1-9 育ち盛りのノア
街道にいずれ出るので、湖の畔を散歩中です。
「……ねぇ、寅さん」
「ん? どうした?」
「釣りしている人がいる」
「そりゃいるだろう」
「お魚、食べたい」
「さっき昼飯を食べたばかりだろ」
「でも、お腹空いた」
「ビーダブに戻ってからだ」
「私たちも釣りすればいい」
「釣っても焼けないぞ」
「むう~……やっぱり、魔法、使いたい……」
「無い物ねだりをするな。このクエストがおわったら、パーティを組むのも悪くない。そうすれば、仲間が使えるはずだ」
「私が使いたいの」
魔法についての押し問答はすっかり定番になってきていた。
自分の才能を諦めるような年齢ではないのだから、当然と言えば当然で、保護者としても諦めるなと言いたくなる。正直望みは薄いとはいえ……。
「ま、他に手段がないか、調べてみよう」
「ホント?」
「ああ。ただし気長に、な」
「うん♪」
と、ノアは上機嫌にうなずく。
一緒に頑張る相方がいるだけで心強い。
「ぎゃああああっ!!」
不意に響いたのは、湖畔を歩いて暫く立ってからのこと。
みれば、釣り人が魔物化した魚に襲われていた。
巨大なナマズ、しかも一本角が生えて、しかも宙に浮いている。
「いけない!!」
ノアは反射的に走り出す。
その背中に素早く寅が飛び乗った。
「ホーンフィッシュドラゴンか。こりゃあ、まずいな」
「なんで?」
「魚が宙に浮くか? 膨大な魔力を身体に宿さなきゃ出来ない芸当だ。ありゃあ、存在進化で竜になる一歩手前だぞ!」
本来、ノアの様な低レベルの新米冒険者がかなうべくもない相手。
「助ける!」
それでも、ノアは迷うことなく走り込む。
「いいか、正々堂々なんて思うな。奴はお前のレベルでどうこうできる相手じゃない」
「じゃあ、いきなりラリ……」
「横に飛べ!!」
寅の声と同時に、ノアは考えるより先に思いきり横に飛ぶ。
次の瞬間、ノアと寅がいた場所に大きな火の玉が現れ、爆発した。
「なに!?」
「奴の魔法だ。爆裂弾。普通は口から放つが、宙に浮けることから考えても、奴は空間魔法持ちだ。任意の場所に火の玉を打ち出せる」
「それなら……ラリアット!!」
ノアは力ある言葉を叫び、再び走り始める。
ラリアット発動中、実際に豪腕を振るうまでは相手の攻撃を避け続けることが出来る。
向かってくるノアに向かって、ホーンフィッシュドラゴンは何度も爆裂弾を放つが、ノアは全て紙一重で避ける。そして、
「やあああっ!!」
必殺の一撃が放たれる瞬間、ホーンフィッシュドラゴンは身体を丸める。
「きゃっ!?」
打ち込まれるはずのノアの腕は、滑りのある身体に滑り、外れてしまう。
「しまった! 奴の身体はナマズのままなのか!」
体勢を崩したノアに向け、ホーンフィッシュドラゴンが大きな口を開ける。
中には巨大な火球がのぞく。
「まずいっ!!」
この距離、このタイミング、いくらラリアットを発動しても、絶対に避けられない。
「DDT!!」
しかし、ノアの判断は攻撃だった。
瞬時に飛び上がり、ホーンフィッシュドラゴンの角を小脇に抱えると、身体を振り子の様に使い、一気に背後に倒れ込む。
ホーンフィッシュドラゴンの身体が地面に突き刺さり、巨大ナマズのシャチホコが完成。
さらに準備していた口の中の火球か爆発を起こし、見事にナマズの丸焼きが完成した。
「やった……」
爆発の余波に巻き込まれたノアは、あちこち焦げ付いた状態になっていた。
「ノア、トドメを刺せ」
「ほえ?」
「まだ魔石になっていない」
「あ、そっか……ラリアット」
全身が焼けたホーンフィッシュドラゴンの身体は、もう滑ることは無かった。
ノアの腕がぶつかると、ホーンフィッシュドラゴンの角が砕け、魔石になる。四メートル近くなる全身は、轟音とともに倒れた。
「寅さん、魔石にならない」
「自然の動物が魔物化したパターンだな。障気の元は全て角に集まっていたから、身体は元のフィッシュドラゴンのままだったんだ」
「つまり?」
「普通の魚と同じだ。食べられる」
「ホントに!?」
腹ぺこだったノアは、迷わずかぶりつこうとして、はたと止まる。
「どこから食べよう?」
「好きにしろ」
ノアは成長しているようです。
戦闘的にも、子供としても。




