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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【黄金の意志】第ニ章

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◆第四話『捕虜返還』

 着陸した大型輸送船から次々に運び込まれるガリアッド。そのたびに開いた荷室へと返還された捕虜たちが乗り込み、再び空へ戻っていく。


 シュボス外縁にて、ゼノはルピナと距離を置いて対峙していた。互いに牽制しあう格好で取引を見守っている。


「シャラ、悪いな」

『いえ、必要なことですから』


 すぐ後ろには翼竜化したシャラが控えていた。


 シャラ自身に戦闘能力はほぼないが、その見た目は雄々しく恐怖の対象となりえる。また《雷帝のクラーラ》を連想させやすいこともある。ゆえに、捕虜たちがおかしな気を起こさないよう威嚇目的で変身してもらっていた。


 さらに後ろでは多くの仲間たちが風銃を構え、厳戒態勢をしいていた。エルクが搭乗するガリアッドも立ち合わせている。


 捕虜の誘導はグリッグとシギの部隊に任せていた。オルクスの部隊には残った仲間ともども全体に注意を払ってもらっている


 取引が始まってからというもの、空気が張りつめていた。だが、それもガリアッドが1機渡るたびに和らいでいく。


 帝国の強大な戦力の象徴でもあったガリアッドが損傷なしの状態で手に入っているのだ。無理もない反応だった。


「整備士はもらわなくてよかったのか?」


 そう訊いてきたのはヴィンスだ。


「裏切られたらたまったもんじゃないだろ」

「裏切るっても、整備士程度大したことねぇだろ」

「戦闘中にガリアッドの四肢が外れたらどうするんだ」

「……よし、いまの話はなかったことにしてくれ」


 理解してもらえたようでなによりだ。


「仮に使い捨てになったとしても無駄じゃない。10機とはいえ、帝国から戦力を削いだことには変わりないからな」


 実際は帝国全体が擁するガリアッドの数からすれば小さなものだろう。だが、それでもたしかな打撃を与えられたことは間違いなかった。


「搭乗者はどうする? いまはエルクだけだが……」

「何機か置いておきたいが、戦力的に余裕はないからな。予備は最低限にして搭乗者を多めに増やすつもりだ」


 すでに候補者を絞るようレイカには頼んでいた。


 選ばれたのは1人だけ、と意気込んでいたエルクには悪いが、ガリアッドの搭乗者は一気に増えることになる。これからは先輩として頑張ってもらわなければならない。


 話している間にも取引は順調に進んでいた。厳戒態勢をしいたかいもあってか、おかしな動きを見せる捕虜もいない。


 やがて、ガリアッドが最後の1機となった。

 残る捕虜はルピナの弟――ユリアスだけだ。


 ガリアッドがこちらに渡される。

 ほぼ同時、シギに連れられてきたユリアスが解放された。


 よたよたと歩いてルピナの前に立ったユリアス。捕虜の身から解放されたのだ。歓喜したり安堵したりしてもおかしくはない。だが、その後ろ姿は罪悪感でまみれているようだった。


「姉上……申し訳ございません……っ」

「いいんだ。お前が無事でいてさえくれれば……」


 俯いてまま体を震わすユリアスをルピナが歩み寄って抱きしめる。その姿からは戦闘時に見せた勇ましさや凛々しさは感じられなかった。ただの優しい姉だった。


 感動の場面とあってか、仲間たちの間にもしんみりとした空気が漂っている。気持ちはわからなくもないが、相手は敵だ。あまり情が移るのは避けたかった。


 蔓延した空気を断ち切るように、ゼノは前に歩みでる。


「鍵だ」


 星刻印つきの腕輪(かぎ)を放り投げた。

 あれをアストラ使いに持たせれば捕虜たちの手錠を解除できる。


 腕輪を受け取ったルピナがしかとこちらを見据えてくる。


「……次に会ったときは容赦はしない」

「ああ、こっちも今度は本気で殺りにいく」


 彼女の目は見れば見るほど真っ直ぐだ。

 本当に、帝国には似つかわしくない人間だ。


 短いやり取りを最後にルピナは堂々と背を向けると、ユリアスとともに翼竜に乗ってシュボスを発った。見る間に小さくなっていくその姿を目にしていると、そばにレイカが立った。


「今回の件で彼女の立場は悪くなるでしょうね」

「ただでさえ帝国じゃよそ者だからな」


 しかも帝国の王から譲り受けたガリアッドを手放した形だ。いくら捕虜返還のためとはいえ、相手に情けをかけない帝国の方針に反する。おそらく相応の罰を受けるだろう。


 解放されたばかりのユリアスが、ルピナに謝っていたのはそうしたことをわかっていたからだろう。


「ほんと、同じ道を辿れなかったのかなって思うよ」


 クァーナがため息をつきながら後ろから近づいてきた。


 念のため、彼女にはユリアスに銃口を向けてもらっていた。ため息は、きっとその〝いやな役〟を担当した精神的な疲労から来ているのだろう。


 クァーナの言うとおり、ルピナと仲間になれた未来もあったかもしれない。だが、結果的に敵となった。味方に引きいれようとも試みたが、それも失敗に終わった。


「あいつなりに考えて、選んだ道だ」


 残念だが、もう仲間として交わることはないだろう。


 次に会うときは……本気の刃を交えるときだ。



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