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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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5 オーファンによるトルクの説明

 翌日、エイルドとポアラが学校に行った後、オーファンはリリア達から改めてニューラ達を救ったお礼を言われ、トルクの現状を聞かれる、

 部屋にはリリア、マリー、レイファ、ランナ、ニューラ、クイナ、ルーシェのトルクの家族・親族・関係者が集まっていた。

 オーファンは『トルクが帝国のロックマイヤー公爵の次期当主であるクリスハルトと縁を結んで、ララーシャルという女性と一緒に行動している』という事を話して良いのだろうか? と思った。

 それよりも『トルクは精霊の友人で、精霊の力を操ることが出来る御使い』と言えば良いのか?

 迷っていたオーファンはトルクから説明してもらった事を思い出し、考えた末、分かる範囲の言葉で答えた。


「トルクは帝国で会った者達と一緒に、大陸に害なす地球外生命体別称エイリアンという敵から、世界の平和を守る為に対防衛特殊対策任務を授かっているそうです」


 オーファンの説明を聞いた皆が呆然として『この子何言っているのかしら?』という表情だった。


「私も詳しくは分かりませんが、トルクは平和を守る為に戦っている人達の手伝いをしているそうです」

「……ちょっと質問があります。その、『大丈夫』ですか?」


 ランナが恐る恐る聞いてみる。オーファンは『大丈夫』という意味を理解しているので答えた。


「大丈夫です。これはトルクから聞いた説明で、すべての意味は私も分かりません。トルクは大丈夫ですよ」


 ランナはオーファンの頭か精神か、それ以外の何かが『大丈夫』なのか聞いた。そしてオーファンはトルクの身が無事であるのかという意味に捉えて『大丈夫』と答えた。


「トルクは帝国で知り会った人達と一緒に行動していて、帝国での用事が済んだら母親の元に帰ると言っていました。だから遠くない内に戻ってくると思います」


 トルクが帰って来るという言葉を聞いてマリーは喜び、リリアと顔を合わせて晴れやかな笑顔になった。


「帝国での用事とはなんでしょうか? ポアラ様やマリーから聞いた話では兄は苦労人という事なので、何かしらの厄介事に巻き込まれてはいないでしょうか?」

「恩人が亡くなる間際らしいので、その方を看取る事です」


 ルルーシャルの寿命が後一カ月くらいなので、トルク達はそれまでに用事を済ませる行動を取っている。


「それから私の用事をトルクが手伝ってくれていますので、その件が終わればトルクは王都に居る母親の元へ帰ると聞いています」

「オーファン様の用事とは?」

「申し訳ありません、レイファ様。家族の問題なので……」


 オーファンはレイファの質問に答えを濁した。家族問題で間違いはないが、帝国の後継者争いに巻き込まれて、血の繋がった皇族から命を狙われているオーファンとベルリディア。


「……そうですか。オーファン様の家族問題は解決出来そうなのですか?」

「大丈夫です、レイファ様。トルク達が居ますから」


 問題を解決するために母親とは別れて妹と訪れたロックマイヤー公爵領で、運良くトルク達と会い、行動を共にしている。オーファンは、トルクとララーシャルに出会え、トルクと友達になれた事に感謝している。

 でも『トルクと一緒に居ると今までの常識が壊れていくからな』とオーファンは考えていた。


「私からも質問、良いかしら~。オーファン君は貴族でしょう~。苗字は何ていうの?」

「……ファーレンフォールです」


 今度はオーファンがルーシェの質問に恐る恐る答える。王国の人間だからファーレンフォール伯爵家の事は知らないと思っていたが、


「ファーレンフォール伯爵家。当主の妹の二人の子供のどちらかが、帝国の先代皇帝の子供だと聞いているわ。その片方の子の名前はオーファン」


 真面目な口調で答えるルーシェ。オーファンは王国出身のルーシェが帝国に詳しいのに驚いた。


「オーファン君が言う家族の問題と言うのは皇帝の後継者争いの事ね。後継者争いで帝国は大変な状態だと聞いているわ。……そういえばロックマイヤー公爵がその子供達を保護したとも聞いているわ」


