◆第四話『強くなること』
ゼノはシャラとともにダナガ北端を訪れていた。
敵の島に突撃してばかりのため、北側の外縁はほかの島ではありえないほどに隆起していた。角ばって無骨な形で、とても綺麗とは言えない。ただ、これは勲章のようなものだ。個人的にはとても気に入っていた。
「この辺りに頼む! そうだ、そのままだ!」
上空に現れた大型輸送船を誘導し、外縁から少し内側の平地に降下させた。降りてきた搭乗者たちによって荷室が開けられ、車輪つきの台が引き出されていく。
台上に載っていたものを見て、シャラが口にする。
「ガリアッド……ですか」
「ああ、この前の戦いで唯一無事だった機体だ」
グウェルに配備されていたという5体のガリアッド。そのうち、4体を起動不能にしてしまったわけだが、残りの1体は搭乗者がいなかったのか、格納庫にしまわれたままだった。おかげで無傷で回収できたというわけだ。
「壊れた機体は修理できないのですか?」
「帝国お抱えの技術者でもないと難しいらしくてな。……全部の機体を無傷で回収できればよかったんだが」
「戦闘中では難しいですね」
ガリアッド1機の戦闘能力は数十の兵力と同等といっても過言ではない。まさに帝国を強国たらしめている存在だ。しかし、逆を言えばガリアッドの差さえ埋められれば、まともにやりあえる。
今後はどうガリアッドを無力化するか、あるいは手に入れるかが鍵になってくることは間違いなかった。
ふと荒々しい足音が聞こえてきた。
「お、来たか」
振り返った先、必死な顔で走ってくるエルクが映った。「ゼノさん!」と叫びながらそばまで駆け寄ってきたのち、息が落ちつく前から声をあげはじめる。
「どうしてっ、どうしてボクはダメなんですか!?」
攻撃部隊にエルクは選ばないよう指示したことを言っているのだろう。べつにエルクを除け者にしようとしたわけではない。ただ、エルクはそう思わなかったようだ。
「あー、まずは落ちつけ」
「落ちついてなんかいられません! ゼノさんは認めてくれたと思ったのに……やっぱりボクが弱いからですか……!?」
エルクはなおも必死になって詰め寄ってくる。
このままでは埒が明かないため、本題に入ることにした。
「エルク、ガリアッドに乗ってみないか?」
ゼノは体を横に開き、ガリアッドへと視線を促した。途端、エルクが先ほどまでの勢いが嘘のように静かになった。
「……え? ボクが、ですか……?」
「ああ、そうだ」
問いかけに淀みなく頷いてみせたが、いまだに信じられないようだ。エルクはきょとんとしたままだった。
「でも、ガリアッドってすごく高価なものでボクなんかが乗っていいものじゃ……それに、これに乗るだけじゃ――」
「強くなるってのは、なにも体を鍛えることだけじゃない」
エルクがなにを言おうとしたのか。
またどんな悩みを抱えているのかもわかっていた。
「そもそも、どうしてお前は強くなりたいんだ?」
「それはボクもゼノさんの……みんなのために力になりたいから」
「だったら体の強さだけにこだわる必要はないだろ」
手段が目的となってしまっていたことに、エルクはようやく気づいたようだ。はっとなったのちに、ばつが悪そうに俯いてしまった。
「でも、どうしてボクだけにこんな……っ」
「言っとくが、俺は同情でこんなことはしない」
エルクのことは特別に目をかけている。これは事実だ。ただ、それだけで貴重な戦力となりえるガリアッドを託そうとは思わない。
「この前の戦いのとき、ラドゲイに突っ込んで空車輪をぶつけたろ。本来は、かするだけでも難しい相手だ。それなのにお前はぶつけた。それも直撃だ」
「普通に突っ込むだけじゃ絶対に躱されると思ったので……それで相手が止まるタイミングを見計らっていたんです。それから敵の死角も選んで――」
「それだ。お前は頭を使う」
残念ながらエルクは強い体には恵まれなかった。だが、戦いの中でもモノになるほどの冷静な判断力、観察力を持っている。ならば、それがもっとも活きる場所で戦うべきだ。
「エルク、お前の持ち味って奴だ」
「ボクの……持ち味」
「お前ならきっと上手くガリアッドを使ってくれると思ってる。どうだ、やってくれるか?」
いまの状況において、ガリアッドがどれほど貴重かを知っているからか、エルクは不安に苛まれているようだった。だが、次第にその顔からは頼りなさが抜け、ついには決意に満ちたものとなった。
「……やります! いえ、ボクにやらせてください!」
「よし、なら、すぐに訓練を始めてくれ。敵はいつ来るかわからないからな」
「はい!」
エルクは返事をするなり、駆け出そうとする。が、すぐさま振り返って頭を下げてきた。
「ゼノさん、本当にいつもありがとうございます……っ」
「期待してるぜ」
髪の毛がぐしゃぐしゃになるぐらい荒く頭を撫でた。エルクは嫌がるどころか、むしろ嬉しそうに笑顔を残したのち、今度こそガリアッドのほうへ向かっていった。
ガリアッドの操縦感は基本的にバンカースケイルと同じらしいが、多少の差異はあるはずだ。しばらくは前線に出られないだろう。だが、エルクのやる気を見れば、そのときが予想以上に早く訪れるような気がした。
「ゼノは、あの子のことをよく気にかけていますね」
そばでずっと静観していたシャラが言った。
「あいつは俺の弟みたいなもんだからな」
もちろん本当の家族ではない。だが、本当の家族と思える温もりをエルクには感じていた。そしてそれはシャラに対しても同じだ。
こちらの視線を感じたか、シャラが首を傾げていた。そんな彼女の頭へと気づけば手を置いていた。艶やかなで手触りのいい髪を優しく撫でる。
「い、いきなりどうしたのですかっ!?」
「なんでもない。ただ、こうしたいと思っただけだ」
「そのっ、……こういうことは姉にもしていたのですか?」
予想外の問いに思わず手を止めてしまった。
「……いや、したことはないな」
馴れ馴れしかったかもしれない。
そう思いつつ手を離そうとしたとき、シャラの両手に妨げられた。
「ゼ、ゼノがしたいのならっ、いくらでもどうぞ……です」
完全に俯いているため、彼女がいまどんな顔をしているかはわからない。ただ、赤くなった耳を見れば、想像するのは容易だった。
もしかすると姉への対抗心からかもしれない。だが、それでも心を許してくれた証だと思えば、これより嬉しいことはなかった。
ああ、とゼノは答えつつ、もう1度シャラの髪を撫でた。




