1-14 天然のフラグ立てっ子
この世界にもお約束があります。
むしろ、この世界だからお約束があります。
ドラゴンスリーパー。
座っている相手の腕と首を抱え、首の骨を締め上げる強烈な締め技である。
「寅さん……」
翌朝。
寅からドラゴンスリーパーの解説を受けたノアは、珍しく難しそうな顔をしている。
「あたし、これ使える?」
「うん?」
「だって、あたしが首を抱え込める魔物って結構小さめだし、それに大人しく座っている相手なんていないよ?」
「確かにな……」
寅は腕組みをして首を傾げる。これまでは、殴る、蹴る、投げる、といった明確にダメージを与えるものだった。
しかし、今回は締め技。
たとえばロックバードの様な大きな相手や、ホーンフィッシュドラゴンの様な滑る相手には仕掛けようがない。
小柄なところならゴブリンなどの人型が良い相手になるだろうが、たとえばスライムに仕掛けようものなら、其の結果は言わずもがな、ノアの逆転負けだろう。
確かに、ステータスプレートに其の人間の情報は表示される。
「使いどころは難しいが……ま、立っている相手にかける場合もあるし、そのうち使うチャンスもあるだろう。まずはビーダブに帰らないとな」
「うん、あたし、ビーダブに帰ったら、お父さんとお母さんに、ホーンフィッシュドラゴンとロックバードがおいしかったことを話すんだ」
「……そうだな」
ノアが見事に設立したフラグに、寅は別の町のギルドに、届けてもらう算段をたて始めた。
「実は、ノアさんにお願いがあるのです」
程なくして、村長のバーバがフラグ回収に現れた。
「町までロックバードの素材を売りに行くのですが、その護衛をお願いしたいのです」
「護衛、ですか?」
「はい」
村長のバーバが言うには、昨夜返り討ちにしておいしく頂いたロックバードの素材を売りに行きたいらしい。
本来は、行商ギルドの到着を待ち、生活必需品と素材を交換するところだが、先日訪問があったばかりで、次回の訪問は1ヶ月先。
鮮度が落ちては値段も下がる、ということで近くの町にまで行きたいところだが、ホーンフィッシュドラゴンとロックバードと連続で現れている。
村人だけでの運搬には不安がある、ということで、昨晩ロックバードを一撃でしとめたノアに白羽の矢が立ったわけだ。
「いいょ……」と言い掛けたノアの口を、寅の後頭部が塞ぐ。
「駆け出しとは言え、ノアは冒険者だ。護衛となれば、立派な仕事の依頼になる」
「承知しております。こちらとしては一番近いエーブの町で売りたいと考えています。3日程かかる距離、1日に30トココと考えて、全部で100トココで如何でしょうか?」
「ふむ……」と寅は顎をなでる。
護衛と言うには安い値段だ。駆け出しとして足下を見られているかもしれないが、その日暮らしの村の財源に余裕があるとも思えない。
またエーブも大都市と言うわけではないが、冒険者ギルドもある。
両親の入院費の配達を頼むことも出来るはずだ。
「……ノア、どうする?」
「お金があるのは助かる」
「そうだな。村長、護衛の話、指名依頼として受けよう」
「おお、そうか。助かるよ」
バーバは安堵の息をこぼす。
一夜のうちに魔物が二体も現れた以上、警戒をするに越したことはない。
依頼書を交わした後、すぐに出立となった。
全く帰る気のない子もどうなのかと小一時間。
コマケェコタァイインダヨォ!




