◆第四話『いざ進軍』
ゼノはシャラとともにダナガ外縁に下り立った。
いましがた斥候として北西要塞島近辺の様子を窺ってきたところだ。
すでに周囲には攻撃部隊がいつでも作戦を実行できる状態で待機している。防衛に残る者たちも見送りのために来ていた。
「哨戒は3機。一定の距離をあけて要塞島の周囲を円を描く形で巡回しています」
シャラがほかの仲間たちに向けて告げた。
ヴィンスが不安げに問いかける。
「見つからずに抜けられるのか?」
「できる限り高度を上げて飛ぶつもりです」
「最悪、見つかっても敵が準備をする前に攻撃をしかければいい。それだけの速度がシャラにはある」
手はずとしては遥か上空から要塞島へ接近し、収監所付近に降下。ルピナを解放後、派手に暴れて13輝将を含む多くの敵を引きつける予定だ。
「それからスフレさんの言っていたとおり、ニアン島、レナス島と思しき島は南側に連結されていました。ただ、挟み込む形で島が1つずつ置かれています」
「やはり最低限の警戒はしていますか。ですが、位置的には悪くありませんね」
シャラの報告に、レイカがわずかに安堵した様子で言った。
現在、ダナガは要塞島の南側を飛んでいる状態だ。
このまま真っ直ぐに向かえば上陸は容易にできるだろう。
「問題はフォルツィアットのほうです。西側に連結してあったのですが、周囲には多くの島の姿が見えました。少なくとも10はあります」
「おそらく13輝将の島だろう。できる限り俺たちで敵を引きつけるつもりだが、少なくない戦力がフォルツィアットに向かう可能性が高い」
ゼノはそう告げつつ、シギのほうへ目を向ける。
「シギ、所有者を暗殺後、可能ならフォルツィアットに向かってエルクと合流してくれ。おそらく1番の激戦区になるはずだ」
「……了解です」
シギが首肯力強い首肯とともに、相変わらずの短い言葉で応じた。
「グリッグ、奪還した島をシュボスと合流させたらフォルツィアットの援護に向かってくれ。オルクスはそのまま防衛に当たってもらうが……状況に応じてフォルツィアットの援護に加わってくれ。判断は任せる」
「なるべく早く向かえるように頑張りマス!」
「うっし、ようやくって感じだな。任せろ!」
できればオルクスが援護に向かわなければならないほど逼迫した状況にはなってほしくないが……おそらくそうなる可能性は高いだろう。やはり、今回の要となるのは――。
ゼノは少し離れたところに立つガリアッドに目を向けた。操縦席には、すでにエルクが座って待機中だ。
「エルク、頼んだぜ」
「……はい!」
少々気負っているように見えるが、無理もないだろう。エルクにとっては初めて認められて立つ戦場だ。しかも任されたのは大役。
いまだにエルクに対する危なっかしい印象は拭えない。だが、ガリアッドを操縦するその腕は本物だ。
エルクなら大丈夫だ、と。
そう言い聞かせることで湧き上がった不安を拭い去った。その後、集まった者たちの顔を見回しながら、声を張り上げる。
「今回の目的は要塞島を落とすことじゃない! ルピナ及びフォルツティアの島々を奪還できれば俺たちの勝利だ!」
どれだけ上手くいったとしても、要塞島を落とすには戦力が足らなさ過ぎる。落とせたとしても、とてつもない犠牲を生むことになるのは間違いない。ゆえに、目的を達成すれば速やかに離脱することが最善だ。
「ここで勝てるかどうかで俺たちの未来は大きく変わってくる! お前ら、全力を尽くせ! そして全員で生きてここにまた帰ってくるぞ!」
野太く、血気に満ちた声が夜空に響く。
要塞島への攻撃が決定した日、少なくない動揺が仲間たちの中に走っていた。だが、元は帝国への反抗を決めた者ばかりとあってか。決戦を前に、戦意は充分過ぎるほどに高まっていた。
「クァーナ、防衛のほうも頼んだぜ」
「ええ、飛んできた空車輪、うちの部隊で全部撃ち落としてみせるわっ」
担いだ風銃を軽く掲げつつ、片目をつぶって応じるクァーナ。彼女の部隊は新設されたばかりだが、狙撃特化の部隊は防衛に向いている。きっと大きな力になってくれるはずだ。
「ゼノ、必ず帰ってこいよ」
いつになく真剣な顔を向けてくるヴィンス。
ああ、と応じつつ、互いの拳を突き合わせた。
その後、翼竜化したシャラに乗り込むと、「クラーラ様っ」と呼ばれた。見れば、ユリアスがそばに駆け寄ってきていた。
「あいつにかける言葉をいまのうちに考えておけよ」
「はいっ……!」
ユリアスは、これまでの弱気な姿が嘘のように堂々としていた。エルクもそうだが、若い者たちの成長は早いものだ。思わず込み上げてきた嬉しさにふっと笑みをこぼしつつ、ゼノはシャラの首元を撫でた。
「行くぞ、シャラッ!」
呼応して猛ったシャラが翼を広げ、飛び立った。




