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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【黄金の意志】第三章

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◆第九話『雷帝と黄金』

 ゼノはルピナとともに後退。

 3人の13輝将と対峙する格好をとった。


「……間に合わなかったか」


 憎々しげに舌打ちをするコディン。


 ルピナが解放されたことは当然ながら把握していただろう。それでもなお、こちらの対応を優先した。


 合流前に仕留められると踏んでいたのか。

 あるいは帝国の王が欲するシャラを前に功を焦ったのか。


 いずれにせよ、耐え切ったこちらの勝ちだ。


「ルピナ殿、あなたは本当に……っ」


 カナードがいぶかるように顔を歪ませた。

 その瞳からは、悲嘆と後悔がない交ぜになったような感情が見て取れる。


「弁明をするつもりはない。だが、わたしはわたし自身に誇りを持ってこの場に戻ってきた。立ちはだかるというのなら、あなたとて容赦するつもりはない」


 向けられた疑念に、真正面から答えるルピナ。

 彼女らしい誠実さではあるが、それがカナードの心を打ち砕いたようだ。さらに彼の顔が大きく歪んだ。


 かと思うや、こちらを睨んできた。

 やはり彼の中ではすべての元凶として認識されているようだ。


「……クラーラ、貴公は好きなように暴れてくれ」

「もとよりそのつもりだ」


 ルピナに応じるやいなや、ゼノはいち早く仕掛けた。


 シャラの羽ばたきにより一気に加速。瞬く間に肉迫したコディンへと戦斧を払う。がんっと鈍い接触音ののち、コディンが大きく後退する。と、入れ替わるように横合いからカナードが突っ込んできた。


 緑光をまとわせた鈍色の刃がこちらの首を切断する軌道で迫りくる。が、直前で戦斧を割り込ませて受け止めた。がりり、とわずかな接触ののち、強引に弾き飛ばす。


 直後、背後に気配を感じた。

 肩越しに様子を窺えば、ギュネアから放たれた鞭の先端が視界に映り込む。


「数では勝ってるのよ! 恐れる必要はないわっ!」


 このままでは背中を捉えられる。

 だが、回避に動くつもりはなかった。

 なぜなら、いまはもうシャラと2人だけではないからだ。


 ばしんと乾いた破裂音が響く。

 割り込んだルピナが、ギュネアの鞭を剣の腹で受け止めたのだ。


「たしかに数では劣る。だが、質で劣っているつもりはない」

「ルピナっ! あんたはいつもいつも邪魔ばかりをして……っ」


 逆上したギュネアがルピナを執拗に狙いはじめる。

 遠距離からの攻撃とあって窮屈そうではあるが、ルピナは見事にすべてをいなしていた。さらに機を見て接近しては攻撃をしかけ、ギュネアに圧をかけている。


 負けてはいられない。

 ゼノはみたびコディン、カナードとの交戦を再開。各々の得物をかちあわせ、甲高い接触音を響かせはじめる。


「シャラ、コディンに接近しつづけてくれ! 距離はどれだけ近くても構わない!」


 了解とばかりに咆えたシャラがコディンに猛進する。


 コディンは中距離からの攻撃を得意とする。さらに立ち回りが敵ながら上手いうえに、冷淡だ。ルピナに不意打ちをしかける可能性を考慮すれば、自由にさせるわけにはいかない。


 反面、カナードは多少自由にさせてもルピナのほうへ向かう可能性が低い。実際、その判断は正しかったようでカナードはひたすらに剣を向けつづけてくる。


「貴様だけはっ、貴様だけはこの手で倒すっ!」


 近づいてくるたびにカナードを弾き飛ばしては、コディンへと攻め立てる。どうやらこちらが思った以上の圧をかけられているようだ。槍越しにコディンの苦悶に満ちた顔がずっと映っている。


「相変わらずのでたらめな力めっ」


 現状の不利を見極めてか、コディンは防御に徹しているようだった。先日のラドゲイのように得物を折るつもりで仕掛けているが、巧くいなされてしまう。


 さすがに相手も13輝将とあって手練だ。

 決め手となる一撃を簡単には加えさせてはくれない。


 数日間、ルピナは牢に繋がれていたとあって万全の状態ではない。実際、いまもギュネア相手に優勢を保っているにもかかわらず、顔には疲労が見て取れる。いつ状況がひっくり返ってもおかしくはない。


