1-11 ヌイグルミはハードボイルド
寅と村長の大人な駆け引き
「いやぁ、ありがとう。助かりました」
ノアはエルエムの村長から大歓迎を受けた。
身長2メートル近く有りながら、細身でのんびりとした初老の男で、名をバーバといった。
「ズキケから聞きましたよ。君がいなかったら命は無かったと言うじゃないですか」
「ん、助かって良かった」
「これは、ホーンフィッシュドラゴンの代金と、そのお礼です。少なくて申し訳もないが、この村も裕福とは言えないものでね」
「ん。大丈夫」
と、ノアは袋に入った金を受け取ると、確認もせず寅に渡す。寅はそのまま丸飲みした。
「しかし、驚きましたな。動くアイテムボックス持ちのぬいぐるみなんて、長く生きているけど初めて見ましたよ」
「まぁ、オレもアイテムボックス持ちなんて思っていなかったがな」
と、寅がお金を食べているのを見て、ノアの腹の虫が盛大に鳴いた。
「う……」
すでに村の広場では、ホーンフィッシュが焼かれたり、鍋になったり、揚げ物になったりしており、食欲をそそる香りが村一帯に充満している。
「寅さん……」
「……食べてこい」
「やったーっ!!」
と、ノアは一目散に広場に走り始めてしまった。
「やはり、まだ子供ですな」
「ああ。小さい身体でよく頑張ってくれているよ」
「時に、貴方は……」
「しがない虎さ」
「ふむ……もしや、転生者などとも思ったのですが……」
寅の耳がピクリと動く。
「この世界に、転生した人間がいるのか?」
「命は巡るものですから、皆転生者ですよ」
「なるほど、この世界の宗教観はそうだったな」
この世界にはほとんど宗教戦争が存在しない。
唯一神、ルゴーチを主神とし、どんな種族であろうと、常に命は巡るもの、という考え方が一般常識だ。
悪事をすれば地獄に生まれ変わり、善行を積めば天国へ生まれ変わる、という道徳心を養う一面もある。
「私が思うに、転生した、という者、正しくは前世の記憶を引き継いでいる、でしょうな。昔、王都で騎士を勤めていた時に、勇者や大賢者は転生した特別な人間だ、と噂がありました」
「なるほど。一度生きた人生の記憶があれば、自分が何者か判断もしやすいな」
知識と経験は、時間をかけなければ得られない。だからこそ、人間は”もし”を期待する。だが……、
「くだらないことだ」
「ええ、くだらないことでしょうな」
寅は自分が何者で”あったのか”を知っている。
この世界についての”知識”も持っている。
だが、今の自分が何者なのかは”分からない”のだ。
何故、この場にぬいぐるみの姿で動いているか、ノアの魔法の言葉で目覚めたのか、肝心な部分は予め備えていた”知識”の中に、存在しなかった。
「村長、あんたはこの世界について、どこまで理解しているんだ?」
「ワシもしがない村長でしてな。前世の記憶なんて、大それたものは持ち合わせていませんよ」
「なるほど」
「貴方はどうなんです?」
「オレは、しがない虎さ」
寅はぬいぐるみとは思えない、ハードボイルドな笑みを浮かべた。
それにしても世界についてかかってくれない登場人物達。
説明台詞を並べないどころか、引っ張りまくるのがこの作品のジャスティス。
ま、ストレス無く楽しんで貰うのが趣旨なので、コマケェコタァイインダヨォ!




