◆第一話『子の成長』
結果的に連合国との協力関係は成った。
最初に接触をはかったソラール王国が、連合国内において中核を担っていたことが大きな要因だ。
「最重要目的は連合国との合流だ。そしてそのためには俺たちは南要塞島を落とすか、または突破する必要がある」
シュボス中央塔指揮所にて。
ゼノは端的にそう告げて会議を始めた。
集まったのはシャラにヴィンス、クァーナ。
それからレイカとルピナ、サクラだ。
「連合国側にも攻勢に出てもらうんだよね?」
そう訊いてきたのはクァーナだ。
彼女は1人だけ席につかず、立ったまま壁にもたれかかっている。
「ああ。ただ、あっちは疲弊した状態だ。牽制だけに留めるよう伝えている」
「ま、こっちからお願いした感じだし、無理は言えないよね」
「合流することが大前提だが、戦いはそれで終わりじゃないからな」
連合国と合流できれば、本格的に帝国と争うことになるのは必至。その際に力尽きていては話にならない。
「とにかく、まずは俺たちが南要塞島を落とさないことには始まらない、か」
ヴィンスが頬杖をつきながら悩ましげに言った。
まさしく彼が口にしたとおり本題はそこだ。ただ、南要塞島を落とすにしてもその戦力を可能な限り知る必要がある。
ゼノは「ルピナ」と呼びかけて話の続きを促した。
「わたしの知る限り、南要塞島を守護する13輝将は2人。カフル・ダイラーとナタトリア・ディル・ジグレールだ」
「ジグレール……もしかしてディメルの娘か?」
「ああ。権力もさることながら、その重要度の関係もあって13輝将ではもっとも多くの兵力が与えられている」
ルピナが淡々と告げた情報に、ヴィンスやクァーナが見るからに顔をこわばらせていた。レイカもその顔を険しいものにしている。ぴくりとも顔を動かさなかったのはシャラぐらいだ。
「それぐらいで怖気づいていたら話にならないぞ。なにしろ、俺たちはあちこちに帝国の目がある中で、こんな大所帯で動いてるんだからな」
「さらに、わたしが加わったことで連合国と合流をはかろうとしていることも勘付かれているだろう」
「捕捉されているのはもちろん、南要塞の準備も万全といった状態でもおかしくありませんね」
こちらの言葉に続けて、ルピナとレイカが冷静に状況を説明した。ヴィンスが深く息を吐いたのち、覚悟を決めたように口にする。
「以前の北西要塞との戦争とは比べ物にならない規模になるってことか」
「間違いないだろうな」
少なくない被害も出るだろう。
だが、この機を逃せば待っているのは死のみ。
避けられない戦いだ。
ルピナが「ただ」と補足しつつ話を戻す。
「敵戦力をすべて潰すのは現実的ではない」
「とはいえ、中途半端に倒しただけじゃ南要塞を抜けたあとも追撃される可能性がある」
「ああ。やはり勝つためには13輝将を倒す必要がある」
ルピナもその結論には至っていたようだ。
ゼノは、先の彼女の説明を思い出しながら口にする。
「そのカフルとかいう奴を俺が殺る」
「彼は紅炎騎士と呼ばれる精鋭部隊を従えている。数はたしか20人程度だ」
「なら、ちょうどいいな。俺がそいつらをまとめて相手すれば、ほかが楽になる」
「……簡単に言ってくれるな」
困ったように笑うルピナだが、止めようとはしてこない。信頼と心配が入り混じったような彼女の顔を汲み取ったか、シャラが会議には不釣合いな凛とした声を放った。
「ゼノはわたしが守ります」
「そう、だな。きみがいればクラーラは安心だ」
ルピナが柔和な笑みを浮かべて返した。
その顔からは寂しさを垣間見ることができたが、いまは指摘するような場でも、気遣う場でもない。ゼノは気づかないフリをして話を進める。
「ルピナ、そっちはやれるのか? ディメルの娘」
「ナタトリアか。強敵だが……負けるつもりはない」
これまで13輝将とは幾度も戦ってきたが、ルピナはその中でも〝強い〟ほうだ。1対1の勝負で引けをとるようなことはまずないだろう。
「細かいところはまだ詰めていくが、大まかな流れとしてはこんなところか。決行日が13日後と時間はあまりないが、各自可能な限り万全の状態で臨めるように準備しておいてくれ」
「あ、あの~。ちょっといいかな?」
会議を締めようとしたところで、サクラが待ったをかけてきた。大人しいと思っていたが、どうやら話を切り出す機会を窺っていたらしい。彼女はこほんと咳をしたのち、物怖じした様子もなく話しはじめる。
「ダナガを強化するって話はしたと思うんだけど、そのために余った風銃を譲ってほしいんだ。あとほかにも幾つか物資と人手も……」
「レイカ、頼めるか」
「わかりました。予備分を除いて可能な限り手配します」
レイカが躊躇することなく頷いてくれた。きっとサクラが有名な技術者であるナナツガネだと明かしたことが大きな要因だろう。
「助かるよ。あと、アストラ使いもお願いできないかな? できれば、ちょっと強めの使い手だと助かるんだけど」
「どうして必要なのかを訊いてもいいか?」
「強化したダナガの主要な部分を守るための、ちょっとした障壁を造ろうと思っててね。占星石で増幅と制御をしてやれば、通常より広範囲を守れるからさ」
