◆第六話『造られた翼』
すでにダナガは単独で発っていた。
現在の操縦者はサクラ一味の人間が担っている。
それに際して所有者もサクラに預けている状態だ。
「……これが改良型のガリアッドか。かなり細身になったな」
ゼノは眼前のガリアッドをまじまじと見ながらそうこぼした。
今回、ダナガを南要塞島に接近させることはしない。あくまで中継用として同行してもらっている。とはいえ、万が一ということもあるため、最低限の防衛戦力を配置。その中にエルクを選抜していた。
「ですね。おかげですごく動きやすくなりました」
左足を軸にその場でくるりと回転するガリアッド。もとよりほかのガリアッドより操縦の上手かったエルクだが、改良されたこともあってか、これまで以上に動きが滑らかだった。
感心しながらエルクのガリアッドを見ていると、隣にサクラが立った。
「本当はこれで終わりじゃなくて飛行機能もつける予定だったんだよ。だけど、材料が微妙に足りなくてねー」
「飛行って……ガリアッドが飛ぶのか?」
「そそ、でも実はそんなに驚くことじゃないんだ。結局は空車輪に使ってる機能を応用するだけだからね。とはいえ、いまよりごっつくなっちゃうし、一概に有効改造とは言えないけど。ま、エルクくんならいけるだろうって」
なんともないことのように語るサクラ。前例がないこともあってあまり想像はできない光景だが、本当にガリアッドが自由に空を飛ぶのなら見てみたいものだ。
それにしても――。
「買われてるな、エルク」
「きょ、恐縮です!」
そう答えながら、ガリアッドで姿勢を正すエルク。
どれだけ強くなっても謙虚なあたりは彼らしかった。
と、後ろから誰かに服をつままれた。
振り返ると、そこにはシャラに付き添われたミリィが立っていた。
「……ミリィ?」
「出発前に話したかったみたいです」
そうシャラが代弁すると、ミリィがこくりと頷いた。いつも以上に大人しく感じるのは気のせいではないだろう。向けられる瞳も不安な色を湛えている。
「大丈夫だ。俺は必ず戻ってくる」
「……うん」
「俺としてはミリィがここにいることのほうが心配なんだけどな」
前回、南要塞島との戦う前、断固として主張を曲げなかったときと同じように今回もミリィはダナガに乗ると言って聞かなかった。普段はあまりわがままを言わない反面、こういうときだけは絶対に折れない。
ミリィが〝自分〟を持つようになったのは嬉しいが……これは命の危険がある問題だ。複雑な想いで一杯というのが本音だった。
と、そばで静観していたサクラがどこか呆れたように息を吐いた。
「ぶっちゃけちゃうけどさ、きみがいなくなった時点でボクたちも終わりなんだよ。だから、ボクらができる最大の支援をするってのは理にかなってると思うんだよね」
たしかにいまのダナガが本領を発揮するにはミリィの障壁は必要不可欠だ。南要塞島からデヘナを救出し、帰還した際、ダナガの迎撃機能が力になってくれることも間違いないだろう。
とはいえ、初めて出来た自分の娘だ。
過保護と言われようが、不安な気持ちは拭えなかった。
ゼノはミリィの頭に手を置きながら、中央施設のほうへ目を向けた。そこにはゲンゴロウと話す背丈の差が激しい2人の男が立っている。グリッグとシギだ。
「グリッグ、シギ。頼む」
「任せてクダサイ」
「……了解。死守する」
ダナガの迎撃機能だけでなく、頼れる仲間たちも同行している。きっと大丈夫だ。それにおそらくダナガが戦場となるのは、南要塞島からデヘナを救出したあとだ。つまりこの身も帰還している。
手が届く範囲であれば、どんな敵が相手でもやらせるつもりはない。
「ゼノ」
横合いから声をかけられた。
見れば、クァーナに真剣な顔で迎えられた。
普段の軽い調子はなりを潜めている。恩人を助ける戦いとあって普段以上に緊張しているのだろう。彼女は肩に担いだ風銃をぐっと握りながら、重たげに口を開く。
