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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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6 魔法の訓練と学校での出来事

 バルム伯爵がオーファンに頼まれたモノを用意して持ってきた。それを受け取ったオーファンは帝国に戻る為に訓練場で訓練を始める。

 バルム伯爵家当主のサムデイルとウィール男爵家の次男であるドイルはオーファンの訓練を見学していた。


「本当にこんなモノをどうする気なのだ?」


 オーファンがバルム伯爵に頼んだモノは、魔力を封じる魔封じの腕輪。トルクが労働施設で嵌められていたモノだった。

 魔封じの腕輪を両腕にはめるオーファン。そして座り込んで靴を脱いで足から魔法を使えるように訓練を始める。


「……何をしているんだ?」


 不思議そうに見るサムデイルとドイル。オーファンが「足から魔法を放つようにする訓練です」と答える。


「魔法は足から使う事は出来んぞ」

「トルクは足から魔法を使っていました。労働施設では魔封じの腕輪を付けられていた為、足から水魔法の水を出したり、火魔法で火を出したりしていたそうです。それに両足から風魔法を使って空を飛んでいました」


 オーファンはサムデイルの質問に答え、訓練に集中した。

 サムデイルは自分の記憶を総動員して『足から魔法を使える者』を思い出す。……そんな者は居ない。足から魔法を出すのは常識外の事なので、そんな考えを持った人間なんていないと判断した。


「トルクは空を飛べるの?」

「はい、ドイル様。トルクは両手両足から風魔法を使って空を飛んでいました」

「僕も足から魔法を出す事が出来たら空を飛べるのかな?」

「……訓練すれば可能だと思います」


 空を飛べると信じて、ドイルも靴を脱いで足から魔法を放つ訓練を始める。

 訓練場に座り込んで靴を脱いでいるオーファンとドイル。休んでいそうな二人だが、オーファンは目を閉じてトルクが行っていた訓練を思い出しながら、ドイルはオーファンの真似をしながら足から魔法を使う訓練をする。

 サムデイルが二人の訓練を見守っていると、訓練場にダヤンが入ってきた。ダヤンはバルム砦でトルクから魔法を習い、回復魔法を覚えた部下である。


「バルム伯爵。ドイル様達は何を?」

「……足から魔法を放つ訓練だそうだ」

「足から?」


 ダヤンはトルクから魔法を習い、両手から魔法を使う事が出来るが、足から魔法を使うなんて聞いた事がなかった。ダヤンは、足から魔法を使って何をする気なのだ? と考える。そしてオーファンの両腕に魔封じの腕輪がついている事に気付いた。


「トルクが帝国に捕まった時に魔封じの腕輪をはめられたので、手ではなく足から魔法を使っていたらしい」

「ちょっと待ってください! トルク隊長が無事だったとは聞いていましたが、魔封じの腕輪をはめられていたとは聞いていませんよ!」

「ワシも今さっき聞いた。しかし足から魔法を使うなんて普通は出来んだろう」

「……私も知る限りでは使った人は見た事ありません」

「その上、トルクは両手両足から魔法を使って空を飛んだそうだ」

「さすがは隊長ですね。回復魔法の他にも空を飛ぶ、空を飛ぶ!?」


 サムデイルの言葉に相槌を打っていたダヤンは、トルクが空を飛んだという情報にびっくりして、思わず言葉を繰り返してしまう。オーファンの訓練を見て、サムデイルを見て、ドイルを見るダヤン。混乱している様子が分かるサムデイルだった。

 王国、帝国にも空を飛ぶ魔法というものは存在しない。しかしオーファンはトルクが空を飛んだと言う。そして自身も空を飛ぶ訓練をして、空を飛んで帝国に帰ると言う。


「あやつは帝国で何をしているのだ?」


 ため息をついて、サムデイルはトルクが帝国で何をしているのかを思い浮かべる。あやつの事だから厄介事に巻き込まれているのだろうか? 密偵を使って調べた方が良いのでは? とサムデイルは考える。


「……帝国と言えば、バルム砦で捕虜になった者達は大丈夫なのでしょうか?」


 冷静さを取り戻したダヤンは、ふと思った事をサムデイルに聞いてみた。


「捕虜収容施設の捕虜名簿によると無事の様だ。どうやって王国に戻す事が出来るかだが……」


 現在の王国上層部は捕虜よりも王国を守る事が大事な様で、捕虜を助けようとしない。

 なのでバルム伯爵は独自に帝国と捕虜の交換しようと思っているが、帝国側に伝手がない。そのため王都の貴族達に頼んでいるのだが、上手く行っていない。

 王都の貴族達は、交渉よりも王都を守る事が大事と思っているからだ。

 王国は帝国に二つの砦を奪われており、バルム砦に隣接している領地は帝国に侵略されている。ウィール男爵領やデンキンス子爵領や他領地は帝国に占領されてしまった。そして王都と辺境伯領との中間地点であるバルム伯爵領城下街を前線として、帝国からの進軍に備えている。

