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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【明日への旅立ち】第一章

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◆第五話『反乱へと』

 本格的な反乱に乗り出すと決定したからか。

 囚人たちの戦意に満ちた声が響きはじめる。


「デジャンならすぐに報復を考えるはずだ。あいつが来る前に急いで準備するぞ」


 そう告げると、囚人たちがきょとんとしてしまった。

 彼らの気持ちを代弁するようにヴィンスが口を開く。


「準備って……いまからすぐに行くんじゃないのか?」

「本気で言ってるのか?」

「な、なんだよその目は……」

「いや、話を受けたのは間違いじゃなかったと思ってるだけだ」


 やはり囚人たちは〝帝国に抗う〟ことに重きを置いていたようだ。それはそれで立派だが、やるからには玉砕覚悟は避けたい。


「はっきり言っていまのままじゃまず勝ち目はない。その理由がこれだ」


 ゼノは腕を持ち上げて手錠を見せつける。

 これは囚人全員の腕に取りつけられたものだ。

 ヴィンスが頷きながら渋い顔をする。


「ま、まあフェザリアなしってのは不利だよな」

「個人差はあるが、使える奴なら使えない奴に1対5でも勝てる。それにあっちには風銃もある」

「こっちもあるぜ!」


 3人の囚人たちが風銃を抱えて持ってきた。

 先ほど倒した看守たちから奪ったものだろう。


「6挺だけな。対する相手はほぼ全員が持ってる」

「そ、それはそうだけどよ、でも、ゼノがいりゃ問題ないだろ」

「だなっ! フェザリア使ってんのかってぐらい強かったし!」


 囚人たちが息巻きはじめる。

 頼りにするのは結構だが、過信しすぎだ。


 大して強くないフェザリア使用者の1人や2人程度ならどうにかできる自信はある。だが、数で押されたり、実力のある使用者であれば勝つことは難しい。


「さっき勝てたのは敵の意表を突いたからだ。数的にも有利過ぎた。まともに対峙して戦えばさっきみたいにはいかないはずだ」


 不安がらせるつもりはない。

 ただ事実として知っておいてもらいたかった。


「そこで俺たちがなにより優先すべきは、この星刻印(せいこくいん)つきの手錠を外すことだ」

「たしか対応する鍵を持って〝アストラ〟を流すことで解錠できるんだよな」


 ヴィンスが確認してきた。


 ――アストラ。

 それは星を源とした力だ。


 また星刻印とは、〝アストラ〟を使って付与されたものであり、フェザリアの力を制限する効果を持つ。解除にはヴィンスが口にしたとおり、アストラ使いの力が必要となる。


 ゼノは「ああ」と頷いて話を継ぐ。


「鍵の場所はそこで倒れてる看守たちに吐かせればいい」

「けど、敵のアストラ使いが素直に応じてくれるのか?」

「多少痛い目は見てもらうことになるな」

「それでもだめだったら?」

「フェザリアなしでやるしかないな」


 そもそも挑む時点で賭けに近いことだ。

 こればかりはどうしようもない。


「俺たちの中にアストラ使いがいたらよかったんだが……」

「聖王国以外じゃ使える奴なんてほとんどいないもんな」


 囚人たちから弱々しい声が漏れだした。

 再び辺りに暗い空気が満ちはじめる。


「――わたしが使えます」


 それは男とは思えない高い声だった。

 ゼノは慌てて声の出所へと目を向ける。

 と、予想どおりシャラが立っていた。


「お前、どうして出てきた……? 待ってろって言っただろ」

「なにか騒ぎが起こっているようだったので」

「だからって誰かに見つかったら――って、もう手遅れか……」


 囚人たちの視線はシャラに釘付けだ。

 もちろん多くの者が目を血走らせている。


「どうして女が……」

「おい、それよりも見ろよっ」

「あの顔、体……極上だぜ」


 まさに盛った獣状態だが、環境的に無理もなかった。

 いずれにせよ、このままではシャラの身が危うい。


「こいつは俺の女だ。手を出したらわかってるな?」


 ゼノはシャラのそばに立ち、ぐいと引き寄せた。

 シャラがびくっとなり、真っ赤な顔で見上げてくる。


「あ、あの……っ」

「こいつらに襲われたくなかったら話を合わせろ」


 潜めた声で告げた。

 さすがにシャラも理解したようだ。

 注目する囚人たちに向かってぼそぼそと言う。


「は、はい……彼の……女、ということになっています」


 偽りだとしても恥ずかしいのか。

 シャラの顔は赤らんだままだ。


 先の戦いぶりを見せたこともあってか。

 残念がる声は多かったが、囚人たちは欲望を抑えてくれた。


「にしても、こんな場所にまで来るなんて肝が据わってるぜ」

「さすがゼノの女ってところか」


 ひとまず信じてもらえたようだ。

 緊迫した状況もあるだろう。

 シャラについても深くは訊かれなかった。


「勝手にすまないな。これしか思いつかなかった」

「その、わたしを守るためということは理解していますから。ありがとうございます」


 言って、柔らかく微笑むシャラ。

 まだ照れているのか、顔は赤いままだ。

 と、そこでまだシャラを強く抱き寄せていたことに気づき、慌てて離した。


「悪い」

「い、いえっ」


 彼女が触れていた箇所がひどく冷たく感じた。

 ただ、彼女を抱き寄せた感覚はいまも記憶にしかと残っていた。


 華奢ながら独特の柔らかな感触。

 それに漂ってきたとても甘い香気。

 女性を意識するには充分過ぎるほどだった。


 ……これでは先の囚人たちと変わらない。

 ゼノは情欲に蓋をせんと静かに息を吐いたのち、話を戻す。


「それよりさっきの話だ。本当にアストラが使えるのか?」

「はい。多少ではありますが、解錠程度なら問題ないと思います」


 嘘を言っているような目ではない。

 ただ、問題はほかにもある。


「いいのか? 危険だぞ。いや、そもそもお前が付き合う理由は――」

「理由ならあります。……あ、あなたの女ですからっ」

「お前、それは――」


 言い訳に使った嘘だ。

 そう反論しようとしたが、できなかった。


 いつの間にか多くの囚人たちに聞かれていたのだ。

 全員がにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべている。


 最高に居心地が悪い空間だ。


「ひとまずこれで解錠の問題はなくなった。あとはどう攻めるかだが……」


 ゼノは舌打ちののち、次なる話題に切り替えた。

 途端、囚人たちが積極的に話しはじめる。


「最大の問題は空車輪対策だよな」

「あいつらが乗ってきたやつがそこに4機残ってるぜ」

「ってもそれだけじゃ圧倒的に少ないだろ」

「だな。ダナガとシュボス発着場にも結構な数の空車輪があるしな……」

「1番の問題は仮に4機でどうにかできても、シュボスに乗り込む人数が限られるってことだよな」


 ヴィンスが最後にそう問題点を挙げた。


 ダナガ島とシュボス島はくっついてはいない。

 当然ながら渡る手段は空車輪しかない。

 ただ、それは現状の話だ。


「先に言っておくが、空車輪に乗って渡る必要はない」

「は? 島を渡るにはそれしかないだろ」


 ヴィンスが強気にそう反論してきた。

 ゼノは片足で地面をドスッと踏み込む。


「ほかに最高の移動手段があるだろ」

「おいおい……まさか、お前っ」


 動揺するヴィンスに向かって、ゼノは口の端を吊り上げる。


「そのまさかだ。ダナガをシュボスにぶつける……!」



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