◆第十ニ話『ダナガ・グランデ』
その日の夜。
ヒュレン島の地下施設で食事会が開かれていた。
集まったのはダナガの仲間と反抗組織のほぼ全員。
総勢で300人ほどになるため、壮観な光景となっていた。
「……美味しそうな匂いがたくさんします」
ともに訪れたシャラが感嘆していた。
無理もない反応だ。
あちこちに置かれた机の上、所狭しと並んだ料理。
そこにはダナガになかった彩と、匂いが詰まっていた。
「我慢する必要はない。好きなだけ食ってこい」
「なんだがそれだとわたしが食いしん坊みたいです……」
「あんだけ飛んでるんだ。一杯食べて当然だろ」
翼竜人がよく食べることを彼女の姉であるソフィアから学んでいた。実際にシャラも同じだったようで、「で、では少しだけ……」と恥ずかしそうにこぼしたのち、料理のもとに向かっていった。
ただ言葉とは裏腹に、彼女の皿には大量の料理が積まれていた。……どうやらかなり我慢させてしまっていたようだ。
「よかった、とてもよく似合っています」
かけられた声のほうを見ると、レイカが立っていた。
ゼノは受け取った衣装を見下ろしたのち、肩を竦める。
「……こういうのは無頓着でな。感謝する」
「そうだと思いました」
くすりと微笑むレイカからは、昨日にはなかった余裕が窺えた。
きっと帝国からの直接的な重圧がなくなったからだろう。
そんな彼女に釣られてか。
反抗組織全体の空気も明るくなっていた。
あちこちから賑やかな談笑の声が聞こえてくる。
「女……女がたくさんっ! お前、どの子行くよっ」
「ばっかやろう! いまはまだ様子見だ! がっつくと引かれるぞ!」
「じゃあお前は待機な。俺はお先に行かせてもらうぜ!」
「あ、ずりぃぞ! 俺も! 俺も行く!」
反抗組織のメンバーにはレイカ以外にも少なくない数の女性が属していた。そんな彼女に、興奮をあらわに突撃していくダナガの仲間たち。
……苦笑いを浮かべるほかなかった。
「悪いな、長い間いた環境が環境だったから、ちょっと盛ってるんだ」
「あ、あはは……ですが、無理やりにという方はいないみたいなので……」
「そこらへんは言い聞かせてあるから安心してくれ」
乱暴をしたら締め上げると伝えておいた。
本気で怯えていたし、きっと節度は守るはずだ。
ふとレイカが改まって居住まいを正した。
かと思うや、真剣な顔で頭を下げてくる。
「このたびはヒュレンを救っていただきありがとうございました」
「……助かったのはこっちも同じだ。レイカたちが一緒に戦ってくれたおかげで被害を最小限に抑えられた」
「結果的にはそうだったかもしれません。ですが、我々は取り返しのつかないことをしてしまいました。そして、本来の目的の核となるべきあなたたちをも……」
「敵だらけの状況だ。そういうこともある」
必死で生きている。
ただ、それだけのことだ。
「そうそう、前を見ていかないとね。じゃないとすぐに帝国に足を掴まれるよーっ」
飄々とした声とともにそばに来たのはクァーナだ。
また彼女だけでなく、ヴィンスとグリッグ、シギもいた。
「にしてもダナガにシュボス、ヒュレン。それとグウェルか。島も人も、一気に大所帯になったな」
「島が4つ。というコトハ……」
「……本土を決めるときがきた」
3つ以上の島が連結する場合、本土となる島に《グランデ》をつける。
誰かに決められたわけではない。
古来からの風習のようなものだ。
気づけば、周りに人が集まりだしていた。
彼らの話題は〝本土選び〟で加熱していく。
「やっぱりシュボス? 色々便利なものが揃ってるし」
「ヒュレンには豊富な食糧もあるし、捨てがたいだろ」
「でも、施設関連ならグウェルも揃ってると思うぜ」
これは本土が決定するまで収まりそうにない。
どうやらレイカも同じように考えたようだ。
「ここはゼノさんに決めていただきましょう」
「いいのか?」
「はい、もとより我々はあなたのもとに加わらせていただくつもりでしたから」
レイカに続く形で反抗組織のメンバーたちが頷いていた。
機能的な意味で適しているのはシュボスだ。
デジャンの遺産は司令部として優秀な設備を備えている。
だが、本土は特別な意味を持つ。
連結する島々の象徴でなければならない。
「……ゼノ」
騒ぎを聞きつけてか、シャラがそばに戻ってきた。
ただ急いできたようで口元が少しだけ汚れていた。
すぐに指で拭ってあげたが、衆人環視の中とあって激しい羞恥心に見舞われたらしい。顔を真っ赤に染めつつ、後ろに隠れてしまった。
そんな彼女の動きに笑いつつ、ゼノは自らの考えを口にする。
「本土はダナガにしたい」
ずっと思っていたことだった。
ただ、その答えは誰もが予想外だったようだ。
大きなどよめきが上がった。
「いや、正気かよ……っ」
「そうだぜ。あそこ、なにもないぜ!」
ダナガの仲間たちでさえ戸惑っていた。
だが、考えを変えるつもりはなかった。
「たしかになにもない。俺たちにとっては囚人としてのいやな過去もある。けど、俺たちが立ち上がった始まりの島だ」
言い終えるや、ゼノは隣に立つシャラを見やる。
――そして、彼女と出会った場所でもあった。
「いいんじゃねえか。小奇麗な島よりよっぽど俺たちらしいぜ」
静寂を破ったのはヴィンスだった。
彼の声を皮切りに、ダナガの仲間たちも「ああ、そうだな!」と頷きはじめる。
ダナガの囚人だった者の想いを重んじた考えだ。
反抗組織のメンバーたちはどう思っているのか。
レイカたちの顔を窺うと、誰もが首肯で応じてくれた。
「それじゃ決まりだ」
人も島も増えた。
だが、帝国との争いが楽になるわけではない。
むしろここからが本当の戦いとなるだろう。
だが、彼らとなら。
彼女――シャラとなら。
必ず乗り越えられると思えた。
ゼノは全員の顔を見回したのち、声を張り上げる。
「ダナガ・グランデ……それが俺たちの本土だ!」




