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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【明日への旅立ち】第三章

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◆第五話『グウェル島への侵入』

 ゼノはシャラに乗って空を飛んでいた。

 そばにはごつごつとした岩肌が続いている。


 時間までヒュレン島の底で待機。予定どおり接近したグウェル島の下部に移動し、上昇。敵の視界外から侵入せんと動いていた。


「見つけた敵はすべて潰す。頼むぞ、シャラ!」

『はいっ』


 侵入経路に選んだのはグウェルの東発着場だ。

 島の陸上から飛びだすと、駐屯する帝国兵たちからどよめきがあがった。


「よ、翼竜!?」

「誰か乗ってるぞ!」


 予想外の場所からの侵入者とあってか、敵は動揺していた。


 ざっと見たところ数は20人前後か。

 小さな建物は幾つかあるが、中にいたとしても50人は上回らないだろう。


 問題ない数だ。


 ゼノはフェザリアによる雷撃を展開。

 低空飛空で発着場を翔け巡るシャラにあわせ、敵兵を片っ端から排除していく。


 さすがに敵も迎撃行動をとってきた。

 あちこちから風銃による風撃が飛んでくる。


 だが、多くが空を切るだけに終わった。

 命中した風撃もアストラの防御術で霧散していく。


 幾人かの敵が空車輪に急いで乗り込もうとしていたが、離陸する前に沈黙させた。気づけば敵は残り1人となっていた。


「くそ、本部に報せを――」


 これから人質解放に向かわなければならないのだ。

 当然ながら1人として逃がすわけにはいかなかった。


 最後の1人も地面に押しつけて制圧する。


「シャラ、踏みつけておいてくれ」

「く、くそっ、重い!」

『し、失礼です……っ』

「そいつには色々と訊くことがある。潰さないようにな」


 シャラにそう忠告しつつ、外縁に立った。

 フェザリアによる雷撃を明滅させて合図を送る。

 と、ヒュレンの下部から空車輪が近づいてきた。


 やがてそばに着陸した空車輪からクァーナが降りてきた。

 彼女は周囲の光景を見つつ、困惑気味に言う。


「……相変わらず冗談みたいな強さね」

「奇襲だったから上手くいっただけだ」

「そういうことにしておく」


 クァーナがおどけたように肩を竦めて応じた。

 かと思うや、視線を下げて下唇を噛む。


「ごめん、ゼノ。まさかヒュレンが帝国の手に落ちてるなんて思わなくて……」

「クァーナのせいじゃないだろ」

「でもっ」


 飄々としているわりに責任感は強いようだ。

 ただ、いまは責任を感じるだけでは前に進めない。


「後悔してんならほかで頑張ってくれりゃいい。もしものときの援護、期待してるぜ」

「う、うん。任せて!」


 クァーナが手にした風銃をぎゅっと抱きしめながら頷いた。


「さてと……あんま時間もないからな。少々手荒になるかもしれないが、さっさと終わらせるとするか」


 ゼノは、いまもシャラに踏まれたままの帝国兵に向かった。


 いったいどんなことを想像したのか。

 帝国兵が「ひっ」と短く呻き、早々と恐怖に顔を歪めた。



     ◆◇◆◇◆


 レイカは輸送船の荷室に乗っていた。

 向かう先はグウェル島の中央一帯を占める軍事施設だ。


 船内の荷室にはほかに2人の男が乗っていた。


 彼らはグリッグとシギ。

 元ダナガの囚人であり、あの《雷帝のクラーラ》の仲間だ。


 彼らの腕には手錠がはめられている。

 星刻印も描かれてはいるが、見せかけの偽物だ。


「彼は、いつもああなのですか?」


 ふと口から疑問がこぼれた。


 あまりに唐突な質問だったからか。

 グリッグとシギがきょとんとしながら顔を見合わせていた。


「……雷帝のことか?」

「はい。貶めようとした我々を無償で許すだけでなく、こうして力になろうとしてくれるなんて……」


 信じられなかった。

 だが、夢でないことはわかっている。


 彼は――ゼノ・クラーラは本気だ。


「あの人は優しいデスカラネ」


 そう言って、グリッグが柔和な笑みを浮かべる。


「ダナガではほかの囚人を庇ってばかりイマシタ。ですが、誰より痛い思いをしているはずなのに、そんな素振りをまったく見せませんデシタ……それどころか、背中でわたしたちを安心させようとしてくれるんデス」


 直にゼノと話したからか。

 その光景を容易に想像できた。


「不器用なんですね」

「……そこがいい」

「シギほどじゃないですケドネ」


 笑い合うグリッグとシギ。

 ただ力があるだけでは彼らのような人間はついてこない。


 ――お前は優しすぎる。戦いには向かない。

 そう告げてきたゼノの言葉が思い出される。


 本当は彼こそが戦いに向かないのではないだろうか。


 ただ、それでも彼は先頭に立って戦い続けている。

 誰よりも危険な場所で傷つき続けている。

 すべては仲間のために。


「みんなの中には《雷帝のクラーラ》という名が持つ力に惹かれてついてきている人もイマス。ですが、わたしにとって《雷帝のクラーラ》の名は関係ありマセン。わたしは彼だから……ダナガで見てきたゼノさんだからついていきたいと思ったのデス」


 グリッグが話を終えると、にっこりと微笑んだ。


 1人の人間にここまで思われている。

 いや、きっとダナガの囚人だった者の多くが同じことを思っている。


 同じ代表(リーダー)でも遠く及ばない。

 そう強く思わされる。


 雷帝のクラーラ。

 かつて、たった1人で多くの者を纏め上げ、帝国に立ち向かった最強の戦士。


 やはり彼こそが、この穢れた世界を救う英雄となるべき人だ。


「レイカさん、そろそろ着きます」


 操縦者から声がかかった。

 船の正面には物々しい建物が所狭しと並んでいた。


 30日に1度。

 帝国への忠誠を示す際、訪れている場所。

 グウェル島の軍事施設だ。


 南側に設けられた発着場に輸送船が降下する。

 すぐさま取り囲むように20人ほどの帝国兵が風銃を持って近寄ってきた。


 こちらは人質をとられているとはいえ、帝国の反抗組織だ。警戒されるのは当然のことだが、普段より過剰な気がした。


 いやな違和感を覚えたが、計画を中止するわけにはいかない。反抗組織の仲間とともにグリッグとシギの背に風銃を突きつけた。


 あくまでこれは偽装だ。

 ゼノたちが裏で人質を解放するまでの――。


「ははっ。なんだよ、面白いことしてるじゃねえか」


 帝国兵たちの前に姿をさらすなり笑い声が飛んできた。


 前を歩いていたグリッグとシギが足を止めた。

 なにやらこわばった様子で前を見つめている。


 とくにおかしな点はないはずだ。

 いったいなにがどうなっているのか。


 そう思いながら、哄笑する帝国兵に目を向けた。


 瞬間、グリッグとシギの反応に得心がいった。


 いまも楽しげに笑う大柄な帝国兵。

 彼の服が、帝国の中でも限られた者しか身につけられないものだったのだ。


 大柄な男が口の端を吊り上げる。


「さあ、どうする? 大人しく降参するか? それとも――俺と殺りあうか?」



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