 ルーシェの言葉に皆が驚き、オーファンを見る。

 オーファンは弁解も反論もせず黙っていた。その様子からルーシェの言葉が真実だと皆が知る。


「……そんな子がどうして王都にいるの! この事を王国が知ったらどうなるの! どうしてこんな状況になっているの!」


 ルーシェは「ウガァー」と叫びながら頭を抱えた。元帝国の密偵であるルーシェはこの事を帝国側に知らせるべきなのか考える。……そして思いついた結論は。


「知らなかった事にしましょう。皆、絶対にオーファン君の正体を隠すように! オーファン君はただの平民よ。立派な普通の平民だからね!」


 ルーシェは知らんふりする事に決めた。元密偵には重すぎる情報だった。言い出しっぺはルーシェだが、情報の重さに皆口を閉ざすことを心に決めた。


「ねえ、ルーシェ。オーファン君が、トルクが手伝ってくれると言っていたけど……」

「姉さん、手伝いにはピンからキリまでいろいろ有るわ。お店でおかし買って来るパシリのような簡単なお手伝いって意味よ! 絶対に!」


 帝国の現状を知っている元密偵のルーシェは、姉の質問に真面目に、自分に言い聞かせる様に答える。

 レイファは「本当にお兄様は厄介事が舞い込む苦労人なのかしら?」と呟く。

 マリーもランナもクイナも、トルクが本当に大丈夫なのか心配になってきた。


「あの、オーファン様はどのような方法で帝国に帰られるんですか?」

「そうよ! どうやって帝国に行くの! 今は戦争中で普通の方法では帝国に行く事は出来ないわ! 私は帝国の秘密通路を知っているから行く事は可能だけど、貴方はどうやって行くつもりなの!」


 ニューラの質問にルーシェが更に問いかける。


「両手両足から風魔法を放出して空を飛んで帰るつもりです。トルクからコツを教わったので、訓練すれば多分できると思います」


 オーファンの答えに部屋が静かになる。一番初めに言葉を発したのはルーシェだった。


「空を飛ぶ?」

「はい、風魔法を使って空を飛んで帝国に帰ります」


 オーファンはトルクが助けに来てくれる可能性もあると思ったが、自力で帰る方法を考えていた。その答えが『トルクのように空を飛ぶ』だった。

 ルーシェが「何を馬鹿な事を言っているの! そんな事が出来る……」と言う言葉をニューラが遮る。


「そういえば、屋根裏部屋から来たのも、空を飛んでいたからなのですか?」

「その通りです。トルクに助けて貰いながら宙に浮いていたのですが、移動時の飛行に風魔法の加減に失敗してしまい、衝突して屋根を壊してしまいました。驚かせてすみませんでした」


 ニューラの質問にオーファンが答え、ルーシェが頭を抱える。


「敵騎士達から私達のことが見えなくなった時もトルク様の魔法なのですか?」

「地下牢に穴を開けて天井から侵入してきたことは? 敵騎士達を地面に埋めたのも魔法なのですか?」

「砂煙を出したのもトルク様の魔法なのですか?」

「クイナ様、ニューラさんの言う通りトルクの魔法です。私は一切関係ありません」


 二人の質問には正直にトルクの行いだと伝えるオーファン。頭を抱えていたルーシェは「私の価値観が音を立てて壊れていく……」と嘆き、リリアとマリーがルーシェを慰めていた。


「オーファン様。このお屋敷の皆様からトルク様の事をお聞きしていました。皆様から慕われていて私も嬉しく思います。しかし納得できない事もあります」


 侍女のランナがオーファンに言う。


「騎士に成り、帝国に連れて行かれて一年ちょっと。その間に、数十人もの敵を撃退できる魔法や、空を飛ぶ魔法を習得しています。トルク様の強さは上級魔法使いレベルに達していませんか?」


