◆第五話『新しい場所で』
翌日。ゼノはシャラとミリィとともに、各島に足を運んで被害状況を確認していた。報告は受けていたが、自らの目で見ておきたかったのだ。
そして訪れたフォルツィアット島の格納庫にて。
ちょうど居合わせたエルクから被害状況を聞いていた。
「出動した9機中、5機が大破。残りの機体も損傷が激しく、再稼動まで時間がかかる状態みたいです」
「……こっぴどくやられたな」
ダナガが多くの敵を引きつけてくれたとはいえ、すべてではない。敵の数の多さもあいまって抜けた数は少なくなく、それらによって受けた被害は甚大だったというわけだ。
「ボクの機体もかなりやられてしまって……ごめんなさい」
「お前が無事だったんなら、それでいい」
そう伝えてみたものの、エルクの顔は晴れない。
「ボクがもっと上手くやれていれば……」
「そんなこと言ってますけど、エルクくん、最低でも20機は撃破していましたよ」
そばをとおりかかった1人の女性がそう声をかけてきた。たしかエルクと同じガリアッド乗りだったはずだ。彼女はこちらに頭を下げたのち、笑みを残して去っていく。
エルクはというと、照れているのか、あわてふためいている。
「み、みなさんの支援があったからで……なので、ボクだけの戦果じゃないですっ」
「だからといって20機撃破はそうそうできることじゃない」
「はい、すごいです」
ゼノはシャラとともに称賛の言葉を贈った。
ただ、肝心のエルクは恐縮しきった様子だ。
そんなエルクを、ミリィが窺いがちに見つめていた。
「ミリィとそんなに変わらないのに戦場に出て……活躍して……尊敬、します」
「あ~、ミリィ。変わらないっても5歳ぐらいは違うと思うぞ」
「そ、そうです! そんなに違うのに最前線のダナガで戦って……きみのほうがすごいよ……!」
力説するように声をあげるエルク。
ただ、相反してミリィはばつが悪そうな顔をしている。
「でもミリィ、戦ってたわけじゃなくて、建物の中にいただけだから」
「それでも、とても勇気のいることだと思う」
そう告げるエルクの目は、どこか熱を帯びているようだった。
ゼノはシャラのほうに目を向けたところ視線が交差した。どうやらシャラも同じことを感じたようだ。ゼノはふっと笑みをこぼしたのち、いま一度ボロボロのガリアッド群に目を向けた。
「いずれにせよ、エルクの機体も潰れたのは痛手だな」
「それなんですが、サクラさんがまた見てくれるみたいなんです。『ほとんど壊れてるから、これはもう大胆に改造しちゃおう!』って」
「大胆にってところが不安だが……サクラがやるなら大丈夫だろう」
あれでもナナツガネの名を持つものだ。
いまも背負っている戦斧を手がけた人間でもある。
きっとエルクのガリアッドも上手く改良してくれるだろう。
その後、少し整備士たちと話したあと、格納庫をあとにした。
城内の廊下は、ガリアッドがそのまま移動できるとあって相変わらず巨大だ。ただ、その解放感もいまや以前にも増していた。先の戦いで外側の壁が破数箇所壊されていたのだ。廊下側に流れた瓦礫こそ撤去されているが、いまだあいた穴は塞がっていない。
ふいに後ろから「ゼノさん!」と声が聞こえてきた。
振り向いた先にいたのは、ユリアスだ。
彼もいまや王とあって、その後ろには2人の従者を連れている。
「お迎えできず申し訳ございません」
「来てくれるのは嬉しいが……無理して迎える必要はないんだぞ」
「いいえ、わたしがしたいのです」
曇りのない目を向けられては「やめろ」とも言えなかった。一国の王として体裁的にどうなのかと思ったが、これもユリアスの美徳なのかもしれない。後ろに控える従者たちの温かな笑みを前にして、そう思わされた。
「もう格納庫には行かれたのですか?」
「ああ、さっき見てきて、いまは城内を確認中だ」
言いながら、ゼノは近場の破損した壁へと目を向けた。いまも多くの人たちが修復作業に当たっている。だが、むき出しになった広い空は一向に縮まる気配はない。
「塞がるのは当分先になりそうです」
「すまない。本来なら守るべきものだが……」
「民を守るためについた傷ですから。歴代の王も誇りに思ってくれるはずです」
そう語ったユリアスに悲観した様子はいっさいなかった。自身のすべきことをしかと理解し、前だけを見ている。まだ子どもの印象が強かった初対面時に比べると、別人のように良い面構えだ。
「立派に王をしてるじゃないか」
「姉上にはまだまだ及びませんが」
ユリアスが苦笑まじりにそう答えると、ミリィが「ミリィは、すごいと思う」とこぼした。ミリィはずっと背中に隠れていたこともあり、その存在にユリアスもいま気づいたようだ。
「ミリィさんもいらしていたんですね」
「は、はい」
ちょこんと顔を覗かせて、返事をするミリィ。
その様子を見るや、ユリアスが後ろの従者に目配せをし、2歩ほど下がらせていた。途端、ミリィが恐る恐るといった様子ではあるが、前に出てきた。
「ついていきたいってミリィがお願いしたんです」
「そうだったんですか。では、本日はこのまま寄っていかれるのですか?」
「ま、まだ考えてないです」
娘として紹介したので2人に面識はある。だが、怖がるミリィを見てすぐに従者を下げさせたことや、やりとりの様子からして、こちらの知らないところで幾度か接触しているように感じられた。
「2人ともよく話すのか?」
「はい。スフレさんのところによくいらっしゃるので」
「自然と話す機会があるってことか」
こくりと頷くミリィ。
人見知りの激しい彼女が誰かと話すのは珍しいことだ。エルクといい、やはり歳が近いことも影響しているのだろうか。いずれにせよ、親として嬉しいことには変わりない。
「俺の大切な娘だ。これからもよくしてやってくれ」
「は、はい! もちろんです!」
力のこもった声が返ってくる。
少々気負い過ぎかと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。2人は遠慮がちではあるものの、楽しげに会話を交わしている。
そんな2人を横目に見つつ、シャラが潜めた声で話しかけてくる。
「ミリィ、モテモテですね」
「無理もない。外も内も非の打ち所がないからな」
「……ゼノは親バカの素質ありですね」
「そう、なのか」
「はい」
迷いなく言い切られてしまった。
とはいえ、べつに親バカでもなんでもよかった。
ただ、願うのはひとつのみ。
ミリィが幸せになってくれることだ。
そのためにも――。
ダナガに連なるすべての島々に安寧が必要だ。




