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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【明日への旅立ち】第一章

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◆第四話『いま再び』

 囚人たちから一斉に怪訝な目を向けられた。

 ヴィンスが代表して疑問を投げかけてくる。


「……1人で行くってどういうことだよ?」

「そのままの意味だ。俺1人で行って今回の責任をとってくる」

「責任って……は? なに言ってんだ、あんた」

「俺がお前たちを先導して看守を襲った。全員、そういうことで話を合わせてくれ」


 帝国側も大事な労働力は減らしたくないはずだ。

 多少の処罰は受けるかもしれないが、これでほかの囚人たちが命まで取られる可能性は大きく減らせるだろう。


 ヴィンスが低い声で問いかけてくる。


「そんなことしたらどうなるかわかってんのか?」

「まあ、殺されるだろうな」

「ふざけんじゃねえ……そんなんで生かされて俺たちが喜ぶとでも思ってんのか!? 大体、あんたが手を出してなきゃ俺が手を出してた!」


 ヴィンスに続いて次々に囚人たちが「いや、俺がやってた!」と声をあげはじめた。再び囚人たちが勢いを増した中、ヴィンスが諭すように声をかけてくる。


「あんた1人が背負う必要なんてねぇんだよ、な?」

「だからいまからみんなで帝国に立ち向かおう、か。お前たちだって帝国がどれだけ強大かはわかってるだろ。仮にここの看守たちを倒したら帝国から追われることになる。そうなればもう、未来はないんだぞ?」


 話しているうちに語調を強めてしまった。

 こちらの豹変ぶりに眼前のヴィンスも驚いている。


 ゼノは息を吐いて拳を解いた。

 そのまま立ち去ろうとするが、右足が動かなかった。

 見れば、エルクにがっしりと掴まれていた。


「行かせません……っ」

「……エルク、放してくれ」

「どうしても行くというのならボクも行きます。置いていかれても、あとを追います!」


 エルクの目は本気であることを訴えてきていた。


「それじゃ俺が行く意味がなくなるだろ」

「いま、ゼノさんがしようとしてることも、ボクにとって意味がないんです……っ」


 ずっと目にかけてきたからだろうか。

 思っている以上に慕ってくれていたようだ。

 ただ嬉しい反面、いまだけは厄介なことこのうえなかった。


「こんなひょろい体してんのに……ったく、大した奴だぜ」


 ヴィンスはエルクに感心したのち、再び真剣な顔をこちらに向けてきた。


「なあ、ゼノ。俺たちはずっと機会を探してた。いつかあいつらに噛みついてやるってな。けど、実際はその1歩が踏み出せなかった。……たぶん、こいつらも同じだ。でも、あんたはやった。俺たちができなかったことをあっさりとやってのけたんだ」


 幾人かの囚人たちが頷いていた。


 今回のことは褒められるべきことではない。

 ただ自制がきかなかっただけだ。


 とはいえ、エルクを助けるためだった。

 後悔だけはしていない。


「大体、さっきの見たろ。もう俺ら全員が手を出したも同じだ。あのクソ下衆看守長デジャンのことだ。あんた1人の命だけで終わらせるとは思えない」

「だが、奴も労働力の損失は最小限に抑えたいはずだ」

「だから、その奴らの労働力ってのが俺たちは気に食わねぇんだよ……っ」


 ヴィンスが感情をあらわにして吐き捨てた。


「いつ出られるかもわからねぇ。なんの目的もなく、ただ憎い奴の手足となって働く……それって生きてるって言えるのか? 俺たちが求めてんのは明日の命じゃねえ。いまの自由だ!」


 どんっと音がするほどにヴィンスが自身の胸を叩いた。


「あんたほどの男がそこまで怯えてんだ。きっと過去にひどい目に遭ったんだろうって想像はできる。けどよ、あんたしかいねぇんだ」


 悔しさの入り混じった声だった。


 ――反乱を起こしたとしても未来はない。

 彼自身も本当はわかっているのだろう。


 だからこそ、いまのいままで耐えつづけた。

 大きなきっかけと力を探したのだ。


「頼む、ゼノ。俺たちの自由を繋いでくれ……っ」


 放たれたのは心からの叫びだった。


 ゼノは目を瞑りながら長く息を吐きだす。


 囚人の数は約100。

 いや、正確には102だ。


 帝国を相手どりながら、これだけの命を繋ぐことはたとえ1日でも簡単ではない。きっとそれは全員がわかっているはずだ。だが、それでも彼らはどうか。


 ゼノは再び目を開ける。


 視界に映ったのは決意に満ちた囚人たちの顔だった。


 ずっと冷えていた心が沸き立つような、そんな気分に見舞われる。


 正直、帝国相手には勝てる気がしない。

 いまでも自分1人の命で済むのなら、それが1番いいと思っている。だが、そうしたところで囚人たちはもう止まらないところまで来ている。


 ならば、選択肢はもう1つしかない。

 これは覚悟なんて格好いいものではない。


 ただ、やるしかなかった。


「……わかった。俺の負けだ」

「本当か!? あんたならきっとそう言ってくれると――」

「だが、1つだけ訂正したいことがある」


 ゼノは囚人たちの顔を見回し、宣言する。


「いいか、俺はお前らの命を今日で終わらせるつもりも、明日で終わらせるつもりもない! やるからには全力で生かすつもりでいくぞ……!」



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