 いまだにフォルツティアの島々は離れていない。


 要塞島の所有者暗殺に手こずっているのか。

 あるいはまだ見つけられていないのか。


 いずれにせよ、現状では時間を稼ぎつづけるのは難しい。優位に立つためには、やはりここで13輝将の1人を消すしかない。そのためにも――。


「ルピナ、合わせろッ!」


 ゼノはコディンとカナードをまとめて弾き飛ばしたのち、ギュネアのもとへと一気に翔けた。ルピナの背後から迫る形となったが、彼女の黄竜が上方へ飛びあがることで道を開けてくれた。


 ギュネアから焦り気味に放たれた鞭を弾きつつ、猛進。肉迫と同時に戦斧を振り落とした。鞭では受けきれないと踏んだか、ギュネアがとっさに長剣を抜いて割り込ませてくる。金属同士とは思えない、重く鈍い音が響く。


 ギュネアが目を血走らせ、踏ん張るように顔面に力を入れる。が、それも虚しく四散した剣の刃とともに下方へと勢いよく墜落。そのまま地面に激突した。


 追撃をしかけることも考えたが、背後からカナードとコディンが迫っている可能性が高い。すぐさま振り返ると、予想どおり向かってくる2人が映り込んだ。しかし、視界上部から勢いよく降下してきたルピナがカナードを下方へと押しやった。


「わたしがいることを忘れないでもらいたいっ」

「ルピナ殿っ、くっ!」


 1人となったコディンがとっさに急停止。黒竜の口から風撃を吐かせて牽制してくる。だが、シャラは敵の攻撃を予想していたのか、忠告するまでもなくひらりと左方へ躱してみせた。


 そのまま接近したコディンへと、ゼノは戦斧による強打を見舞う。またも受け止められてしまったが、弾き飛ばすことはできた。


「どけ、ルピナッ!」


 ゼノは雷撃をまとわせた戦斧を放り投げ、下方のカナードへとぶつける。間一髪のところで受け止められたが、体勢は崩せた。そこへルピナが再び接近。追撃の突きを繰りだすが、しかし腕をかすめるだけに終わる。


 カナードの鮮血が散る中、ゼノは空中を舞う戦斧を回収。すぐにカナードへと仕掛けんとするが、コディンによって遮られた。互いの得物を合わせた状態の中、嘲笑を浮かべたコディンがひそめた声で話しかけてくる。


「即席とは思えない連携だな……まさか本当に繋がっていたのか?」

「お前らの〝作り話〟は知らないが、戦闘の相性はいいのはたしかみたいだ」


 13輝将級の戦士とともに戦うのが初めてだからかもしれない。これほどまでに上手く連携できたのは初めてだった。ルピナとなら、より多くの敵を相手に戦えるとさえ思うほどだ。


「くっそがぁあああああああッ!」


 下方から聞こえてきた汚い叫び声。見れば、ギュネアが怒りに満ちた顔で再び空に上がってきた。服がぼろぼろなうえに肌傷もあちこちにある。だが、深手を負わせるには至らなかったようだ。


 コディンを弾き、ギュネアの突撃軌道上から離れた。その後、ルピナとすれ違う格好で互いを追ってきたコディンとカナードを弾き返す。


「やるじゃねえか」

「貴公ほどではない、クラーラ」


 背中あわせとなった中、ルピナと互いを称え合う。


 つい先日まで敵だったとは思えないほどにルピナのことを信頼できていた。また同時に彼女からも信頼されていることが伝わってきた。


 そんな空気を感じ取ってか、カナードが発狂したように雄叫びをあげながら1人先行して突っ込んできた。コディンがすぐさま「落ちつけ、カナード!」と叫ぶが、止まる気配はない。


 慌ててコディンが援護に動きだすが、遅い。


 ――ここで決める。


 ゼノは自らカナードとの距離を縮め、真っ向から互いの得物を激突させた。相手の剣を粉砕するには至らなかったが、大きく腕を仰け反らせることには成功した。すぐさま引き戻した戦斧で敵の胴を切断せんと薙ぎを繰りだした、瞬間。


 どん、っと音がした。突如として飛び込んできたギュネアの翼竜が、カナードの翼竜を押し飛ばしたのだ。2人揃って範囲外にずれてしまい、攻撃が空振りに終わってしまう。が、後続として詰めていたルピナの軌道上にギュネアがかすかに入っていた。