「デヘナ様をお願い」
「……ああ、任せろ」
クァーナには幾度も助けられたし、デヘナ本人にも恩はある。この救出作戦は個人的にも果たさなくてはならないものだ。
そろそろ時間が近づいていた。ゼノはシャラに声をかけ、翼竜化してもらった。飛び乗ったのち、仲間たちの顔を見回しながら告げる。
「それじゃ行ってくる」
◆◇◆◇◆
サクラは首が痛くなるぐらい空を見上げていた。
ゼノとシャラの姿はすでに小さな点となっている。
敵に接近を悟られないようにするため、可能な限り上昇するつもりらしい。
ただ、驚くべきはその高度だ。ほかの翼竜があんな高いところまで到達しているところを見たことがない。シャラが特別であることは間違いなかった。帝国は白銀の翼竜を追っているという話だったが……もしかすると、あの自由に空を飛ぶ力が鍵となっているのかもしれない。
そんなことを思いながら視線を落とした。
直後、いまだゼノたちをじっと見つめるクァーナが映り込んだ。サクラは彼女のそばに歩み寄ったのち、声をかける。
「本当は行きたいんだろう?」
「……当然よ。でも、行ったら足手まといになるのはわかってる」
言葉とは裏腹に、彼女が消化しきれていないのは明らかだった。クァーナは体を震わせながら、抱いた悔しさをあらわにしている。
「そうかもね。でもさ、彼も強がってるとは思うんだよ。それに聞いたよ。シャラさん、彼とミリィちゃん以外の人を乗せるの、あんまり好きじゃないってね」
仕方ないことだとしてシャラも納得していたようだが、不満がなくなったわけではないようだった。そんなわずらわしさが飛行にわずかでも支障をきたすかもしれない。そうでなくても1人増えるのだ。ゼノは少なくとも片手を塞がれた状態で戦うことを余儀なくされる。
彼が13輝将を相手に無理なく戦えるのは2人だと聞いている。しかし、今回は最低でも3人を相手にする必要があるかもしれないという。ならば、なおのことデヘナを運ぶことだけでも手伝わないと勝機はない。
「でも、相手には13輝将がいて間違いなく翼竜に乗ってる。仮に空車輪で向かったとしても墜とされるだけよ」
「じゃ、墜とされないほど速く動けたとしたら?」
「そんなことできるわけが――」
「ボクを誰だと思ってるんだい?」
あえて誇張する形で胸を張った。
歴代のナナツガネは、これまで不可能と言われていることを可能にしてきた。その探究心と技術力は、この身にも受け継がれている。
「実を言うと、嘘をついていたことがあってね。本当はエルクくんのガリアッドを飛ばすことはできたんだ。でも、飛べるガリアッドはそこまで速くは飛べないからさ。その〝速い空車輪〟の完成を優先させてもらったんだ」
偽りでないことをクァーナも理解したようだ。
悔しさで支配されていたその目に火が灯りはじめている。
「改めて訊くけど……どうかな? ボクの船に乗るつもりはあるかい?」
「あたしには、なにもできないと思ってた。でも、少しでも役に立てることがあるのなら、答えは決まってる」
クァーナにとってデヘナがどれだけ大切な人かは聞いていた。デヘナを助けたいという想いの強さも感じていた。だからこそ用意した手段だが、どうやら最高の贈り物となったようだ。
「……お願い。あたしも連れていって」
気持ち良いぐらいに真っ直ぐな目と言葉だった。
サクラはにかっと笑いながら、「ああ!」と頷いた。
「よし、そうと決まったら早速準備だ。ゲンゴロウ~! 例のもの、使うことになったから準備――」
よろしく、と口にしようとしたときだった。
シュボスやほかの島々があるほうから、空車輪が出す独特の震動音が聞こえてきた。釣られるがまま無意識にそちらを見た、瞬間。
サクラは思わず目を疑ってしまった。
「こ、これは予想外だ……」




