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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【明日への旅立ち】第ニ章

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◆第十話『一筋の光と迫る闇』

 グリッグに出した指示は迅速に伝わったようだ。

 帰還したときには、すでにシュボスはダナガとともに移動を始めていた。


 シュボス島のもっとも近い外縁に下り立つと、大勢の仲間たちが駆け寄ってきた。グリッグやシギの姿も見える。どうやら無事に帰還できたようだ。


「ゼノさんっ、無事でよかったです……」


 そう安堵の声をこぼしたのはエルクだ。

 本当にどれだけ心配してくれていたかが伝わってきた。


 グリッグがこわばった顔を向けてくる。


「……帝国の島はどうなったのデスカ?」

「襲ってきた《竜の亡霊》を排除したあと、俺たちも急いであの空域を離脱したからわからない。ただ、奴らの島は完全に呑み込まれてた。あれじゃ生きてたとしてもすぐには追ってこられないはずだ」


 集まった仲間たちが揃ってほっとしていた。


 すでにグリッグたちから帝国と接触したことを聞いて戦闘になる可能性を考えていたのだろう。「《竜の亡骸》サマサマだな!」と普段は恐怖の対象である《竜の亡骸》に感謝する声があがっていた。


 たしかに生き延びられたのはいいことだ。

 グリッグやシギも大きな怪我はなく帰還できた。

 だが――。


「肝心の目的を達成できなかった。これも俺の考えが甘かったせいだ」


 入島の際に衛兵をもっと上手く取り込めていれば嵌められなかったかもしれない。シャラを要求してきたバナトリエ兵を排除したことも、ほかにやりようがあったかもしれない。


 なにより最悪なのは、目立ったことにより13輝将に出会ってしまったことだ。偶然とはいえ、最悪の事態を招いてしまった。


 言い訳のしようがない。

 ゼノは深く頭を下げる。


「すまない」


 仲間たちは反応に困っているのか。

 少しの間、静寂が辺りを包み込んだ。


「……あれはどうしようもなかったと思う」

「そうデスネ。たとえ要求を呑んでいたとしても、むしりとられるだけだったと思いマス。それにシャラさんに手を出そうとしたのデスカラ。ゼノさんがやらなくてもわたしが殺ってイマシタ」


 そう擁護してくれたのはシギとグリッグ。

 続けて、シャラが悔いるようにこぼす。


「そもそもバナトリエを勧めたのはわたしです。わたしがあの島を教えなければ……」

「ほかに選択肢はなかったし、選んだのはこっちだ。それこそシャラの責任じゃない」


 ついには責任の奪い合いになってしまった。

 空気が重くなりはじめた、そのとき。


 どこからか荒い息遣いが聞こえてきた。

 見れば、肩で息をするヴィンスが目に入った。

 島を発進させてから急いで駆けつけてくれたようだ。


「よくわかんねーけど、お前たちが無事に戻ってきたってのがなにより重要だ」

「……ヴィンス」


 彼の言葉に同意するように多くの仲間が頷く。


 本当に温かい仲間たちだ。

 責めてくる者は1人としていない。


「ねえ……あたしのこと忘れてない?」


 近くに停まっていた輸送船の陰から聞こえてきた。

 出てきたのは逃走を手伝ってくれたクァーナだ。


「お、女だっ! 女がいるぞ!」

「……しかもエロイ」


 仲間たちの目が野獣のようにぎらつきはじめた。


 実際、クァーナの姿は蠱惑的だ。

 それこそ女に飢えた仲間たちには毒といってもいいほどだ。


 欲求まみれの真っ直ぐな視線をあちこちから受け、クァーナもさすがに乾いた笑みを浮かべていた。


「悪い、完全に忘れてた」

「え、冗談のつもりで言ったのに……」

「冗談だ。島を出るときは助かった」


 クァーナは軽く拗ねたように「もうっ」とこぼすと、ふっと笑った。


「礼はいいわ。もとよりあなたを助けるためにあそこにいたんだし」

「それだ。どうして俺のことを知っている?」


 そもそもダナガから抜け出すタイミングも予測できないはずだ。にもかかわらず〝待っていた〟というような口振りには疑問しかなかった。


「やっぱりまずはそこからよね。約束してたし、わたしがどうしてあそこにいたのかは話すわ。あと……あなたたちが困ってる物資補給の案もね」


 クァーナが片目をつぶってそう付け足した。


 状況を悪化させただけかと思ったバナトリエ島への上陸。


 どうやら知らぬ間に成果となる希望を見つけていたようだった。



     ◆◇◆◇◆


 ラドゲイは自身の島に帰還していた。

 眼前に転がった《竜の亡霊》を蹴りつける。


「くそっ、いまから面白くなるってときに邪魔しやがって!」


 がしゃんと音をたてたそれはすでに動かない。


 見渡せば、ほかに何十体もの《竜の亡霊》が転がっている。そばには多くの帝国兵も倒れていた。苦しむ顔をする者もいれば、ぴくりともしない者もいる。


「被害は?」

「死者だけでもおよそ200ほどと……」


 もともと保有していた兵数は約500。

 つまり半数近くを失った形だ。


 最悪の被害だった。


 とはいえ、これでも最小限に抑えられたと言える。

 まともに《竜の亡骸》とやりあっていれば、1人も残っていなかっただろう。


 バナトリエ島になすりつけたのは我ながらいい判断だった。


 聖王国側からなにか説明を要求されるかもしれないが、《竜の亡骸》が原因だとわかれば引くはずだ。こちらも多くの死者を出しているのだ。言い訳には困らない。


「ったく、損な役回りだぜ」


 苛立ちまじりにそう吐き出す。

 と、ある光景が脳裏に蘇ってきた。

 それは先の戦闘で見つけたものだ。


「……いや、全部が損ってわけじゃねえか。むしろ得したかもしれねえよな」


 ラドゲイは「おい!」と声をあげた。

 応じた兵士に向かって告げる。


「すぐに本土に連絡しろ」


 最初に〝その予想〟を聞かされたときは、ありえないと思っていた。だが、現にこうして目にしてしまった。ならば、全力で事に当たるほかない。


 ラドゲイはゼノたちが去った方角に目を向けながら、口の端を吊り上げる。


「ようやく〝あれ〟が見つかった、とな」



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