォルツティア兵だけ、という状況にはならないだろう。実際、すでに我々の操縦者を上回る者もいることだしな」
言いながら、ルピナがこちらに向かってくる1人の少年に目を向けた。中性的で華奢な姿が特徴的な彼はエルク。ダナガの仲間たち全員にとって弟的存在の少年だ。
「ゼノさんっ」
エルクは近くまで来るなり、窺うような目を向けてきた。
「さ、さっきの戦闘、見てくれましたか?」
「ああ、見てたぜ。どんどん上達してるな」
「……はいっ! 使えば使うほど手に馴染んできて……次はもっと上手く動かせるようになると思います!」
「それは頼もしいな。ああ、そうだ。ルピナもお前のことを褒めてたぞ」
「ほ、本当ですか?」
驚いたように目を見開くエルク。
そんな彼の視線を受け、ルピナが微笑みながら頷く。
「ああ、きみほどの使い手は見たことがない。これからもガリアッド部隊の主力として期待している」
エルクは興奮しているのか。
無言のまま胸を膨らませていた。
「よかったな」
「はいっ」
元気な返事とともに、エルクが歳相応に明るい笑みをみせた。ヴィンスも「よかったじゃねえかっ」とエルクの髪をかき乱しながら喜びをわかちあっていた。
エルクから以前のような危うさは感じられなくなった。きっと前回の要塞島襲撃の戦いでなにか大きく得るものがあったのだろう。
ゼノはふっと微笑を浮かべたのち、口を開く。
「ひとまず見学はここまでだな。ルピナ、そろそろ会議室まで案内を頼む」
「承知した。ついてきてくれ」
◆◆◆◆◆
「戴冠式のときにも思ったが……場違い感がすげぇぜ」
案内された会議室がひどく上品な空間だったからか、ヴィンスが居心地が悪そうに周囲を見回していた。
「どうか楽にしてくれ。これからは何度も訪れることになるだろうからな」
ルピナがくすりと笑う最中、侍女のスフレが参加者に茶を配っていた。シュボスでの会議とはまるで違う空気感に、あのレイカでさえも、わずかに肩身を狭くしている。
なんとも面白い光景だが、いつまでも観賞しているわけにもいかない。ゼノは、茶に手を出すことなく話を切り出した。
「早速だが、今後の方針について話し合うぞ。ルピナ、なにかいい案はないか?」
「……いいのか? わたしが意見しても」
いきなり振られるとは思っていなかったのか。
ルピナが目を瞬かせながら問い返してきた。
「帝国にいたからこそ見えるもの、得られた情報ってのはあるはずだからな」
「俺たち、いまの世界情勢がどんなもんかさえ把握できていない状況だもんな」
「そうですね。わたしもルピナさんの意見はお聴きしたいです」
ヴィンスに続いて、レイカが言った。
ルピナの先の発言からして遠慮していた節がある。だが、全員から〝よそ者〟扱いをされていないとわかったのだろう。少しだけ嬉しそうに微笑んだのち、意見を口にした。
「世界の東側を支配するグラノス連合国――彼らとの合流を提案したい」
その言葉を聞いた瞬間、思わず目を見開いてしまった。
「待ってくれ。連合国はまだ存続してるのか? 2年前……俺が戦ってたときに、すでに攻め込まれてただろ」
「わたしも、もう滅んだものだと思っていました」
続いたレイカに、ヴィンスも神妙な面持ちで頷く。
「知らないのも無理はない。世界に反抗の兆しが生まれることを恐れ、帝国は連合国を世界の東側に追いやる形で隔離し、情報を断ったからな。いまも帝国の多くの島が対峙する形でにらみ合っている状態だ」
そこまでするのか、と帝国の大掛かりな行動には敵ながら感嘆してしまった。だが、驚いたのはそれだけではない。
「にしても、よく持ちこたえてるな」
「帝国ほどではないにしろ、もともとの戦力が大きかったうえに防衛戦に長けていたみたいだからな」
「13輝将は向かってないのか?」
「いまも3人が対峙しているはずだ。それでも落とせないのは優秀な将が多いからというのもあるが……間違いなく彼の存在によるところが大きいだろう」
わずかな間を置いて、ルピナが〝彼〟の名を口にする。
「シゲミツ・リュッテンバルト。剣聖と呼ばれている男だ」