 王都から近いアイローン砦には帝国の兵が集められているとの情報が入っており、近々アイローン砦近くで戦闘が始まるのではないかと上層部は考えて、王国も戦力を王都周辺に集めている。

 このような状況なので、王国上層部はバルム砦に居た捕虜を取り戻すよりも王都を守る事の方が大事と考えており、捕虜交換を考えていない。


「エイルド達が王都から離れる事が出来るのなら、ワシもバルム領に戻れるのだが……」


 学校には貴族子女が通っている。学校に通う子供達を守る為に王都に戦力を集めていると説明する王国。そして学校の子供達を戦争に駆り出し、学生隊として編成する王国上層部。子供達が戦死しないように戦力をよこせと辺境伯や領地持ちの貴族達に強要している王宮貴族達。


「どうすればよいやら……」


 オーファンと一緒に訓練をするドイル。学校に行っているエイルドとポアラ。そして屋敷にいる娘のアンジェと恩人のリリア。リリアの娘と友人達。屋敷に住んでいる者達を、帝国から、王都の人間から守る事が出来るだろうか……。サムデイルはため息をついた。

 サムデイルは領地を義理の息子に任せて、王宮貴族と対立して派閥を纏め、王都に住む娘や孫達を守る為に王都に居続ける。王都での用事も済んだので領地に帰る方が良いのではないかと考えるが、しかし王都の学校に通っている子供達を守る為に王都を守らなければならない。そして帝国と王宮貴族の二つの勢力から子供達を守り切る自信はない。

 近々、ウィリバルテォイオン辺境伯が王都に来るとの事なので、子供達を守る相談をしようとサムデイルは考えている。


「あ! オーファンの足から水玉が出た!」


 ドイルの声で訓練中のオーファンを見る。……本当に足から魔法を発動させていた。


「……かなり大変だな。片方の足からだけでも、魔法を発動させるのにかなりの集中が必要だ。両足から魔法を発動するって、トルクは……」


 オーファンの呟きを聞くサムデイル。そして『トルクは……って、何を言おうとしたのだ?』と思う。とても凄いか? または魔法の天才? それとも足から魔法を発動させるから器用か? あるいは……足から魔法を出す事が出来る奇人・変人か?


「……私も足から魔法を発動させる訓練をした方が良いかも」


 となりでダヤンが独り言をつぶやく。サムデイルは「足から回復魔法を使うのは止めてほしい。そんな事をしたら無礼だと言って相手を怒らせて罰せられるぞ」と言った。……そしてダヤンは、


「さすがに相手に失礼ですから、足から回復魔法を使う事はしません。……足から回復魔法か。相手に気付かれないように回復魔法を使うには便利ではないのか?」

「……ダヤン。とりあえず足から魔法を使う訓練は少し待て。なんと言うか……、好ましくないような気がする」


 足から魔法を発動するのは、良くないというか、変態的で美しくないというか。……魔法は手から発動させるものであって、足から発動させるものではないという感覚があるので、……兎に角、足からは魔法を発動させてほしくない。


「サムデイル。ドイル様が訓練していますが、止めないでよろしいのですか?」

「ドイルは……、後で見学するだけにしてもらおう」

「口止めもしておいた方が良いと思います。ポアラ様が訓練方法を聞いたら、実践しそうです」

「……二人に口止めしておこう。ダヤンも喋るなよ」


 サムデイルは心の中で「貴族令嬢が座り込んで裸足になって魔法の訓練をするのは絶対に駄目だ! 許可できん!」と思い、オーファンの訓練内容を口外しないように二人に伝えた。




 エイルドは王都の学校で上級生相手に模擬戦をしている。相手は第四王子の側近だ。

 対戦相手はエイルドの鋭い突きを避けたが腹に木刀を叩きこまれ、エイルドが勝利した。


「見事だな、エイルド。さすが私が見込んだことはある」

「ありがとうございます、サツヴェール殿下」


 エイルドは第四王子サツヴェールに頭を下げる。そして相手にも礼を言おうとするが、エイルドを憎悪のこもった目で睨みつけている。エイルドはこんな時にトルクならどうするか考えるが、