 ランナが男爵邸の人々から聞いたトルクの強さとのギャップについて指摘する。王国に居た時は剣術が使え、回復魔法が使える中級レベルの魔法使い。でも帝国に連れて行かれた後のオーファン達から聞いた話では、風魔法を使って空を飛ぶ上級風魔法を使い、数十人もの敵を地面に埋める上級土魔法を使った。


「トルク様は風と土の上級魔法を使いクイナ達を助けたという事になりますが、二つの属性を持った上級魔法使いは王国・帝国にも存在しません」


 ランナの疑問に「確かにその通り」と思ったレイファとニューラとクイナとルーシェ。普通に考えたらおかしいと思う。子供が一年で上級魔法使いになるなんて出来ないのだから。


「嘘だと思いたいのですが、クイナ達は嘘など言いません。ですが事実であっても信じる事が出来ません」


 オーファンもランナの言葉に納得する。トルク達と一緒に行動して、驚きの連続で考える事を放棄したからだ。……その結果。オーファンはララーシャルや精霊の行いを受け入れた。


「レイファ様よりも一歳だけ年上のトルク様が、たった一年でそこまで成長するのは無理があります。……オーファン様、他にも同行者が居ませんでしたか?」


 ランナは同行者がいたのではないかと言う。しかしニューラやクイナはトルクとオーファンしか居なかったと言う。


「……例えば、最初の言葉が『ミ』で、最後の言葉が『イ』の四文字の方が側に居ませんでしたか?」


 ランナの質問を受けてオーファンは考えた。……ミ〇〇イか。ミツカイ? ……御使い!


「その方がトルク様やオーファン様と別行動していて、陰ながら助けていたのではないでしょうか?」


 オーファンはランナが『御使いの事を知っている』と驚いた。そしてオーファンの驚きにランナは納得をする。


「……納得しました。ニューラやクイナを助け出せた方法。帝都から王都に来た方法も。そしてオーファン様が何かを隠していた理由も。その方を隠していたのですね」

「ランナ、どういう意味なの?」


 一人納得するランナにレイファが問いただしたが、「……申し訳ありません。お答えする事が出来ません」と言って黙った。

 レイファはランナに何度も問いただすが、ランナは「説明する事は出来ない」と謝るだけで、頑として口を開かない。そして業を煮やしたレイファはオーファンに聞く事にした。


「オーファン様、貴方は知っているのですか? ミから始まる四文字の言葉を教えてください!」

「……ランナ様の言うその方がトルクです」

「……ヘッ?」

「だからトルクがランナ様の言った御使いです」


 ランナは驚きのあまり硬直した。そしてレイファ達は動かなくなったランナの代わりにオーファンに聞いた。


「大陸に害なす地球外生命体別称エイリアンという敵から、世界の平和を守る為に戦っている人達の手伝いをしている人を、ミから始まる四文字で御使いと呼ぶそうです」

「違います! 精霊の御友人を御使いと呼びます! なんですか、エイリアンって!」

「御使いであるトルクから聞いたのですけど……」


 御使いの事を知っているランナが、ふざけた説明に怒り出す。


「ロンギア男爵家の人間に対して、そのような御使い様を貶める様な事を言わないでください! 御使い様と精霊から罰が下りますよ!」


「精霊? 精霊って守り神の様な存在なのでしょう? 前にランナから聞いた事あるわ」


 リリアは精霊の事をランナから聞いたと言い、レイファとニューラもランナから守り神の様な存在だと聞いているようだ。


「ランナ様は御使い様の事を知っているのですか?」


 怒り心頭のランナに恐る恐る聞くオーファン。ランナは深呼吸をして、


「オーファン様、トルク様が御使い様なのですか? 本当に?」

「はい。本当です」


 ランナはため息をつく。そして、


「改めて自己紹介を。私はロンギア男爵家の三女、ランナと申します。四代前のロンギア男爵当主の奥方であるピーナは当時の御使い様の従者でした、よろしくお願いいたします」


