◆第五話『異色の仲間たち』
薄闇の中、ほのかな灯によってあらわになった2つの球体。
オッドー組によって、すでにハルの家は元の場所に戻されていた。
「細かいものまではたしかめられないけど……たぶん、全部あると思う」
玄関から出てくるなり、ハルが安堵交じりに言った。
直後、ハルの一味である男たちが歓喜の声をあげた。
「ま、とられたらとられたらで機械いじりを卒業して、女らしくなるいい機会になったかもしんないっすけどね」
「ふん、どうせボクは女らしくないですよーだ」
ゲンゴロウとともに大笑いする一味の連中に、ハルが拗ねたように頬を膨らます。外見は不釣合いなこと極まりない両者だが、その相性が最高にいいことははたから見ても明らかだった。
ハルが息をついて怒気を抜くと、こちらに向きなおった。
居住まいを正したかと思うや、ゆっくり頭を下げてくる。
「本当にありがとう。きみたちのおかげでボクは大事なものを失わずに済んだよ」
「正当な対価を払っただけだ。気にするな」
「こっちとしては借りを作った気持ちで一杯だけどね。それもすっごい大きな」
ハルが肩を竦めながら笑った。
「借りにはいやな思い出があるか?」
「そりゃあね。ま、きみはロビンスとは違うみたいだけど」
「希望するなら、それらしく振舞ってみるが」
「全力でご遠慮願うよ」
そんな軽口を言い合っていると、視界の端で難しい顔をするシャラが映り込んだ。彼女の目線の先には戻ってきたばかりのハルの家がある。
「どうした、シャラ」
「いえ……ただ、このままここに住んで大丈夫なのかな、と」
その問題には目をそらすわけにもいかないことをハルも理解しているようだ。困ったようにまなじりを下げながら、こわばった笑みを浮かべる。
「ま、あれだけ痛い目を見たんだし、さすがのロビンスも手を出してこないとは思うよ。少なくとも当分は、ね」
「けど、あいつの性根は腐りきってっからな……あんたたちがいないってわかった途端、ちょっかい出してくる可能性はありえるな」
ゲンゴロウが腕を組みながら険しい顔で唸る。
たしかにあのロビンスという男なら、あとでハルたちに手を出すかもしれない。いや、かもしれないではなく間違いなく出すだろう。
「……雷帝、殺るならいってきます」
「わたしもお供シマス、シギ」
シギとグリッグが揃って獲物の柄に手を当てる。
2人ならオッドー組程度、問題なく壊滅させられるとは思うが……。
「だめだ。ハルも言っていたとおり、あんなやつでもここの中立区には必要な存在みたいだからな」
錬度はともかくとして、私兵の多さはなかなかのものだった。荒れたいまの情勢では、中立の存在はとても貴重だ。仮に排除するとしても、帝国の力が弱まったときが最適だろう。少なくともいまでないことはたしかだ。
「結局、取り返せたのは物だけってことか」
「それだけでもボクにとっては充分だけどね」
ゲンゴロウが悔しげにこぼした言葉に、ハルが強がった笑みで応じていた。これから彼女たちは居場所を探さなければならない。だが、その居場所がほかにないことを、先に彼女自身が言っていた。
「なあ、ハル。いまよりも刺激的な日々を送るつもりはないか?」
気づけば、そう口にしていた。
いや、この件に関わった時点から訊くつもりだった。
「まさかその言葉を聞けるとは思わなかったよ」
ハルは目をぱちくりとさせたものの、あまり驚いている様子はなかった。どこか楽しげに口元を緩めると、こちらの顔を覗き込むように訊いてくる。
「そこは家を勝手にとられたりしないところかい?」
「ああ。不可抗力でいきなり壊れたりするかもしれないけどな」
ハルと揃って後ろの一味連中もにっと笑っていた。
「実は、さ。すでにみんなとは話をしててね。ボクからもお願いしようと思ってたんだ。きみたちの島に厄介になれないかってね」
まさかハルたちも望んでいたとは思いもしなかった。互いに望んだことなら、もはや破談はない。ただ、ひとつだけ確認しなければならないことがある。
「わかってるとは思うが、俺たちは帝国と戦争中だ」
「うん。ここ以上に過酷な場所だってことは理解してる。だけど……自分の目で見て、それだけじゃないこともわかったんだ」
なぜハルがダナガの島々を見学したいと言い出したのか。ただの興味本位からかと思ったが、どうやら移住先として相応しいかどうかをたしかめに来ていたというわけだ。
「きみたちの島はすごく温かい場所だった。とても戦争中だとは思えないほどにね。そして、ボクは思ったんだ。あの場所を守るためなら、たとえ帝国が相手でも戦えるってね」
仲間と必死になって守り、作ってきた。そんな場所を誰かに価値あるものだと思ってもらえた。それがなにより嬉しくて、胸が熱くなった。
どうやらハルの心はすでに決まっているようだ。
念のため、後ろで静観している一味連中にも問いかける。
「お前たちもいいんだな?」
「お頭が選んだ道を俺たちも歩くって決めてるからな。それに、あんたにゃ借りがある」
ゲンゴロウに続いて、残りの4人も力強く頷く。
彼らとともにハルが改まってこちらに向きなおると、居住まいを正した。
「ボクを……ボクたちをきみたちの島に置いてくれるかい?」
ハルを含めて総勢6人。
星明りのおかげか、暗がりの中でも全員の顔をしかと認めることができた。
ゼノは1人ずつ顔を見据えたのち、最後にハルへと手を差し出した。
「ああ、歓迎する」




