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シャラ・クラーラの奇蹟 ~かつて雷帝と呼ばれた男は、白銀の翼竜と自由を求めて空を飛ぶ~  作者: 夜々里 春
【青き空の世界】第三章

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◆第一話『果たすべき責任』

「敵の攻勢がいきなり止んだ!?」


 シュボス島の指揮所にて。

 ヴィンス・ローランドはひどく混乱していた。

 いましがた帰還したルピナからそう報告を受けたのだ。


「ああ、帝国の島に拠点を築いた者たちから得た情報だ。それからこれはまだ不確かな情報だが、帝国兵同士で争っているところを見た、と」

「帝国兵同士でって……喧嘩ってことか?」

「いや、小競り合いではなく、もっと大きな規模だそうだ」


 帝国本土と連結した島は数えきれないほど多い。

 おかげで戦場も相応に広く、すべてを把握するなんてことはできない状態だ。ゆえに仕方ないことではあるが、もどかしさで頭がどうにかなりそうだった。


「内乱でしょうか」


 そうこぼしたのはレイカだ。

 彼女もまた指揮所にずっと待機し、補佐をしてくれている。


 ルピナが少し考え込んだのち、ぼそりとこぼす。


「……まあ、心当たりがないわけではない」

「もしかして北西要塞を仕切っていたコディン・オーデュラッドでしょうか」

「おそらくは。最近の奴には不審な動きが多かった。そして狡猾な奴のことだ。仮に謀反を起こすつもりならば、このタイミングを逃すはずがないだろう」


 こちらを帝国本体とぶつけるためだった。そう考えれば、これまでのコディン率いる北西要塞組の動きは納得がいく。


「いずれにせよ、前線の対応を決めなくてはなりませんね」


 レイカが悩ましげにそうもらした。

 グリッグたち攻撃部隊は、現在も奪取した帝国の島を防衛中だ。敵が内で揉めているのを好機として攻めるか、あるいは防御に徹するか。早々に判断を下す必要がある。


「わたしは現状維持を提案する」

「……そうだな。無駄に追う必要はねぇ。あの前線はゼノやシゲミツのじいさん、それにあの聖騎士の戻る場所を確保するってのが目的だ。余計なことをして崩れることだけは避けなくちゃならねぇ」


 そもそも帝国がいくら内で揉めようとも戦力差は歴然だ。むやみに攻めたところで勝てはしない。それならば防御に徹して戦力を温存。敵が疲弊するのを待ったほうがいい。


 ただ、待つといっても時間は限られている。


「ゼノたちの状況がわかれば、べつの選択もとれるかもしれねぇが……」


 苦悩とともに吐き出した、そのとき。


『ヴィンスさん、ですか?』

「この声は……もしかしてミリィの嬢ちゃんかっ!?」


 いつの間に交信術を使えるようになったのか。

 すぐさま疑問をぶつけようとしたが、先に聞こえてきた彼女の深刻な声を前にどうでもよくなってしまった。


『さっきフレルダリアさんから連絡が入ったのですが……ゼノさんが負けてしまったそうです』

「……ゼノが負けた? 嘘だろ……?」


 信じられず、思わず

 こちらがこぼした言葉に、周囲の者たちが動揺をあらわにしていた。


『わたしも信じたくないです』

「状態は!? ゼノは無事なのか!?」

『生きてはいるそうです。ただ、とても戦闘を継続できる状況ではない、と』


 聞こえてくるミリィの声はひどく震えていた。


 瞬間、ヴィンスははっとなった。


 いま1番辛い思いをしているミリィが、我慢して冷静な報告に徹してくれている。そんなときに自分はなにをしているのか。ただ焦って、怒りをどこかにぶつけるように動くことしかできないのか。


 ヴィンスは深く長く息を吐いた。

 無理やりに気持ちを切り替えたのち、ミリィに問いかける。


「敵がどう動いているかはわかるか?」

『フレルダリアさんの話では、ディメル王と幾つかの島だけで《空の果て》に向かったそうです』

「わかった。報告ありがとな」

『……はい』

「大丈夫だ。ゼノは必ず助ける」


 ミリィとの交信術を終えたのち、情報を周囲の者たちと共有した。


 ゼノが敗れたという情報に場はいまだ動揺している。

 だが、ただひとりルピナだけは戦う意志を崩さずにいた。


「わたしがいこう。彼はこの組織の頭であり象徴だ。彼がいなくなることだけはなんとしても避けねばならない」

「……いや、ダメだ。あんたには俺たちの島を守るって大事な役目がある」

「しかしっ!」

「俺が行く」


 予想外の返答だったのか、ルピナが大きく目を見開いていた。だが、すぐさま顔を引き締めると、まるで対抗するように睨みつけてきた。


「きみにも総指揮という重要な役割があるだろう」

「もともとよ、ダナガのナンバー2ってだけでここに座ってただけで俺に指揮の才能なんてものは微塵もねぇんだよ。暴れるほうがよっぽど性に合ってる」


 ヴィンスはおどけながらそう答えた。

 ゼノは適任だと言ってくれたが、自分ではそう思わなかったのが本音だ。ただ、いまは向いているかどうかなんて問題ではなかった。


「あいつは……ゼノはもともと争いなんか望んじゃいなかった。優しい奴なんだ。そんな奴をまたこんな舞台に戻しちまったのは俺だ。だから、俺が行かなくちゃならねぇんだよ」


 ゼノはどれだけ厳しい戦場でも圧倒的な力で敵を蹂躙していく。味方としてこれほど頼りになる男はいない。


 ゼノさえいればなんとかなる。そんな気持ちにさせられるが、ふとした瞬間に見てしまったのだ。悲しみと寂しさの入り混じった翳りある顔を。


 そのとき、悟った。

 どれだけ強くとも彼も人間だ、と。


 こちらの心中を察したのか、ルピナが悲しげな目を向けてくる。


「ヴィンス・ローランド……きみは……」

「あとは任せたぜ」


 語ることはもうない。


 ヴィンスは指揮所から駆け出し、テラスへと出た。そのまま手すりを飛び越えて下の4階テラスに着地。近くに停められた空車輪へと飛び込んだ。


 待ってろ、ゼノ。いますぐ行くからな……!




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