5-8 殴ることだけが魔法では無い
ノアが新しい魔法の使い方を覚えたようですよ
「久しぶりの魔物虐殺だ~!」
「討伐依頼と言え」
寅に軽く叱られつつ、ノアはナーミとリムラと共に討伐へと移動を開始していた。
討伐依頼はダイレスという街から出ていた。
レッドモンキーはいくつかの群を形成し、その地域の村を次々に襲っているという。
被害は深刻で、死者も何十人も出ているらしい。
「レッドモンキー、ね。ムラムラを襲うってのは何とも迷惑な話だぜ」
「いちいち思わせぶりな言い方をすんなよ」
「オヤァイ、別段俺はおかしい言い方はしてないはずだぜぇ?」
「そうですよね、村々、って普通の言い方ですもんね」
「うん、君の真っ直ぐさがまぶしすぎるよ」
ボケを殺すパートナーにタグはこっそりと愚痴る。
「ところで、レッドモンキーってどんなモンスターなの?」
「猿の魔物ってのは名前で分かるけどな」
「簡単に言えば、猿の延長線上だ。ただ瘴気を吸ったことで凶暴性と知性を併せて持っていて、討伐ランクはCまで上昇している」
「結構危険な依頼だな」
Aランクが最上級依頼と考えれば上から二つ目。
「わ、わたし、大丈夫なんでしょうか?」
初めての討伐依頼のリムラはさすがに緊張を隠せない。
「ラリアットがあれば何でも出来る」
「元気はなくても大丈夫か。オーマイマイ」
この世界の女子の天然具合に、タグは呆れたようにつぶやき、
「わ、わたしは、元気ですよ!」
潰すことを忘れないリムラだった。
************
レッドモンキーはダイレス森林と呼ばれる、森の中に根城がある。
ビーダブの西側に位置する広大な針葉樹の森で、真っ直ぐ幹が延びることから、林業が盛んな地域だ。
森の中で暮らす木こりの集落などが、30年単位で植林などが計画され運営している。
しかし、それはあくまでも森林の一部での話で、樹海とも言える広大な森はほぼ手つかずの状態になっている。
一行は、そんな森の中に通っている、材木を運搬する林道を進んでいた。
「ほとんど手つかずだと魔物もいっぱい、いるんだろうね?」
「瘴気だまりがあればな」
「瘴気だまり、ですか?」
「ああ、リムラはまだ知らないんだな。魔物には二種類があって……」
と、寅が懇切丁寧に説明をする。
「なるほど……じゃあ、お猿さんが何かの拍子に瘴気に当てられてしまったのが、レッドモンキーさんなんですね」
「魔物にさん付けかよ……」
「だって、もとはお猿さん、ですので」
「元狩人とはいったい……」
ナーミが白い目になっている。
まさかさん付けで呼んでいる獲物を狩っていたのだろうか。いや、深くは考えまい。
「考えてみたらさ、お猿さんの時は大丈夫なのに、何で魔物になったとたん人間を襲うんだろうね?」
「単純に魔物になったら食生活が変わるんじゃねーか?」
「瘴気を吸ったら、急に人のお肉を食べるようになるんでしょうか?」
「ん~……言われてみりゃ、確かにおかしな話だな」
キジも鳴かずば撃たれまい、ではないが、魔物になって人間を襲わなければ、討伐対象になることもない。
わざわざ人間を襲う理由は、確かに解明されていない。
「ちっちっち、考えが浅いぜぇ、レディたち。魔物が人間を襲う、それは、魅力的なフェロモンが醸し出されているからなのさ」
「寅さんはどう思う?」
「オヤァイ! スルーかよ!」
「さて、まだ解明されていない謎だな。ゾンビが人間を襲うのは、自分の欠損した部分を補う本能という説があるが……魔物がピンポイントで人間を襲う理由か……」
寅が難しそうな顔になる。
ノアはいつの間にか手頃な枝を拾って杖代わりにしている。
「前から不思議だったんだよね。たとえば普通の熊とかだって人間を襲うでしょ?」
「たしかにな」
「でも熊だって別に、人間を襲わなきゃいけない訳じゃなくて、いろんなもの食べるわけだからさ、人間オンリーになっちゃう理由がわかんないんだよね」
「言われてみれば、不思議ですね」
「相変わらずたまに頭が良くなるな」
「なるほど、玉はなくても、たまたま良くなるわけか」
「たまにゆーな!!」
と、ノアが怒ったついでに持っていた枝を投げつける。
攻撃力2980の投擲は、音速の壁を破りそうな勢いで森の中をばく進し、とある杉の大木の大きな幹に突き刺さって止まった。
「……寅さん」
「……なんだ?」
「伊良部パンチって魔法ですか?」
「……パンチって言ってるだろ」
「ですよね……」
特効効果は言わずもがな。
まさかそんな名前の魔法まで現れるとは思っておらず、寅は大きなため息をついた。
伊良部パンチ
とあるメジャーリーガーの投球モーションから放つ右フック。
魔法になったら投擲魔法になっていました。
コマケェコタァイインダヨォ!