「男爵程度の田舎者に、王宮騎士の洗練された剣技はもったいない。これで勝ったと思うなよ! 次は本気を出してやるからな!」


 と捨て台詞を吐いて立ち去った。

 第四王子やその側近に聞こえるように言い放って立ち去った対戦相手にエイルドは思う。『相変わらずプライドだけは高いな』と。

 トルクならどんな方法でも勝ちを掴みに来る。トルクの反則的戦法は、相手に勝つ事だけを考えて練られているのだ。でも学生たちは剣を持って踊っているようにしか見えない。単純な剣術だから、隙を見つけて相手よりも早く剣を振るえば勝てる。

 しかしトルクの戦法は、わざと隙を見せて攻めさせて、相手の隙を突いて攻撃する。フェイント、攪乱、足技、投げ技など、勝利する為には何でもありだ。

 バルム砦でトルクの従者だったアルーネもトルクと訓練をしていたので、戦闘法がトルクに似ている。しかし先ほどの対戦相手や他の学生たちは、ただ剣を振り回しているだけだ。初めて対戦したときは、相手の隙はブラフなのかと本気で思ったエイルドだったが、実は見た通りのただの隙でしかなかった。王宮貴族子弟の練度の低さには呆れ返ってしまった。

 ハッキリ言ってこんな場所では強くなる事が出来ないのではないかとエイルドは思っている。しかし学校は人脈作りの為だと父から教えてもらっているので、嫌な勉強も頑張っているが、人脈にも良い人脈と悪い人脈があるという事をエイルドは身をもって覚えた。


「私が学生隊を率いる事になるだろう。だが安心しろ。私と一緒なら安全な後方に居るだけで良いのだからな」


 第四王子の言葉を聞いて喜ぶ学生達。エイルドは「ピクニックと勘違いをしているのだろうか?」と呟くが、歓声の声が大きくて周辺には聞こえない。

 エイルドは学生隊に入り戦争に行くつもりなどなかった。しかし第四王子はポアラが優秀な魔法使いである事を知り、学生隊に勧誘と言う名の命令を下そうとしたが、その前にエイルドが代わりに参加して配下に加わる事で第四王子をポアラから引き離した。ポアラを第四王子に手出しさせない為に、対立する派閥の辺境伯の令嬢の傘下に入らせた。


「どうしてこんな事になったのだろうな」

「まったくだ。頭が痛くなる」


 エイルドの呟きに返事を返す隣の相手を見る。彼は……。


「私と同じような考えを持つ者が居たとはな。ウィール男爵の御子息は分かっているな」

「貴方は?」

「私はジェットン・ルウ・ハルムート。ハルムート子爵家で騎爵位を貰っている」


 学校には騎爵位を持っている学生もいる。王宮貴族が子供に騎爵位を与えて箔をつけている者もいれば、領地持ちの貴族の子息に騎爵位を与えたりしている。

 しかしエイルドの目の前にいる者は強いと判断した。そして実戦経験もあるのでは? とエイルドは感じる。そして最上級生の人なのでエイルドは背筋を正して自己紹介をした。


「しかしエイルド君は強いな。君と模擬戦をした相手は学校でも上位の生徒なのに」

「運が良かっただけです」

「そして謙虚だ。なかなかの人格者だ。第四王子の側近候補なだけはある」


 側近候補と言われて嫌な顔をしそうだが、表に出さないようにする。……トルクのように上手く出来ないなとエイルドは思う。


「ジェットン様はどうして此処に?」

「様付けは止めてくれ。爵位は就く予定もないから騎士ジェットン、もしくは呼び捨てで呼んでほしい。ここに来た理由は学生隊に行く生徒を調べる為だよ。……ハッキリ言ってピクニックに行く準備でもしているのかと思っているよ」


 自分と同じ感想を持っている生徒が居た事に少し驚き、共感を覚える。そして最上級生を呼び捨てで呼ぶのはエイルドでも無理だと思い、騎士ジェットンと呼ぶことにした。


「ハッキリ言って戦場に行くなんてどうかしているよ。それも学生隊なんて捻りもない名前で、リーダーはコネで決まった第四王子。側近は王都でぬくぬく暮らしていて戦争のセの字も知らない宮廷貴族の子供達。その下で働く学生は下級爵位の子弟、もしくは親が騎爵位を持つ子供達。私なら絶対に参加しないよ」


 本当にハッキリと言う騎士ジェットン。それも周りに聞こえるように大きく言ったので、第四王子の耳にも入る。エイルドは逃げるべきだったと後悔した。騎士ジェットンに共感を覚えていたが、王族や宮廷貴族の子弟達に喧嘩売るつもりはない。それなのに騎士ジェットンは第四王子派の者達に喧嘩を売ってしまった。

