◆第ニ話『要塞のダナガ』
ダナガ島の中央を取り囲むように、半球状の青い光膜が生成された。半径は、およそ中央と外縁の中間地点辺りか。このすべてが、アストラの防御術によって生み出された障壁と同様の力を有しているというのだから驚きだ。
サクラと約束した10日後。
ゼノはシャラとともに、いましがた生成された障壁の外側に立っていた。エルクもいるが、少し離れたところにガリアッドに乗った状態で待機している。
「いいよ~! 試し撃ちよろしくー!」
障壁の内側に立つサクラから合図が飛んできた。
ゼノは持ってきていた風銃を障壁へ向けて撃った。が、砲口から放たれた緑光は、障壁との衝突を機にあっけなく消滅する。続けて連続で撃ちこんでみるが、どれも同じ結果に終わる。
「……驚いたな。完全に遮断してる」
「はい、綻びもいっさいできていません」
シャラが障壁を手で触りながら言った。
この様子なら、風銃をいくら撃ちこんだところで破壊は難しいだろう。
「エルク、ガリアッドのほうも頼む!」
「わかりました! いきます!」
エルクがガリアッドの右掌から風撃を放った。風銃のものとは比べ物にならないほど巨大なそれは、しかしこれまでと同様に障壁に接触した途端に弾けるように散った。さらに連続で撃ってもらったが、結果は同じに終わる。
「ダメ……です。壊せる気がしません」
エルクがお手上げといった様子でガリアッドの右腕を下げた。
「まさかガリアッドの風撃まで防ぐとはな」
「はい、思っていた以上です」
シャラも感嘆したようにこぼす。彼女も翼竜化することでガリアッドの風撃を防げるが、余裕があるわけではない。何発も受ければ間違いなく障壁を突破される。眼前の障壁がいかに凄まじい力を持っているかがわかる。
サクラが中央施設へ「もう終わっていいよー!」と叫んだ。間もなく障壁が消滅したのを機に、こちらに向かってくる。
「薄く引き伸ばす感じになるからさ。当初の予定ではガリアッドの風撃は防げなかったんだけどね。あの子のアストラのおかげだよ」
それだけミリィの力が規格外というわけか。
「いまはちょっと時間も資材も足りないから無理だけど、いずれは島全体を覆うこともできるかもね」
「できれば、あまり使わないで済むのが一番だけどな」
南要塞島との戦いで勝利したとしても、そこで終わりではない。むしろ、勝利によってミリィの有用性が証明されれば、今後の戦争参加が前提となってしまう。上手く機能してほしいが……個人的には複雑な想いだった。
と、中央施設から出てきたミリィがそのまま駆け寄ってきた。
近くで息を整えたのち、期待に満ちた顔を向けてくる。
「どうだった……!?」
「ばっちりだ」
「ほんとっ?」
「ああ。にしても、よくアストラを使えたな」
「シャラさんに教えてもらったの」
そう口にしたミリィに、シャラが微笑みかける。
「秘密の特訓ですね」
「うんっ」
日に日に距離を縮める2人。
娘を持つことにわずかな不安はあったが、目の前の光景を見る限りどうにかなりそうだ。
と、目の前まで来たサクラが、誇らしげに胸を張った。
「どうだい?」
「防衛に関しては合格だ。というか文句のつけようがない」
「だろうとも! じゃ、次は迎撃だね」
「ああ、あちこちに置かれた物騒な設備について説明を頼む」
先ほど張られた障壁の内側には多くの土台つき風銃が設置されていた。砲口は障壁に接近する敵を撃ち落とさんとばかりに外側に向けられている。
「見てのとおり風銃を設置したんだ。数はなんと約200台! 全部、ダナガ中央からボタン1つで発射可能だ」
そう説明するやいなや、サクラが「はい、こっちに移動してねー」と風銃の内側へと移動を促してきた。全員が安全な場所に移動するなり、また中央施設へ叫びはじめる。
「ゲ・ン・ゴ・ロ・ウ~~~! たっめし撃ち~~~~っ!」
しばらくして、あちこちの風銃から風撃が放たれはじめた。射線は上空から地上までと様々だ。さすがに広範囲とあってくまなく埋め尽くすことはできていないが、どれも発射間隔が1拍程度とかなり短い。
発射の反動を利用しているのか、射線にわずかなブレも毎度起きて、間を駆け抜けるのは容易ではなさそうだ。
試し撃ちとあってか、サクラの合図を待たずして風銃群の射撃は終わった。こちらの驚くさまを見て、サクラが得意気な顔をしている。
「驚くのはまだ早いよ。とっておきの攻撃手段も用意してるんだ。ゲンゴロウ~~! 例のあれをお願い~~!」
サクラの視線は、中央施設に向けられたままだった。釣られるがまま、ゼノは彼女の視線の先を見続ける。
と、施設の屋根に取りつけられていた巨大な煙突のようなものが傾き、倒れた。丸い口がついているかと思いきや、その中から青い光が溢れるように噴出。極太の線となって迸り、虚空を穿った。
やがて光の線は細くなり、綺麗に消滅する。が、その圧倒的な存在感もあって、いまだ視界に焼きついているような感覚に見舞われた。
「な、なんだあれは……」
「単純に風銃を可能な限り大きくしたものさ。ガリアッド程度なら簡単に破壊できるんじゃないかな。射程のほうはある程度近ければ、ほかの島にも届くと思う」
「……とんでもないもんを造ったな」
へへへ、と照れたように鼻をこするサクラ。
こんなものを造る人間がいると知れば、帝国が欲することは目に見えている。仮に手に入らなかった場合は〝敵〟に渡ることを危惧して命を奪おうとするのは必至だ。
もしかすると、ナナツガネの名を隠していたのもこれが理由かもしれない。ほかにも事情はありそうだが、大方は合っているような気がした。
「ただ、こんなにフェザリアを使って本当に大丈夫なのか? 流命核から引っ張ってるんだろ?」
「わたしも同じことを思いました。島が落ちたりはしないのでしょうか?」
シャラも頷きながら不安を口にする。
サクラはなにも心配はいらないとばかりに、からっとした笑みを浮かべた。
「あ~、大丈夫大丈夫。大体、ここには負荷がかかってないからね。人や建物が増えれば増えるほど、流命核は強いフェザリアを放ってるんだ。でも、ダナガにはそれがほとんどない」
「つまり負荷がほとんどかかってないから余力があるってことか」
「そーいうこと!」
「どうりでダナガを選んだわけだ」
「ふふふ、ここは最強の砦となる可能性を秘めた島だよ」
彼女は住み心地がいいからなんてことを言っていたが、どうにもしっくりこなかった。結局、周りに気を遣っているのではないか、と。だが、本当の目的はべつにあったわけだ。
「さて、どうかな? きみの大切な娘さんを預かるに値するかな?」
サクラなりに、こちらの懸念を消そうと必死になってくれていたようだ。向けられた真剣な顔から痛いほど伝わってきた。
ミリィもサクラのそばに立ち、真っ直ぐにこちらを見据えてくる。その目に宿っているのが懇願ではないあたり、彼女の強い意志を感じた。
本当はすでに答えは決めていた。ただ、今回のサクラ一味や、ミリィの頑張りを前に自分の答えが間違いではなかったと強く思うことができそうだった。
「……ミリィを頼む」
「うん、任されたよ!」




