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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【明日への旅立ち】第三章

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◆第一話『反抗組織の存在』

「そんな美味い話があるわけないだろ。絶対に罠だ」


 ヴィンスの威圧するような低い声が響いた。


 バナトリエ島から逃げ延びた、その日。


 今後の方針について話し合うため、仲間の多くがシュボスの指揮所に集まっていた。すでに夜を迎え、指揮所から望める空は深い青色に染まっている。


「そのヒュレン島だっけか。農業島で食糧がたくさんあるうえに反抗組織(レジスタンス)が《雷帝のクラーラ》のために息を潜めて力を蓄えてるって……いくらなんでも話が美味すぎる」


 ヴィンスが口にしたのは、つい先ほどクァーナからもたらされた物資補給の案だ。


 物資だけでなく戦力も手に入る。

 現状からすれば、これ以上ない収穫だ。

 ただ、だからこそ疑念が生まれるのは無理もなかった。


「でも、美人の言うことだぞ、ヴィンス」

「そうだ! それにエロイ! 彼女は絶対に嘘はつかない!」

「うっせぇ! お前ら女ってだけで味方してんじゃねぇよっ」


 抗議しはじめた仲間たちに、そう吐き捨てるヴィンス。

 その光景を見つつ、クァーナが困ったように笑った。


「ま、あたしのことが信じられないってのは無理もないかもね」


 クァーナが悩ましげに腕を組んだ。

 あわせて持ちあげられた胸が軽く形を崩す。

 その動きを目で追いながら感嘆の声をもらす仲間たち。

 信用云々は置いておいても、多くの男心は掴めているようだ。


「クァーナ、質問だ。どうして俺がバナトリエ島に来るとわかった?」

「それに関してだけど、実際は正確に予測していたわけじゃないわ。あなたが来る可能性のある島に、わたしみたいなのが配置されていたってだけ」

「俺がダナガにいたことは当然知ってたんだろうな」

「ええ。そして〝ある人〟は確信していたわ。《雷帝のクラーラ》は必ず生きて表舞台に戻ってくるってね」


 クァーナはある程度のことは話してくれている。

 物資補給に関する情報も提供してくれた。

 だが、〝ある人〟に関しては明かそうとしない。


「その〝ある人〟についてはやっぱり言えないのか?」

「立場的に明るみに出るとどうしても、ね」


 話しぶりからして名の知れた人間だろう。

 帝国内部か、あるいは帝国に与している者である可能性が高い。


 いずれにせよ、クァーナは〝ある人〟の安全を守るために名前を明かすつもりはないようだ。明かせば信頼を勝ち取れるかもしれないというのに。


「ヴィンス、こいつは俺たちを危機から救ってくれた」

「それだって取り入るためかもしれねぇだろ」

「死ぬ可能性だってあった状況だ。取り入るなんて話の問題じゃない」


 ぐっ、とヴィンスが言葉に詰まる。


 13輝将に《竜の亡骸》の襲撃。

 死線と表するには充分な危険を孕んだその状況を想像してか、さすがにヴィンスも言葉に詰まっていた。


「たしかにクァーナの素性はまだ明らかになっていない。だが、クァーナは命の恩人だ。俺たちの味方として扱ってくれ。責任は俺が持つ」


 現状、ここにクァーナの居場所はない。

 シャラと同様、後ろ盾となるのは元から考えていたことだった。


 ヴィンスが険を解いて息を吐き出す。


「わかったよ。ゼノがそこまで言うなら俺も従う。……悪かったな、疑って」

「気にしてないわ。あなたたちの状況を考えれば、疑われるのも仕方ないもの」


 クァーナがにこりと微笑んで応じる。

 直後、仲間たちが「よっしゃあ、女だ! 女が増えたぞ!」と盛り上がりはじめた。


 おそらくヴィンスも本気で疑っていたわけではないだろう。


 ただ、クァーナは完全な部外者だ。

 提示された情報に疑念を持つ者は必ず現れる。

 だからこそ先に悪役を演じて疑念を潰してくれたのだ。


 そのことをクァーナも察したのだろう。

 盛り上がる仲間たちをよそに潜めた声で話してくる。


「バナトリエに同行してた2人もよかったけど……ほかにもいいのがいるじゃん」

「ああ、信頼できる奴だ」

「さすが偽名に使うだけあるわ」

「あれは適当に浮かんだだけだ」

「そういうことにしておく」


 くすりと笑みを零しつつ、片目をつぶるクァーナ。

 なんとなくだが、今後も彼女には手を焼かされそうな気がしてならなかった。


「それで、そのヒュレン島の場所は?」


 クァーナが空図のそばに向かった。

 現在の空域の北を指差しながら話しはじめる。


「第98コンテイル近くを浮遊してるわ。この辺りね」

「真っ直ぐ進むと、バナトリエ島のそばをとおることになるな……あの辺りはまだラドゲイの島が飛んでる可能性がある。遠回りして、どの程度でつくかわかるか?」

「ん~、たぶん3、4日ぐらいじゃないかな」


 思ったよりも結構かかる。


 一応、約18日分の食糧がシュボスには保管されていることがわかった。ただちになくなるわけではないが、いつ帝国の襲撃があるかわからない状況だ。早いうちに行動するに越したことはない。


「ヴィンス、進路を変えてくれ。目的地は――ヒュレン島だ」

「了解だっ」



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