◆第ニ話『デジャンの遺産』
「すげえ、なんだここ……」
「こんな感じになってたのか……」
呆けた声があちこちから聞こえてくる。
ゼノは、シュボス中央塔の6階に仲間とともに訪れていた。
100人と決して少なくない数だが、なんとか入れる程度に広い円形部屋だ。
中央塔の全体的な印象と同じく無機質な空気を持っている。ただ、ほかとは違って手入れが行き届いているせいか、どことなく上品さを感じられた。
中央には楕円形に配された机が並んでいる。
一見して会議室ともとれるし、実際にそのとおりに使っていたのかもしれない。ただ、それだけの用途に留まらないことは、すでに知っていた。
「シュボスの指揮所らしいが、驚きなのはここから島を動かせることだ」
ゼノは部屋の最奥に向かった。
3段上がった先の床に玉座のごとく置かれた椅子。そこに腰を下ろすと、少し先の床の一部が横にずれた。中から島を動かすための操舵輪がせり上がってくる。
仲間たちから驚きの声があがる。
予想どおりの反応だが、まだ見せるべきものはあった。
「さらに便利な機能もついてる。これを見てくれ」
玉座――操縦席の手すりにつけられた2つの丸い突起を押す。と、全方位の壁が騒がしい音をたてて下へと収納。硝子の壁があらわになり、外の景色を望めるようになった。
「窓が開いた!?」
「それだけじゃないぞ!」
驚愕する仲間たちの視線が一箇所に集まる。
操縦席の向かい側――やや上方の壁面に巨大な空図が現れていた。
「……空図? しかもこれ、不動島まで載ってるぞっ」
「つまりアストラを使った状態ってことかよ……」
基本的に所有者が同じ島しか空図には映り込まない。ただ、アストラを使うことであるものが映り込む。
それが不動島と呼ばれる島だ。
人は住んでいないし、実際に住める環境でもない。
ただ、いっさい動かないうえにアストラに反応する。
ゆえに、広大な空を航行するための目印として重要な役割を担っていた。
「占星石が組み込まれているそうだ。看守の話じゃ、13輝将が与えられる島と同じクラスの施設らしい」
占星石はアストラの力を内包した鉱石だ。高位のアストラ使いが何年も手をかけることでようやく一欠けらが作れるという。そうした手間もあってか、非常に価値が高いものとなっている。
ヴィンスが仲間たちの疑問を代弁するように問いかけてくる。
「でも、どうしてこんなもんがシュボスに? 辺境も辺境だぞ」
「デジャンの奴、帝国本土と連結する島の所有者になることを夢見てたみたいだからな。ひとつの可能性として、シュボスをそのまま加えてもらうことも考えてたんだろう」
環境こそ最悪だが、帝国本土から目につきにくい場所だ。囚人だけに留まらず兵士も締め上げ、たっぷりと私腹を肥やしていたのだろう。
「でも、いつの間に尋問なんかしてたんだ?」
「お前らが夜遅くまで酒盛りをしてる間にな」
「……す、すまねえ」
ヴィンスを含め、仲間たちがばつの悪そうな顔をする。
「謝る必要はない。実際、酒盛りもあえて止めなかったしな」
「あえてって……どういうことだ?」
「これから忙しくなるだろ。いざってときに酔ってまともに動けないなんてことになったら笑えないからな」
「だから、いまのうちにできるだけ酒を消化させたってことか」
ようやく意図に気づいたか。
やられたとばかりに幾人かが苦い顔をしていた。
「……俺、今日からちびちび飲むことにするわ」
「俺もだ。久しぶりに酒の味を知ったからもう戻れねぇ」
禁止したところで飲む者は飲む。
ならば、と量を減らすしかない状況を作るという考えに至ったわけだ。
仲間たちの真剣に悩むさまを見て笑いつつ、ゼノは椅子から立ち上がる。
「さて、ここからが重要な話だ。俺たちが今後生き残るには大まかに2つの選択肢がある。1つは帝国との戦いに勝利する。もう1つは《空の果て》まで行くことだ」
さらっと口にしたが、どちらも途方もない目標だ。
幾人かは覚悟していたようだが、多くの者がうろたえている。
「これが現実的かどうかの話はまたべつだ。いまはやるしかないんだからな。もちろん、これから上手い落としどころってのに遭遇するかもしれない。そんときは喜んでそこに向かえばいい」
答えが1つとは限らない。
ただ、現状ではなにをするにしても力がなさすぎる。
「いずれにせよ帝国から追われる状況に変わりはない。いまだって俺たちに迫っているものがある」
「……帝国の輸送島」
誰かがそう呟いた。
ゼノは「そうだ」と頷いて話を続ける。
「シュボスには物資補給のために帝国本土から定期的に輸送島がやってくる。看守たちに聞いたところ7日に1回らしい。そして次に輸送島が来るのは今日――」
仲間の幾人かが緊張した様子で唾を呑んでいた。
その様子をたっぷりと堪能してから話を継ぐ。
「――から3日後だ」
「な、なんだよ驚かすなよ」
「くそっ、びびったじゃねえかっ」
これまでシュボスに輸送島が接近していたことは、石拾い中に搭乗した空車輪から確認していた。とはいえ、期間について詳細に把握していたわけではなかったため、今回の尋問で知った形だ。
と、仲間の1人がこわばった顔を向けてきた。
「その話をしたってことは……もしかして輸送船を襲って物資を奪うのか?」




