◆第五話『反乱へと』
本格的な反乱に乗り出すと決定したからか。
囚人たちの戦意に満ちた声が響きはじめる。
「デジャンならすぐに報復を考えるはずだ。あいつが来る前に急いで準備するぞ」
そう告げると、囚人たちがきょとんとしてしまった。
彼らの気持ちを代弁するようにヴィンスが口を開く。
「準備って……いまからすぐに行くんじゃないのか?」
「本気で言ってるのか?」
「な、なんだよその目は……」
「いや、話を受けたのは間違いじゃなかったと思ってるだけだ」
やはり囚人たちは〝帝国に抗う〟ことに重きを置いていたようだ。それはそれで立派だが、やるからには玉砕覚悟は避けたい。
「はっきり言っていまのままじゃまず勝ち目はない。その理由がこれだ」
ゼノは腕を持ち上げて手錠を見せつける。
これは囚人全員の腕に取りつけられたものだ。
ヴィンスが頷きながら渋い顔をする。
「ま、まあフェザリアなしってのは不利だよな」
「個人差はあるが、使える奴なら使えない奴に1対5でも勝てる。それにあっちには風銃もある」
「こっちもあるぜ!」
3人の囚人たちが風銃を抱えて持ってきた。
先ほど倒した看守たちから奪ったものだろう。
「6挺だけな。対する相手はほぼ全員が持ってる」
「そ、それはそうだけどよ、でも、ゼノがいりゃ問題ないだろ」
「だなっ! フェザリア使ってんのかってぐらい強かったし!」
囚人たちが息巻きはじめる。
頼りにするのは結構だが、過信しすぎだ。
大して強くないフェザリア使用者の1人や2人程度ならどうにかできる自信はある。だが、数で押されたり、実力のある使用者であれば勝つことは難しい。
「さっき勝てたのは敵の意表を突いたからだ。数的にも有利過ぎた。まともに対峙して戦えばさっきみたいにはいかないはずだ」
不安がらせるつもりはない。
ただ事実として知っておいてもらいたかった。
「そこで俺たちがなにより優先すべきは、この星刻印つきの手錠を外すことだ」
「たしか対応する鍵を持って〝アストラ〟を流すことで解錠できるんだよな」
ヴィンスが確認してきた。
――アストラ。
それは星を源とした力だ。
また星刻印とは、〝アストラ〟を使って付与されたものであり、フェザリアの力を制限する効果を持つ。解除にはヴィンスが口にしたとおり、アストラ使いの力が必要となる。
ゼノは「ああ」と頷いて話を継ぐ。
「鍵の場所はそこで倒れてる看守たちに吐かせればいい」
「けど、敵のアストラ使いが素直に応じてくれるのか?」
「多少痛い目は見てもらうことになるな」
「それでもだめだったら?」
「フェザリアなしでやるしかないな」
そもそも挑む時点で賭けに近いことだ。
こればかりはどうしようもない。
「俺たちの中にアストラ使いがいたらよかったんだが……」
「聖王国以外じゃ使える奴なんてほとんどいないもんな」
囚人たちから弱々しい声が漏れだした。
再び辺りに暗い空気が満ちはじめる。
「――わたしが使えます」
それは男とは思えない高い声だった。
ゼノは慌てて声の出所へと目を向ける。
と、予想どおりシャラが立っていた。
「お前、どうして出てきた……? 待ってろって言っただろ」
「なにか騒ぎが起こっているようだったので」
「だからって誰かに見つかったら――って、もう手遅れか……」
囚人たちの視線はシャラに釘付けだ。
もちろん多くの者が目を血走らせている。
「どうして女が……」
「おい、それよりも見ろよっ」
「あの顔、体……極上だぜ」
まさに盛った獣状態だが、環境的に無理もなかった。
いずれにせよ、このままではシャラの身が危うい。
「こいつは俺の女だ。手を出したらわかってるな?」
ゼノはシャラのそばに立ち、ぐいと引き寄せた。
シャラがびくっとなり、真っ赤な顔で見上げてくる。
「あ、あの……っ」
「こいつらに襲われたくなかったら話を合わせろ」
潜めた声で告げた。
さすがにシャラも理解したようだ。
注目する囚人たちに向かってぼそぼそと言う。
「は、はい……彼の……女、ということになっています」
偽りだとしても恥ずかしいのか。
シャラの顔は赤らんだままだ。
先の戦いぶりを見せたこともあってか。
残念がる声は多かったが、囚人たちは欲望を抑えてくれた。
「にしても、こんな場所にまで来るなんて肝が据わってるぜ」
「さすがゼノの女ってところか」
ひとまず信じてもらえたようだ。
緊迫した状況もあるだろう。
シャラについても深くは訊かれなかった。
「勝手にすまないな。これしか思いつかなかった」
「その、わたしを守るためということは理解していますから。ありがとうございます」
言って、柔らかく微笑むシャラ。
まだ照れているのか、顔は赤いままだ。
と、そこでまだシャラを強く抱き寄せていたことに気づき、慌てて離した。
「悪い」
「い、いえっ」
彼女が触れていた箇所がひどく冷たく感じた。
ただ、彼女を抱き寄せた感覚はいまも記憶にしかと残っていた。
華奢ながら独特の柔らかな感触。
それに漂ってきたとても甘い香気。
女性を意識するには充分過ぎるほどだった。
……これでは先の囚人たちと変わらない。
ゼノは情欲に蓋をせんと静かに息を吐いたのち、話を戻す。
「それよりさっきの話だ。本当にアストラが使えるのか?」
「はい。多少ではありますが、解錠程度なら問題ないと思います」
嘘を言っているような目ではない。
ただ、問題はほかにもある。
「いいのか? 危険だぞ。いや、そもそもお前が付き合う理由は――」
「理由ならあります。……あ、あなたの女ですからっ」
「お前、それは――」
言い訳に使った嘘だ。
そう反論しようとしたが、できなかった。
いつの間にか多くの囚人たちに聞かれていたのだ。
全員がにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべている。
最高に居心地が悪い空間だ。
「ひとまずこれで解錠の問題はなくなった。あとはどう攻めるかだが……」
ゼノは舌打ちののち、次なる話題に切り替えた。
途端、囚人たちが積極的に話しはじめる。
「最大の問題は空車輪対策だよな」
「あいつらが乗ってきたやつがそこに4機残ってるぜ」
「ってもそれだけじゃ圧倒的に少ないだろ」
「だな。ダナガとシュボス発着場にも結構な数の空車輪があるしな……」
「1番の問題は仮に4機でどうにかできても、シュボスに乗り込む人数が限られるってことだよな」
ヴィンスが最後にそう問題点を挙げた。
ダナガ島とシュボス島はくっついてはいない。
当然ながら渡る手段は空車輪しかない。
ただ、それは現状の話だ。
「先に言っておくが、空車輪に乗って渡る必要はない」
「は? 島を渡るにはそれしかないだろ」
ヴィンスが強気にそう反論してきた。
ゼノは片足で地面をドスッと踏み込む。
「ほかに最高の移動手段があるだろ」
「おいおい……まさか、お前っ」
動揺するヴィンスに向かって、ゼノは口の端を吊り上げる。
「そのまさかだ。ダナガをシュボスにぶつける……!」




