4-12 訳が分からなくても……
既に逆水平チョップしかしていないようですよ。
「おい、これは、何だ? 何が起きている?」
ザロクは我が目を疑う思いだった。
ただ胸元にチョップを打ち合っているだけ。
打たれたら打ち返す。
避けることも防ぐこともしない。ただひたすら、打ち合っている。
まったく理屈は分からないが、この攻防によって、娘を覆い尽くしていた瘴気が、徐々に、しかし確実に薄れ始めていた。
「……今は、理屈なんてどうでもいんじゃねぇか?」
「なに?」
「あんたの娘が、意地張って、身体張って、踏ん張ってんだぜ。あんたが今、やるべきことは何だ?」
「私が、やるべきこと……」
ザクロは徐々に元の姿を取り戻していく愛娘の姿より、必死に闘う姿に目を奪われ始めていた。
*****
バチン!
バシン!
バシン!
バチン!
ノアとリムラの逆水平合戦は、終わる気配がない。
打たれたら打ち返す。
いや、その言い方は正確ではない。
打ったら、受ける。受けたら、打ち返す。
剣と魔法の闘いでは絶対にあり得ない攻防が、延々と続いていた。
ノアとリムラが放った逆水平チョップの数は、すでに百を越えていた。
「ぜぇ、ぜぇ……逆水平!」
「んぐっ! はぁ、はぁ、逆水平!」
「ぎぅっ!」
息も上がり、逆水平を打っている右では真っ赤。
それでも、相手しか見えなくなっている二人は、逆水平チョップを止めようとはしなかった。
(なに、これ? あたし、何をしてるの?)
混濁した意識の中、リムラは自分が何をしているのか、自覚し始めていた。
狩り勝負をしていた時までは覚えている。
フェアリー族の狩人として、飛行が出来なくなり、狩人としての勤めが果たせなくなっていた。
このままでは何もかも失ってしまう。
そんな焦りから、獲物を深追いしすぎて、縦穴の洞窟へ落ちてしまった。
絶望した。
なんであたしだけこんな目に……。
泣き叫んでいるとき、不意に何か真っ黒なものに捕らわれた。
あっという間に意識が飲み込まれ、その後の記憶はない。
あたしは、ただ、失いたくなかっただけ……。
「いっづ!」
どうしてこうなった?
訳が分からない。
ただ、とにかく、理屈じゃなく、目の前の女の子に負けるのだけは嫌だった。
けれど、闘う術がない。
弓もない、魔法も使えない。
出来ることはただ、やられたことをやり返すことくらい。
「このっ!!」
訳が分からないまま、リムラはひたすら右手を振るい続けた。
逆水平:魔法としてのキーワードを略している為、ただのプロレス技。自分の右手と相手の左胸付近がめっちゃいたいだけ。
理性を取り戻しても負けたくないと思ってしまうのはレスラーという職業のなせる業、ということで。
コマケェコタァイインダヨォ!




