◆第四話『ナナツガネとボスクィル』
「へぇ、シュボスにも格納庫があったんだね」
「フォルツティアのものに比べたら、かなり規模は小さいけどな」
「それでも立派なものだよ」
ゼノは、サクラと2人でシュボス1階の格納庫を訪れていた。まだ彼女には見せていなかったことを思い出し、案内したのだが……どうやらお気に召したらしい。周囲を見回しながら感嘆の声をもらしている。
「気に入ったのなら使うといい。いまじゃ見てのとおり倉庫状態だからな」
「いいの? あー、でもゆくゆくはダナガに集中させたいんだよなぁ……」
「それまでの繋ぎってことでいいんじゃないか?」
「じゃ、ボクらの第一支部ってことで」
どこか得意気な顔でにかっと笑うサクラ。
だが、彼女の眉はすぐに下がりはじめてしまう。
「また時間もらっちゃってごめん。そっちも忙しいのにさ」
どうやらこれまでも強がって笑っていたようだ。
ゼノは脇の太い配管に腰を下ろしたのち、肩を竦める。
「戦闘以外は暇してる身だ。気にするな」
「じゃ、遠慮しないでおこうかな」
「そうしてくれ。いまやサクラも俺たちの一員だからな」
そう伝えたところ、サクラがきょとんとしてしまった。
「……どうした?」
「いや、きみの周りにどうしてあんなにも多くの人が集まるのか。その答えをいまひしひしと感じていたところだよ」
「どんな答えを出したのかは知らないが、色々と運に恵まれたおかげだ」
「そういうことにしておくよ」
サクラはおどけるように笑うが、すぐに難しい顔をしてしまう。やはりソラール王国――故郷の島が落ちたことを引きずっているのだろう。ただ、彼女は落ち込んだ気持ちを振り切るように息をはくと、悪戯っ子のような笑みを向けてきた。
「さっきダナガで話してた続きなんだけどさ。〝あの人〟がボスクィル商会の頭領だったって知ったとき、どう思った?」
「そりゃあ驚いたぜ。なにしろ帝国側の組織だからな」
「のわりにあんまりそんな感じしなかったけど」
「それ以上に気になったことが……デヘナとサクラの繋がりがまるで想像つかなくてな。敵対していたんじゃないのか?」
「そうだよ。実際は敵対っていうか、商売敵だけどね」
つまりライバル的なものだろう。
サクラがそばに置かれた木箱に腰を下ろすと、自嘲するように笑った。
「ま、最終的にこっちは負けたんだけど」
「ボスクィルが帝国と手を組んだからだろ」
「うん。だから、負けるのも仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね」
どこか晴れ晴れとした様子で口にするサクラ。
ただ、その目にはたしかな悔しさが滲んでいた。
「ただ、デヘナはナナツガネ商会を完全に解体しようとしなかった。それどころか再起できる余地を残してくれた」
「……意味がわからないな。帝国と手を組んでまでナナツガネ商会を潰そうとしたんだろ?」
その答えはどうやら複雑な事情を孕んでいるようだった。サクラが両手を合わせたのち、険しい顔で話しはじめる。
「ボクらは帝国に商品を売らないようにして間接的に敵対行動をとっていた。それをよく思わない帝国がボクらを潰そうとしていたんだ。たぶん帝国に潰されていたら命まで取られてたと思う」
「……だから、ボスクィル商会は先にナナツガネ商会を潰すことでそれを回避した」
「そういうこと」
「なぜそこまでする必要がある?」
「あの女に言わせたら、ナナツガネ商会ってのは商人の中で象徴でもあり追われるべき存在なんだって。だから潰れてもらっちゃ困るんだってさ」
美しい話ではあるが、商人として実力で負けたうえに情けをかけられた形だ。サクラとしてはたまったものではないだろう。
「ほんと気に食わないよね。接触をはかるときも、あっちから一方的なものばかりだし。きみの武器を造れってのもね」
「だが、そのおかげで俺は助かった」
「だから余計にムカつくんだよ。あの女の手の上って感じで」
サクラはしかめっ面で怒りをあらわにする。だが、次の瞬間には怒気を抜くように息をついたのち、「……でも、恩義はある」と呟いて困ったように笑った。……なんとなく、サクラとデヘナの関係が透けてみえるようだった。
「ここに来たボスクィル商会の人たち、ボクのほうで預かってもいいかな? 彼ら、状況的にもう戻れないだろうからさ」
「ああ、構わない」
こちらでも対応に困っていたところだ。
纏めて預かってくれるというのなら任せるほかない。
サクラが「よっ」と飛び跳ねるように木箱から立ち上がった。汚れた衣服の埃を叩き落としたのち、したり顔を向けてくる。
「ありがと。これで人手が増える」
色々話して気持ちが紛れたか、あるいは心の整理でもできたか。どうやらもうソラール王国の件は吹っ切ったようだ。サクラの顔に本当の意味での笑みが戻っていた。
「恩人の部下だろ。ほどほどにな」
「それはそれ、これはこれ、だよ」