サクラがいったいなにをしようとしているのか。その全貌を想像できずにぽかんとする会議参加者。そんな彼らの気持ちを、ヴィンスが「よくわかんねぇけど、さすがナナツガネって感じだぜ」と代弁していた。
ルピナがはっとなったのちに、思案するような顔をみせる。
「フォルツティアに何人かいるが、強い使い手となると難しいかもしれない。交信術をする分には問題ないが……実際に強いとは具体的にどの程度だ?」
「ん~……ガリアッドの風銃を防げる程度かな」
「そ、それは聖王国でもほんの一握りしかいないと思うが」
「やっぱり難しいか~」
サクラがひどく残念そうに天を仰ぐ中、クァーナがなにか思いだしたように「あっ」と声をあげた。
「翼竜化状態のシャラちゃんなら防げるよね」
「ですが、ゼノのもとを離れるわけにはいきません」
「だ、だよね~」
あはは、と乾いた笑いで誤魔化すクァーナ。
たしかにシャラは並みの者より強いアストラを使うことができる。が、彼女の本領は翼竜化という部分にある。多くの島間で行われる戦闘において、シャラの移動力はなにより欠かせないものだ。ほかの役割を任せるわけにはいかない。
「あ、あのっ!」
聞こえてきたのは入口のほうからだ。
出所を見れば、ミリィとスフレの姿が映った。
茶を運んできてくれたのか、そばにはワゴンが置かれている。
「その役……ミリィじゃダメですか?」
「えっと、アストラが使えないとダメなんだけど……」
「つ、使えます!」
困惑しつつ確認したサクラに、ミリィが力強く返事した。
「……あ~、そっかミリィちゃんがいたか。たしかにミリィちゃんなら、仲間内で誰よりも強いね」
「仲間内っていうか、世界でもじゃないか? だってあの聖王と同じぐらいなんだろ」
そう会話を交わすクァーナとヴィンス。
途端にサクラが勢いよく席を立ち上がった。
「聖王と同じだって!? ……だったらもっとすごいものを造れるかも――」
「ダメだ」
ゼノは言葉を遮る形で言い放った。
興奮しているサクラには悪いが、こればかりは許すわけにはいかない。
「どう、して……?」
ミリィが顔を歪めながら、そう問いかけてきた。
「サクラ、その障壁を出すためには、戦闘時にアストラ使いがダナガにいる必要があるな?」
「う、うん。外から機能させるのはさすがに厳しいかな」
「ならダメだ。俺は戦争に関わらせるためにミリィを連れてきたわけじゃない」
ましてやダナガは戦闘時に最前線となる島だ。そんな危険な場所にミリィを行かせるわけにはいかない。ただ、理由を説明してもミリィに引き下がる気配はなかった。それどころか、ふくれっ面で抗議の目を向けてきている。
「クラーラ……これはきっと反抗期という奴だ」
張りつめた空気の中、ルピナから真剣な顔で言われた。
仮にそうだとしても受け入れるかどうかはべつの話だ。
「ミリィ、これは遊びの話じゃない。戦争の話だ」
「わかってるよ」
「いいや、わかっていない。人が死ぬんだぞ」
「だから、だよっ」
半ば叫ぶように声を張ったかと思うや、ミリィが訥々と話しはじめた。
「ミリィ、自分に強い力があるって知って怖かったけど……この力でたくさんの人を守れるなら……いくらでも使いたい。ゼノさんとシャラさん。ミリィを受け入れてくれたみんなを守りたいから……っ」
ミリィが他人の役に立とうとするのは、自分の居場所を守ろうという感情から来るものだと思っていた。だが、どうやら違ったようだ。
と、隣に座るシャラが「ゼノ」と呼びかけていた。
「きっとあの子は、ダメだと言っても自分の意志を貫くと思います」
シャラは席を離れると、震えながらも必死に抗議を続けるミリィの体を優しく抱き寄せにいった。頑固さではシャラも相当なものだが、どうやらミリィもその傾向が強いようだ。
ゼノは胸中の靄をすべて出さんと思い切り息を吐いた。
「わかった」
その言葉を聞いた途端、ミリィが顔をぱあっと明るくする。だが、ゼノはすぐさま釘を刺すように「ただし」と付け足した。
「いまから10日後、ダナガの強化具合で俺がダメだと判断した場合はなしだ」
「うわ……なんか戦争のときよりも緊張するんだけど」
「悪いな、サクラ。これは信頼どうのこうのの問題じゃない」
「わかってるよ。こっちとしては、やる気が出てちょうどいいけどね」
サクラのことだ。きっと試す必要もなく、ほかのどの島よりも安全な場所を造りだすだろう。……結局のところ、こちらの心の問題だ。
視界の中では、改めてミリィが喜びをあらわにしていた。シャラも「よかったですね」と声をかけて微笑んでいた。
一気に和やかになった空気の中、ヴィンスが安堵をしたように息をつく。
「ヒヤヒヤしたぜ。ま、とりあえずゼノが親バカだってことがよくわかったな」
「いいことではないか」
「そうですね。子どもを大切に思ってる証拠です」
「あ、あれ……なんで俺が責められてんだ?」
ルピナとレイカから即座に反論され、うろたえるヴィンス。そんな普段どおりの光景が場を普段の明るいものへと一気に戻してくれた。
正直、いまでもこれでよかったとは思えない。だが、これまでコズノワの言いなりだったミリィが、はっきりと自分の想いを伝えてきた。そんなミリィにとっての〝成長〟を蔑ろにはしたくなかった。
……親バカか。そうかもしれないな。
そんなこと思いながら、ゼノはいまも嬉しそうにシャラと話すミリィを見つめた。