 騎士ジェットンの声を聞いて第四王子の側近達がこちらに集まって来る。


「ジェットン。辺境伯の人間がどんな用件で来た?」

「見学に来ただけだ。気にしないでくれ」


 怒り心頭の第四王子の側近に対してにこやかな表情の騎士ジェットン。この場に居たくないとエイルドは考える。


「貴様の様な奴が来て良い場所ではない! とっとと立ち去れ!」

「はて? ここは学校内だろう。学校内なら学生がどこに居ても良いじゃないのかな」


 ……エイルドは考える。トルクならどんな方法でこの場を逃げ出すだろうか? 一目散に逃げだすだろうか? それとも気配を消して見つからないように静かに逃げるだろうか?


「子爵の分際で生意気な! 私は伯爵家の人間だぞ!」

「正確には伯爵家の親族だろう。伯爵家当主の弟の子が何を言っているんだい。取り柄が爵位しかないと哀れで泣けてくるよ。私みたいに騎爵位でも持っていれば少しくらい箔が付くのに。騎爵位を貰えなかったのかい?」


 ……エイルドは二人が言い争っている間に少しずつ距離を置く事にした。気配を消して言い争っている場から逃げ出そうとする。しかし第四王子が直接来て学生たちが周囲を囲み、逃げ出す事が出来なくなった。


「久しぶりだな、ジェットン。ついに辺境伯に見捨てられたか?」

「お久しぶりです、殿下。辺境伯には良くしてもらっていますよ。貴方よりも」


 王族に喧嘩を売る騎士ジェットンに対してエイルドは冷や汗がでそうだ。第四王子の側近達は怒りを露わにして、今にも衝突しそうな勢いだ。


「私はお前よりも有能な人材が多いからな。騎爵位程度を受け取った者だけを優遇する事は出来ん。辺境伯に顔を覚えられた程度が良くしてもらっているのなら、その程度しか出来ない辺境伯は情けない限りだな」

「殿下に顔を覚えられてもメリットがありませんからね。むしろデメリットの方が多いですよ」


 王族に喧嘩売っている子爵子息の騎士ジェットンに対して、『本当に王国貴族なのか!』と声にならない叫びが周りから聞こえるような気がするエイルド。彼も同じように叫びたい衝動に駆られる。


「ジェットン! 貴様の不敬、この私が矯正してやる!」


 第四王子の配下の学生が木刀で殴りかかるが、ジェットンは避けて足を払って倒す。二人目が素手で殴りかかるが拳を受け止めて投げ飛ばした。

 エイルドはこの動作を見ただけで騎士ジェットンが自分よりも強い者だと理解した。……模擬戦で戦ったら負けると。勝つ方法が思いつかなかった。……しかしトルクなら? と考え騎士ジェットンとトルクの模擬戦を思い浮かべそうになる。


「申し訳ない殿下、用事があるのでこれで失礼します」


 ジェットンは臣下の礼をして、囲いから抜け出してその場から離れた。その場にいた全員がジェットンの後姿を見続ける。エイルドも見続けていたが『逃げるチャンスは今だ!』と閃き、ジェットンと反対側から逃げ出す事に成功した。

 誰も居ない所に座り込み、先ほどの騒動を思い出して心に決めた。……第四王子と騎士ジェットンには近づかないようにしよう。

 そう思っていたのに帰り際に騎士ジェットンと会う。……偶然を装うが作為的だった。


「奇遇だね。エイルド君。今、帰りかい?」

「はい。今日は帰ります」

「少し私と話さないかい? 大事な話だ」


 そう言ってジェットンはエイルドを馬車に乗せる。馬車の中には女性が二人乗っていて、一人はエイルドの妹であるポアラ。そしてもう一人はウィリバルテォイオン辺境伯令嬢のクラリベルだ。


「ありがとうございます、騎士ジェットン」

「どういたしまして」

「お久しぶりです、エイルド様。少し内密のお話があります」


 エイルドはウィリバルテォイオン辺境伯令嬢から内密だと聞いて、驚きを隠す努力をする。そして妹のポアラを見るが、澄まし顔で何を考えているか分からない。……というかエイルドは妹の表情を読むのは出来た事がない。

 どのような話なのかエイルドは考える。派閥替えの話題? それとも第四王子の件? はたまた自分の事なのか? エイルドは思いつく事を考えるが辺境伯令嬢を読めなかった。


「実を言うと、私の婚約者候補にエイルド様の名も上がったのです」


 婚約者という言葉に思考が停止したエイルド。ウィリバルテォイオン辺境伯令嬢の言葉が脳内に繰り返されて、何も考える事が出来なかった。




誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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