3-7 人形の名は…
別に過去と未来を行き来しませんが…
「もうご承知のことと思いますが、私はササト様のオーナーを務めますオリョウと申します」
木偶人形が首をカタカタと振りながら歩いている。
「それで、そのササトって奴は、生きているんだろうな」
「もちろんでございます。独房に入られてより幾星霜、ひたすらにあなた方の来訪をお待ちになっていました」
「てことは、ドワーフなのか?」
「いいえ、人間でございます」
「人間がずっと独房で……か?」
「ササト様は、ヒールでございます」
「ヒールだと年を取らなくなるのか?」
「いいえ、死ねなくなるのでございます」
「なんだと?」
「あなた方が倒したヒールの種族は分かりませんが、レスラーのヒールとはすなわち、呪いです。身体に宿した瘴気が失われるまで、決して死ぬことは出来ません」
「それって、どうすればいいんだ?」
「簡単です。ベビーフェイスのレスラーと闘えばよいのです。その身に宿す瘴気の全てが失われるまで」
「その話、初めて聞いたんだけど?」
ナーミが寅を睨む。
「すまんが、俺も初耳だ」
アンダカとの話では、ヒールになるのは魔物が多いと言っていた。
寅はそれを「瘴気から生まれた魔物が、更に瘴気を取り込むことでヒール化する」と理解していた。
つまり、そもそも瘴気を浴びていない人族や亜人族がヒールになるのは、超レアケース。
しかし、おそらく独房が瘴気だまりになっていたのだろう。
外に出ることも出来なかった男は、延々と瘴気を浴び続け、いつの間にかレスラーとされてしまった。
だが、そのレアケースがこれほどの事態を招くとは。
「ササト様は独房から外に出ることも叶わず、ひたすらレスラーの方を待ち望んでいました」
「話を聞く限り、本当に地獄だな……」
「ですが!」と、オリョウの首が180度回転し、カッと目を見開く。
「瘴気とはすなわち人の怨念! 冤罪により閉じこめられたあげく、その人生の全てを奪われたササト様の、その全てをあなた方に受け止める覚悟はおありですか!?」
「……悪ぃな」
と、ナーミは珍しく臆さずに、人形をにらみ返す。
「あたいらにそんなご大層な志はない。ただ、他のレスラーと闘って、そんで勝つ。そんだけだ」
「……そう、それで、良いのです。それこそが、ササト様の望みなのですから」
冷静に戻ったオリョウは、また首を正面に向け歩き始めた。
人がヒール化したら、という前提にいきなり踏み込む奴。
まぁ、コマケェコタァイインダヨォ!




