◆第七話『作戦変更』
「お前ら、いつでもいけるように準備しとけよ!」
シュボス外縁の北発着場にて。
ヴィンスは仲間たちに向かって声を張り上げた。
「っしゃおらぁ!」
「やってやんぞ!」
気合の入った声があちこちから返ってくる。
全員、風銃や風翔石製の武器を手にしていた。
装備の充実度は、デジャン統治のシュボスを倒したときとは比べ物にならない。
さらに空車輪は25機。
ヒュレンから運び込まれたものもあって大幅に増えている。
ここにゼノという最強の戦士が加わるのだ。
負ける気がまるでしなかった。
「あとは合図を待つだけだな」
そう呟いたとき、視界の端にエルクが映った。
悔しげに下唇を噛みながら俯いている。
「いつまでふて腐れてんだ」
「……だって、ボクだけ待機なんて……」
「まだ完全じゃねえんだから当然だろ」
「でも、もう痛みはないし、走れます! ボクも戦えます!」
高めの声ながら威勢のいい声だった。
エルクの目にからは恐怖を感じなかった。
勇敢ともいえるかもしれないが……。
「戦わなくていいなら、それが一番だろ。死ななくていいんだぜ?」
おどけつつも諭すように言った。
だが、納得させるには至らなかったようだ。
エルクが体を震わしながら両手に拳を作る。
「ボク、ゼノさんにいつも助けられてばかりでなにもできていないんです……っ! いまのボクがあるのはゼノさんのおかげなんです……っ!」
エルクは、ダナガに来たばかりの頃、ずっと塞ぎこんでいた。あとで聞いた話だが、島を占領した帝国に抗議したことで見せしめとして親を帝国に殺されたらしい。さらに慣れない重労働に精神的にも参っているようだった。
そんなときに気にかけていたのがゼノだ。
だからか、エルクは特別ゼノに懐いているようだった。
「んなの、ここにいる奴らみんな思ってる。だけどよ、いまは我慢するときだ。下手にいって足引っ張るのもいやだろ?」
――エルクは危ういから見ていてやってくれ。
ゼノからそう頼まれていたが、まさしくそのとおりだ。なにかあれば命を投げ打ってでも事の解決に動きそうな危うさがある。今回の件が無事に終わっても、これから注意深く見守る必要があるだろう。
「ま、あいつの強さはお前も知ってるだろ。きっと大丈夫だ」
エルクの肩を叩きながらそう声をかけたときだった。
1機の空車輪が近づいてきた。
おそらく伝令役としてヒュレンに置いていた仲間だ。
「お、やっときたか」
人質解放を機に、グウェル島に乗り込む手はずとなっている。報告を聞く前から指揮所に足を向けようとするが、留まった。
伝令の顔が焦りに焦っていたのだ。
着陸後、伝令が転げ落ちるように空車輪から降りてきた。
「もしかして人質解放に失敗したのか……!?」
「違う! 話に聞いてた13輝将の島っぽいのが……5つの島がグウェルに接近してるらしいんだ!」
ラドゲイの島は《竜の亡骸》に襲われたばかりだ。
ゼノの話では、直撃だったと聞いている。
こんなにも早く立て直せるはずがない。
だが、伝令が嘘を言っているようには思えなかった。
だとすれば、ラドゲイは帝国本土から兵を補充することなく強行軍で来た可能性が高い。
バナトリエでの戦闘はラドゲイの勝利で終わったと聞いてはいるが……ゼノを相手に被害なしで勝てるとは敵も思っていないはずだ。にもかかわらず、敵は無茶な戦闘をしかけてきた。
ゼノの勢力が増すことを恐れているとも考えられるが、それなら余計に戦力を整えてから潰しに来たほうが確実だ。帝国にはそれだけの力がある。
なにか焦りのようなものが透けて見える。
いずれにせよ、グウェル島に乗り込んだゼノたちが危険なことには変わりない。
ふいにエルクが弾かれるように駆けだした。
1機の空車輪に搭乗するや、ヒュレン方面へ飛んでいく。
「おい、エルク! 待て!」
ヴィンスは舌打ちをした。
ゼノから任された手前、追いかけたいところだが……。
いまはなによりシュボスの対応を決めるのが先だ。
ゼノが死ねばすべてが終わる。
つまり、いますべきことはゼノの援護。
ヴィンスは近くの空車輪に急いで乗り込んだ。
ダナガに向けて飛び立とうとする。
と、仲間の1人から動揺の声が飛んできた。
「お前までどこいくんだよ、ヴィンス! シュボスを動かすなら乗る必要ないだろ!」
「たしかに俺たちの空車輪は増えた! だが、13輝将の島と空戦をまともにやるだけの数はない! だったら陸上戦もやれるようにする必要があるだろ!」
「……まさか、またやるのか?」
13輝将の島が相手なら戦力的に勝ち目はない。
だが、相手は《竜の亡骸》に襲われて大幅に戦力を落としている。
だとすれば勝機はある。
そして、その勝機を掴むための、最高の戦術を知っている。
――いや、見せつけられた。
「ああ、ダナガ突撃だ!」




