1-10 助けた人に誘われて…
今回の無双を得て、ノアは新しく……
「お、おい、あんた」
完全に二人の意識の外になっていた釣り人が、少し呆然としながら声をかける。
「あ」
「そういえば、いたな。助けた釣り人が」
二人そろって、完全に蚊帳の外扱いをしていた。
助けに来たはずなのに。
釣り人は年の頃50歳くらいだろうか。転んだ影響で少し衣服を汚している程度で、取り立てて大きな怪我はないようだった。
「助かった。礼を言う」
「大丈夫。無事で良かった」
「しかし、ホーンフィッシュドラゴンを瞬殺してしまうとは……あんた、いったい何者だ?」
「わたし、ノア。こっちはワータイガーの寅さん」
「そ、そうか」
ぬいぐるみ付きで自己紹介されると、幼さがさらに強調されてしまう。
「とにかく、助かった。オレはこの近くの村で漁師をしておるズキケという」
「近くの村というとエルエムか?」
「そうだ……どっ!?」
「あー、気にしないでくれ。この子のお目付役の召還獣みたいなもんだ」
「そ、そうか……ともかく、君は命の恩人だ。是非ともお礼をさせてもらいたい」
「お礼って?」
「このホーンフィッシュドラゴンだな。丸焼きになっているとは言っても、丸かじりが出来るような大きさでも無いだろう。オレの村に持ってきてくれれば、全部買い取った上で調理させてもらおう」
「行く!!」
帰路より食い意地が優先されてしまうノアだった。
エルエムの村は人口50人ほどの小さな村で、ズキケが言うには、先ほどの湖で釣りをしたり、周囲の山々で狩猟をして生計を立てているらしい。
ただ、ここ最近は不漁が続き、村の食糧事情が切迫していたそうだ。
例え一晩だけでも、村全体で大手を振って食事が出来ると言うことは、貴重な機会のはずだ。
「これだけ大物のホーンフィッシュだ。丸焼けになって素材にすることは出来ないが、村として買い取らせて貰えると思う」
「わかった。でも、どうやって運ぶ?」
ホーンフィッシュドラゴンの大きさは、単純にみてもノアの3倍以上。
重さで言えば、500キロを超えるだろう。
「村から人を呼んでくる。すこしここで待っていてくれるか?」
「わかった」
ズキケは戻ってくる証拠に、自分の釣り道具をノアに渡し、少し釣りをしても良いと言ってくれた。
魚が食べたいと言っていたノアは、いそいそと餌のミミズを見つけ、釣り竿を湖に向けて振った。
「手慣れたもんだな」
「ん。一緒に旅をしたときに、教わった」
「両親にか?」
「ん~ん、知らないおじさん」
「なるほど」
どこの世界にも子供に何かを教えたがる中年がいるもんだ、と寅は一人つぶやく。
「ま、オレも似たようなもんか」
「ところで寅さん」
「なんだ?」
「トラースキックって魔法ですか?」
「蹴り技だ」
「ですよね」
「キックって言ってるしな」
「それな!」
魚が釣れる気配は、ない。
蹴り技を覚えた。
技名が付いている限り魔法です。
誰がなんと言ってもコマケェコタァイインダヨォ!




