◆第二話『決戦の場へ』
「こちらの状況は、あの少女を通じてあなたたちの仲間へと伝えました」
フレルダリアの淡々とした報告を、ゼノはシャラに抱きかかえられながら聞いていた。
彼女と合流したのはディメルが飛び去ってから間もなくのこと。青竜に乗って上空を飛んでいたところを、シャラが交信術を使って呼び止めたのだ。
「イゴスは倒したのか」
「はい、見てのとおり辛うじて、ですが」
フレルダリアもまたあちこちに傷を負っていた。
なによりひどいのは、だらりと下がった血だらけの左腕だ。相手が怪力のイゴスとあって盾ごと破壊されたのだろう。
「なら、後ろは問題ないな」
防衛部隊にはルピナがいる。
多少の帝国兵が向かったところで無事に守り切ってくれるだろう。
「……シャラ」
「はい」
シャラに手を貸してもらい、ゆっくりと身を起こした。そのまま肩を借りて立ち上がる。と、フレルダリアから驚愕の目を向けられた。
「なにをしているのですか? そのような体で」
「これぐらいの傷なら、いままでも戦ってきた」
「そういう問題では……そもそも、あなたは万全の状態で負けたのでしょう。いまの負傷した状態では──」
「だとしても、行くしかない」
いずれにせよ、ディメルを倒さなければ命はない。……いや、自分の命だけならまだしも仲間の命まで奪われる。帝国と争いを始めたときから、すでに選択の余地などない。
フレルダリアがシャラへと問いかける。
「あなたはいいのですか?」
「わたしは……どこまでもゼノについていくと決めています」
シャラは一瞬の迷いを見せたものの、次の瞬間にはいつもの真っ直ぐな目とともにそう応じていた。
フレルダリアはいまだ納得がいっていないようだった。だが、いくら説得しようともこちらの意志が変わらないと悟ってか、ついには諦めたように静かに息をついていた。
「勝算がないわけじゃない。あいつは、あれほどの力を持ちながらこれまで使ってこなかった」
「なにか理由があるはず、と?」
「ほかの狂人たちは強大な力を得る代わりに自我を失うほどの副作用を受けていた。つまりそれほどの負荷があるってことだ。奴もきっと、少なからず影響を受けているはずだ」
いつか崩壊はする。
確信はないものの、いまはその可能性を信じて戦うしかない。
「いずれにせよ、相手は風翔石を体内に埋め込むことで力を得ている。つまり力の源はフェザリアです。わたしのアストラによって対処できるはずです」
「そうだな。なら一緒に来てくれ」
「……そこはわたしに任せるべきではないのですか」
フレルダリアに思いきり呆れられてしまった。
ただ、その顔には先ほどとは違ってどこか柔らかさが混じっていた。
「フェザリアの力なしに戦うとしても、その体でまともに戦うのは厳しいだろう。そもそも、あんたのアストラで消せる力かどうかも怪しいところだ」
「相手のフェザリアのほうが強い、と」
「考えたくはないけどな」
あれほど強いフェザリアだ。並のアストラ使いでは相殺できるとは思えない。可能だとすればセレス・ビアトルやミリィぐらいか。とはいえ、フレルダリアのように己の力だけで戦えなければ、戦場に立ったところで狙われて終わりだ。現実的ではないだろう。
「……わかりました。もうあなたを止めはしません」
「いい判断だ。まぁ、できれば最初からそうしてくれると助かったが」
「あなたを休ませるには充分な時間だったと思いますが」
少し休んだところで癒える傷ではない。だが、疲労感はわずかに拭えた。どうやら慣れない皮肉まで口にしてくれたフレルダリアの気遣いに感謝しなくてはならないようだ。
と、フレルダリアの顔が険しくなった。どこか遠くを見るようなさまからして、おそらく交信術を受けているのだろう。
「なにかあったのか?」
「……聖王国の本土が墜ちたそうです。というより墜としたというほうが正しいかもしれません」
「どういうことだ?」
「乗り込んできた多くの帝国兵に占拠されかかっていたそうなので……」
「道ずれにしたってことか」
痛ましげな顔とともに頷くフレルダリア。
随分と大胆な判断だ。もっと保守的な考えの人間だと思っていたが、どうやらセレスへの印象を改める必要があるかもしれない。
「聖王はどうなった? まさか一緒に落ちたってわけじゃないだろう」
「《空の果て》に避難したそうですが……」
「時間はなさそうだな」
世界の中心には《空の果て》以外に〝島〟はない。
つまり聖王にとって最後の逃げ場というわけだ。
ただ、そこにはディメルも向かっている。
ゼノは翼竜化したシャラに飛び乗った。
青竜に乗ったフレルダリアとともに空へと上がる。
帝国との決着の場がまさか《空の果て》になるとは思いもしなかった。だが、こちらにとっては都合がいい。そこには、ずっと追い求めていた答えがあるからだ。
「シャラ、すべてを終わらせるぞ」
『はい……!』