 ルピナがすれ違いざまに振るった剣がギュネアの左目を裂く。


「あぁああああああああああッ」


 派手に血が散る中、ギュネアが奇声のごとく悲鳴をあげた。「ギュネア殿っ!」と動揺するカナードともども、仕留めるには最高の好機だ。ゼノは即座に戦斧を放り投げるが、間に飛び込んできたコディンによって弾かれてしまった。


 相変わらず厄介な相手だ。

 ことごとく決定機を潰してくる。


 戦斧を回収しつつ、ルピナと合流。

 敵と対峙した格好で次なる攻撃へと意識を向ける。


「わ、わたしの目が……あぁ……ぁ……」


 視界の中では、ギュネアが震えた声を出していた。

 手で押さえた左目からはいまも血がぽたぽたと流れている。


 カナードを仕留められはしなかったが、ギュネアに深手を負わせることができた。決定的ではないが、勝利へと繋がる大きな優位性だ。


「コディン様、要塞島の所有権が失われました!」


 その声は遠くで空車輪に乗った帝国兵から放たれた。


 ――所有権が失われた。

 つまり、シギたちが所有者の暗殺に成功したということだ。


 コディンたちを警戒しつつ、要塞島周辺の様子を窺う。と、ニアン島とレナス島、フォルツィアット島が徐々に離れていくのを確認できた。


 あとは逃げ切るだけだが、要塞島に配された帝国の戦力は凄まじい。いまもまだ激しい追撃を受けていることは間違いないだろう。


「引け、クラーラ。ここで貴様が引けば追うことはしない」


 コディンが高圧的ながら落ちついた声音で言った。

 途端、ギュネアの顔が恐ろしいほど険しくなる。


「なに言ってるのよ! 冗談じゃないわ! いまここであいつらを殺すのよ! そうじゃないとわたしの気が済ま――」

「黙れ、ギュネア。わたしに逆らう気か?」


 冷淡なコディンの声に、ギュネアが悔しげに口をつぐんだ。コディンのオーデュラッド家は帝国でも力が強いと聞いていたが、そのとおりのようだ。


「……どうする、クラーラ」


 コディンが保身に走っているともいえる。このまま戦闘を続ければコディンかカナード、ギュネアの誰かが死ぬからだ。しかし、こちらも要塞島の追撃を受け、多くの仲間たちを失うことは間違いなかった。


 さらに――。


 ゼノはちらりと隣を見やる。


 映ったルピナの顔には汗が滲んでいた。顔色も決してよくない。やはり数日間の収監で体力が極端に落ちているのだろう。いまでこそまともに戦えてはいるものの、いつ崩れ落ちてもおかしくない。


 ここで眼前の13輝将のうち1人を殺す代わりに、ルピナと多くの仲間の命を犠牲にするか。あるいは仲間ともども無事に帰還するか。……答えは明白だ。


 視線を感じとったか、ルピナが強い眼差しで見つめ返してくる。


「わたしはまだ戦える」

「……強がるのはもうやめとけ。いまは俺がいる」


 そう告げると、ルピナが目を見開いた。


 王として、ずっと民に無様な姿は見せられないと気張りつづけてきたのだろう。だが、それももう終わりだ。


「どうやら決まりのようだな」

「……ああ」


 コディンは安堵することもなく、ただ当然とばかりに淡々としていた。近くを飛ぶ空車輪に向かって指示を飛ばす。


「いますぐに追撃をやめるよう全軍に通達しろ」


 指示を受けた帝国兵は戸惑っていたが、問い返す度胸はなかったようだ。慌ててほかの帝国兵のもとへと向かっていく。


「おい、コディン。……次は絶対に仕留める」

「こちらも、次こそはその鍵を頂く」


 コディンと戦うのは、これが2度目ではない。

 帝国に親を殺され、島を奪われた日から幾度も刃を交えている。だが、いまだに決着はついていない。本当にしぶとい相手だ。


「ルピナッ、あんただけは絶対にわたしの手で殺してやるわ!」


 怒りに満ちた顔で叫ぶギュネア。

 相反してカナードは静かにこちらを睨みつづけていた。


「行くぞ、ルピナ」

「……ああ」


 13輝将たちを警戒しながら、ゼノはルピナとともに要塞島から撤退した。



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