◆第六話『人質解放』
ゼノはシャラとともにグウェル島中央の軍事施設に到着していた。
高い建物はない。
あってもせいぜい3階程度だ。
ただ、数が多かった。
おかげで入り組んだ道がそこかしこに生まれている。
角から覗き込んだ先、平たい建物を見つけた。
窓もなく、小さな換気口が幾つかある程度だ。
帝国兵から聞き出した情報では、あそこに人質が囚われているという。
見張りはぼうっと立っているだけの帝国兵1人のみ。ほかに敵がいないことを確認後、横合いから一気に接近。左手で喉を絞めつつ、右手で腹に1撃を入れて沈めた。
「……ぬるいな」
「ここまで来られるとは思っていないのかもですね」
あとをついてきたシャラが言った。
ここに辿りつくまで幾人かを排除した。
だが、あまりにも簡単過ぎる気がした。
このグウェル島の統率者もデジャンのような男なのだろうか。
いずれにせよ、いまは悩んでいる暇はない。
いまもグリッグやシギたちが囮として動いてくれているのだ。一刻も早く人質を解放し、戻らなければ彼らに危険が及ぶ。
「行くぞ」
中に入ってから早々に出くわした看守を排除。
さらに進むと、幾つもの牢屋が並んだ区画へと辿りついた。
「くそっ、敵襲! てきしゅ――」
叫びだした敵の顔面を殴りつけた。
勢いよく吹き飛んだ敵は跳ね転ぶ形で遥か後方の壁に激突する。
ひとまずこれで静かになった。
牢屋には男女が囚われていた。
全員、やせ細って生気があまり感じられない。
「お前たちはヒュレンの――レイカの仲間か?」
「あ、あなたは……?」
1人の男から疑念と動揺が入り混じった目を向けられた。
一瞬、悩んだが、てっとり早いほうを選んで答える。
「クラーラだ」
「あぁ……まさか本当に来てくれるとは……っ」
まるで神に出会ったかのような顔をされた。
ほかの人質たちも会話を聞いていたのだろう。
あちこちから喜びの声が聞こえてきた。
「時間がない。さっさとここを出るぞ」
「で、ですが鍵が……」
「必要ない」
牢屋を無理やりにこじ開けてみせた。
男があんぐりと口をあけていたが、
「手錠はあとだ。全員、動けるか? いや、動けなくても動いてくれ」
そう声をかけながらほかの牢屋もこじ開けていく。中で横たわったり座ったりしていた人質たちが、よろよろと立ち上がっては外に出てくる。
レイカから聞いていたとおり13人で間違いない。
全員、憔悴しているのは一目瞭然だ。
だが、相反して目には強い意志を宿していた。
「わたしたちも反抗組織として戦ってきたんだ」
「ああ、それぐらいは……っ」
強大な帝国に歯向かおうという者たちだ。
心に秘めたものは、なかなかにいいものを持っているらしい。
「その気概だ。さすがにこの数を守る自身はない。できる限り自衛はしてくれ」
そばに落ちていた風銃を拾って1人に放り投げた。
ほかにも道中で倒した帝国兵の風銃もある。
すべてを集めれば充分な数になるはずだ。
「レイカさんは?」
「あいつはお前らを助けるために頑張ってるところだ」
グリッグとシギがいれば大抵の状況ならばどうにかできるはずだ。彼らの心配しているレイカも無事に違いない。
とはいえ、ここは敵地。
どんな危険が待ち受けているかもわからない。
こちらができることは可能な限り早く合流することだ。
「ゼノ、外が騒がしいです。もしかしたら気づかれたかもしれませんっ」
入口側を見張っていたシャラが声をあげた。
見張りが倒れていれば、さすがに敵も気づくか。
「だそうだ。急いでここを脱出するぞ!」
◆◆◆◆◆
隠密に事態を切り抜ける状況は過ぎ去った。
あちこちから迫りくる帝国兵の攻勢は増している。
ゼノは先頭を切って敵を排除しつつ、ついてくる人質だった者たちに叫ぶ。
「人数だけはいるんだ! 死角を消して進め! それぐらいはできるだろ!」
指示するまでもなく、彼らは上手く立ち回っていた。
ただ、数が多いこともあり、少しでもひらけた場所を走る際に危険にさらされる状況が生まれていた。そこを狙って3人の帝国兵が風撃を放ってきた。出遅れた1人が進むか戻るかの選択に迫られる。
「そのまま走ってくださいっ」
シャラが翼竜に変身してアストラの防御術を展開し、多くの風撃を防いだ。その隙に人質だった者たちが風銃で反撃し、迎撃。取り残された1人も無事に合流を果たせた。
「よくやった、シャラ!」
「は、はい……っ」
戻ってきたシャラを褒めると、嬉しそうに口元を綻ばせていた。
彼女の姉であるソフィアは翼竜に変化するとアストラの力が強まっていたが、どうやらシャラも同じらしい。風銃の風撃程度なら問題なく防げるようだ。
再び踏み入った路地を駆ける。
施設の中央を抜けたからか。
あるいは単純に敵が減ったのか。
敵の追撃が少し落ちついてきた。
「レイカとは、この中央施設の南側――発着場で落ち合うことになってる。辿りついたらお前たちはレイカと一緒に島を離脱しろ!」
「あなたは、どうするのですか?」
人質だった男の1人が訊いてきた。
「グウェルの帝国兵を黙らせる。また牢屋を壊しにくるのは面倒だからな」
「な、ならわたしたちもともに戦います!」
「そんな体でついてこられても足手まといだ」
「しかし、あなただけでは――」
「大丈夫だ」
即座にそう言って遮った。
そばを駆けるシャラと目を合わせつつ、男に答える。
「俺は1人で戦うわけじゃない。仲間もいるし、それに……お前らの仲間が協力してくれることになってるからな」
レイカたちが立ち上がったことを聞いてか。
男は誇らしげな笑みを浮かべていた。
全員に風銃が行き渡ったこともあってか。
その後も死者を出すことなく敵の追撃を凌ぎ――。
ついに合流地点である発着場に辿りついた。
瞬間、ゼノは思わず目を疑ってしまう。
20人ほどの帝国が待ち受けていたのだ。
さらにグリッグとシギ、レイカたちが拘束されていた。
「ははっ、期待どおりの顔をしてくれて嬉しいぜ」
帝国兵の中にいるはずのない男が混ざっていた。
一瞬、幻かと思った。
反抗組織の存在が知られた状態だ。こちらが反抗組織のもとに向かうと予想されることは、もちろん可能性の1つとして考えていた。
だが、相手は《竜の亡骸》に襲われたばかりだ。立て直しに少なくない時間を要するため、ここで交わることはないと踏んでいたのだが――。
いま目にしている光景が現実である、と。
そう言い聞かせるかのように西側の空から連結した5つの島が迫ってきた。
いるはずのない男――。
帝国13輝将のラドゲイ・ベイザランドが勝ち誇ったように笑う。
「よぉ、クラーラ。また会ったな」




