◆第三話『開戦の狼煙』
すでに敵と判明しているからか。
遥か先に映り込んだ多くの島々が、まさに生きた獣のように見えてならなかった。
「シャラ、これ以上は危険だ。戻るぞ」
ゼノは翼竜化したシャラにそう指示を出して空域から離脱。シュボス島まで戻ってきた。中央塔6階に降り立ち、その足で指揮所へと入る。
中で出迎えてくれたのはヴィンスにクァーナ。レイカとルピナだ。
「敵の島はおよそ30。想定以上の数だ」
そう報告すると、彼らが揃って息を呑んだ。
本日、連合国と連携を約束した日を迎えていた。
すでに南要塞島の周辺空域に到達し、睨み合いが続いている状態だ。ただ、敵に動く様子はなく、むしろいつでもかかってこいとばかりにどっしり構えている。
「やはり敵も準備をしていたか……」
そう険しい顔でこぼすルピナ。
隣では、ヴィンスが信じられないとばかりに動揺をあらわにしていた。
「にしても30って……こっちの4倍以上じゃねえか」
「戦力的に見れば、その差はもっと大きいでしょうね」
レイカが冷静にそう口にすると、クァーナが肩をすくめながら頷いた。
「だね~。ほとんど武装してる帝国の島と違って、こっちは半数近くが戦闘能力のない島だし」
まともに正面からぶつかり合えば、間違いなく押し潰されるだろう。たとえ勝利できたとしても、仲間の命を無駄に散らすことになりかねない。
「どうする、クラーラ?」
「予定を変更して第二案でいく」
「さらに防衛重視か。たしかにそれが最善策だとはわたしも思うが……」
「俺なら大丈夫だ。それよりルピナの位置どりが重要になってくる。頼むぞ」
第二案は、ほかの仲間たち全員で守りを固め、その間にこちらで13輝将を討ち取るという作戦だ。防衛の最前線はルピナとなるが、彼女には余裕があれば多少前に出てもらうことになっている。
単純に暴れるだけというこちらとは違って、出過ぎれば防衛が崩壊しかねないという難しい立ち位置だが……。
「任せてくれ。貴公の憂いはすべて断とう」
ルピナが心配するなとばかりに勝ち気な笑みを向けてきた。
後ろを13輝将級の戦士が守ってくれている。
その事実は本当に心強いものだ。
「シャラ。ニアン島とレナス島、ヒュレン島を囲むようほかの島に指示を出してくれ。シュボスは前面だ」
「わかりました。ダナガはどうしますか? 予定どおり突撃でしょうか?」
「いや、敵の陣形は両翼に開いた状態だった。いつもみたいに突っ込んでも呑まれて終わるのは目に見えてる」
ダナガの突撃は、味方を鼓舞するのにも打ってつけとあってできればしたかったが……それでみすみす島を落とすわけにもいかない。それに今回のダナガには、これまでと違って戦闘能力もそなわっている。
「こっちと敵の中間地点において一定の距離を保ってもらう。敵の島が距離を詰めてくれば引いて、逆にあけようとすれば詰めさせる。大事なのは、相手に上陸のひと手間を与えることだ。接岸だけはさせないように伝えてくれ」
頷いたシャラがすぐさまアストラの交信術で指示を伝えはじめる。最中、ゼノは指揮所に集まった者たちの顔を見回した。
「みんな、ここを越えれば連合国との合流は目前だ。合流できれば、未来が見えてくる。いつも言ってるかもしれないが、ここが勝負所だ。絶対に勝つぞ……!」
◆◆◆◆◆
ゼノはシャラとともにダナガ島に移動していた。
ほかにも数十人規模の仲間たちが防衛戦力として配置についている。
この島のわずかな住人であるサクラ一味は多くが中央施設で待機中だ。
中央施設は島の防衛機能のすべてを担っているとのことだが、なかなかに異様な見た目をしている。屋上には、先日目にした巨大砲台が置かれているし、壁からは巨大な黒い管が地中に埋め込まれる形で飛びだしている。
なんでもあの管で島に配したすべての風銃に、流命核からフェザリアをとおしているという。準備期間が短かったためか、無骨な見た目のものは多いが……よくここまでダナガを改造できたものだ。
「いや~、まさかボクが戦場に立つことになるとは思いもしなかったよ」
呑気な声とともに、サクラが隣に並んできた。
言葉だけでなく彼女の顔にはあまり怖がっている様子はない。むしろ、好奇心に満ちているようだった。自身が改造したダナガの力を早くみたいといったところだろうか。
「サクラもクァーナやレイカたちが言っている、〝あの人〟とやらを知ってるんだよな」
「このタイミングで訊いてくるとか、なかなか意地悪だよね、きみも」
あはは、と笑うサクラ。
いまも背負っている戦斧は、サクラによって製造されたものだが、入手には〝あの人〟を介している。両者が接触している可能性は充分に高いと踏んでいたが……どうやら反応を見る限り当たっていたようだ。
「そうだねー。というかボクがいまの境遇になったのとか、きみを知ることになったのとか。ぜ~んぶ、その人のおかげというか、せいだね」
クァーナやレイカは、〝あの人〟を尊敬しているようだったが、どうやらサクラはそういうわけではないらしい。
「きみがちゃんと生きて帰ってきたら、話そうか検討するよ。あいにくとボクは彼女たちと違って仲良し関係じゃないからね」
「ということは絶対に訊けるということですね」
そう口にしたのは、隣で話を聞いていたシャラだ。その目はまるで勝利を疑っていない。彼女とも付き合いが長くなってきたが、相変わらず誰よりも真っ直ぐで綺麗な目だ。
「だな。正体を知るのが楽しみだ」
「ははっ、本当に頼もしい2人だね~」
サクラが楽しげに笑いをこぼしたとき、辺りに影が落ちた。見上げると、黄色い翼竜に乗ったルピナの姿が映り込んだ。
「ナナツガネ、そろそろだ!」
「りょうかーい! お前たち、準備は!?」
サクラが応じるなり、中央施設のほうへと振り向いた。
中で待機していたゲンゴロウ含むサクラ一味が窓から顔を覗かせて叫んでくる。
「「ばんぜんでっす、お頭!」
「よーし、それじゃ……発射だ!」」
サクラの合図からほぼ間もなく――。
中央施設の巨大砲台の口が南要塞側へと倒れ、青白い光が極太の線となって迸った。それは瞬く間に敵の最前線に配置された島に到達。見える範囲だけでも多くの建物を破壊していた。見るのは2度目だが、相変わらず凄まじい威力だ。
「突撃はできないけど……どうだい!? いい狼煙になっただろ!?」
「ああ、これ以上ないぐらいになっ」
すでに敵の島々からは数えきれないほどの空車輪が上がりはじめている。
派手な合図を機に、ついに開戦となった。
この手でするべきことは、あとはもうただひとつのみ。
敵を蹂躙し、壊滅させることだ。
「行くぞ、シャラ!」
「はいっ!」




