◆第一話『囚人島の解放』
「このまま島を置いていくのですか?」
「多すぎても防衛戦力が分散するだけだ。充分な戦力があれば話はべつだが、いまはできるだけ増やさないほうがいい」
ゼノはシャラの問いにそう答えた。
北西要塞島から離脱後。
当初の目的地だった囚人島に到達。
そばの監視島もろとも強襲し、占領を果たした。
現在、視界の中では攻撃部隊によって帝国兵が次々に拘束されている。手錠はフォルツティアが保有していた星刻印つきのものを使っている。
帝国が捕虜返還を条件になにかを譲渡してくることはない。前回はルピナという帝国の意志に反した動きをする者がいたからこそ。例外中の例外だ。
ゆえに捕虜を抱えても食糧を無駄に負担するだけになるため、このまま武装解除した状態で放置する予定だった。
「急いだかいもあって要塞島の妨害は入らなかったな」
そう言いながら、黄金の髪を流した女性が隣に立った。
彼女はルピナ。
つい先日までフォルツティアの王を務めていたものだ。
「コディンのことだ。ここを俺たちが取ることぐらい織り込み済みだろう」
「そうかもしれないな。奴は計算高い男だった」
それだけに前回の交戦では、あっさりと追撃をやめたことが不気味だった。保身のためとはいえ、帝国の将とは思えない決断だ。コディンにはなにか企みがあるのでは、と不安を拭いきれなかった。
「しかし、ダナガの者たちはいい動きをするな。要塞島の攻撃を凌いだときからもそうだが、とても最近戦闘を始めたばかりとは思えない」
「もともと反抗組織のメンバーは統率がとれていたしな。ほかの奴らも触発されてか、部隊長を筆頭に上手くやってくれてる」
今回の強襲も部隊長たちの活躍により、ほとんど手を出す必要がなかった。そういった意味でも、いい演習になったと言える。
「グリッグとシギにオルクスか。たしかに彼らはとても優秀だ。部隊長ではないが、エルクといったか。彼もすごいな。帝国でもあれほどガリアッドを乗りこなしている者はいなかった」
ルピナが心底感嘆していた。
「エルクの奴、それを聞いたらきっと喜ぶぜ」
「決して世辞ではないからな。あれで機体の強度さえあれば、13輝将も相手にできるかもしれない」
「まあ、強度の問題ばかりはどうしようもないな」
「ナナツガネなら、あるいは解決できたかもしれないが」
そうルピナがこぼした言葉に、シャラが首を傾げた。
「……ナナツガネとはなんですか?」
「風銃や空車輪、ガリアッドを造った発明家だ。武器も造っていることから、ときに名工とも言われている」
ルピナがそう説明した。
知る人ぞ知るといった人物だ。
ゼノは背に収めた戦斧の柄を触る。
「これもナナツガネ製だ」
フェザリアの力が逃げないようにするだけでない。どれだけフェザリアの力を込めても武器が破損しない特別性だ。なんでも占星石を組み込むことで可能にしているそうだが、独自の製法で真似できないと言われている。
と、なにやらルピナが難しい顔をしていた。
その目は戦斧に向けられている。
「もしやと思ったが、やはりナナツガネ製だったか。しかし、過去に使っていたものは帝国に奪われたと聞いていたが……」
「ああ、これは新しくもらったものだ」
「もしかしてナナツガネに会ったのか……?」
「いや、クァーナの雇い主って言ったらいいのか。〝ある人〟ってのから送られてきたものだ。ちなみに〝ある人〟ってのが誰かもわかってないから経路は俺にもさっぱりだ」
過去に使っていた戦斧も見ず知らずの男から購入した武器がたまたまナナツガネ製だったというだけで詳しい入手経路は謎だ。
ただ、いまにして思えばナナツガネ製の武器がそこらで売られているわけがない。それほど貴重なものだ。もしかすると、あのときにも〝ある人〟の関与があったのかもしれない。
「できればわたしも造ってもらいたかったが……難しそうだな」
「やっぱ帝国でもどこにいるかわかってないのか?」
「ナナツガネ商会がボスクィル商会に吸収合併されて以降、当代のナナツガネは行方をくらましてしまったままだ」
もとはナナツガネ商会のほうが大きかったが、帝国という巨大な支援者を得てボスクィル商会が一気に力をつけ、競り勝った形だ。そのせいか、いまではナナツガネ商会の名を聞くことも少なくなった。
「ボスクィル商会……帝国に協力しているところですよね」
シャラが確認するように訊いてきた。
ああ、と頷いて答える。
「帝国お抱えの商会だ。帝国の武器やガリアッドも、多くがボスクィル商会によって製造されてる」
「彼らともいずれやりあうことになるだろう」
そうルピナがこわばった声で言ったとき。
近くに着陸した空車輪からシギが降りてきた。
「……雷帝。看守の拘束が完了した」
「よし、あとは解放した奴らだが――」
「ゼノさん、連れてキマシタ!」
グリッグの声が聞こえてきた。
見れば、彼の部隊が多くの男たちを引き連れてきていた。
およそ80人といったところか。
ダナガよりは少ないが、充分な数だ。
あとはここからどれだけ残るか。
囚人から解放されたばかりの者たちへと、ゼノは声を張り上げる。
「自由を得るために戦う意志のある奴はついてこい! 当然、命の危険がある戦いだ! ここに残りたい奴は残れ! 強制はしない!」
選べ、と最後に迫った。
どちらを選んでも悪いことではない。
だが、囚人島に残ることを選んだ者はたったの5人。
ほぼ全員が仲間に加わることを選んだ。