 ランナはオーファンの方を向いて礼をする。マリーがどうしてそのような事をするのかを聞くと、


「この部屋に精霊が居る可能性がありますので、念のために自己紹介をしました。ロンギア男爵家は御使い様の従者の血を引いている一族で、精霊や御使い様の事を知っているのです」


 ランナに部屋に精霊が居ると言われて皆が部屋を見渡すが、特に異常はない。しかし見えないだけで精霊のサクラはこっそり同席しており、宙に浮きながら「この子達がトルクの家族なのね。……精霊を見る事は難しいわ。やっぱりトルクが特別なのかしら?」と考えながら皆の話を聞いていた。


「帝国のラスカル男爵家みたいな一族なのですか?」

「……オーファン様はラスカル男爵の事も知っているのですね。私の家であるロンギア男爵家は昔、御使い様に助けられました。その時のロンギア男爵当主と従者であったピーナ様が結ばれました。ですから御使い様の事を知っているのです。精霊と御使い様に忠誠を誓うラスカル男爵家のような特殊な一族ではありません」

「ロンギア男爵家にそんな秘密があったなんて知らなかったわ」


 リリア達もロンギア男爵家の秘密を初めて聞いて驚く。


「精霊の話題は秘匿されていますから。一族に伝えられている口伝にも『御使い様と精霊を秘匿しろ。しかし恩を忘れず、御使い様と精霊には協力を惜しむな』と伝えられています」


 そしてランナがリリア達に言った『精霊は守り神の様な存在』というのは他の領地でも伝わっている事であり、口伝に背くことではないので話したとの事だ。


「しかしトルク様が御使い様になられているとは……」

「ランナ、そ、その御使い様とは何者なのですか?」


 難しい表情で考えるランナ。その事に恐る恐る聞くリリア。


「……御使い様とは精霊の御力を自在に使える方で、その御力は天を割き、地を砕く。瀕死の人間を治療し死人すらも蘇らせる。空を自由に飛ぶ事ができると言われています」


 リリア達は現実離れした説明に半信半疑だが、オーファンは「……出来そうだな」と思い納得する。


「精霊と会話するという特殊な才能がある者しか御使いになる事が出来ないと聞いています。そして一族の口伝には、『精霊の声を聞く者と出会ったのなら敵対するな。精霊の力を使える者には絶対に敵対するな』とあります」

「そんなに恐ろしいの?」

「はい、レイファ様。言伝えですが、王族が御使い様と精霊の怒りを買って、御使い様と精霊が城に忍び込んで誠心誠意心を込めて性根を叩き治したらしいです。他にも辺境伯領で魔獣の群れを撃退したとか、悪政を敷く貴族の心と屋敷を壊したと言われています」

「……不敬ではないの? それ以前に真実なの?」

「男爵家に伝えられている話です。捏造・誇張はされている可能性はあります。しかしその時代の王族の数名が生まれ変わったように人格が変わり、悪政を敷いた貴族の屋敷が破壊された事件は実際にありました」


 ランナの告白に皆が黙る。サクラは「そういえばジュゲム達からそんな話を聞いたわ」と思い出し、オーファンは「そういえばトルクも似たような事しているな」と呟いた。

 その言葉を聞いたルーシェは、


「オーファン君、とりあえず今までの事を詳しく説明してもらって良いかな?」

「私も詳しく説明を求めます」


 迫力ある微笑を浮かべるルーシェとランナがオーファンに説明を求める。

 オーファンは迫力に負けて、トルクとの出会いから今までの経緯を全て話した。

 トルクと同行している半精霊のララーシャル。

 空を飛んでロックマイヤー公爵領からラスカル男爵領に大木を運んだ事。

 ロックマイヤー公爵次期当主クリスハルトの婚約者を助け出して皇族と出会った事。

 帝都で精霊の力を借りて剣術魔法を学び、英雄ウルリオと従者希望のボルドランと出会い、ニューラを助ける為にアイローン伯爵と戦った事。


「……姉さん、貴方の息子で私の甥っ子は何者なの?」

「ランナ、御使い様って凄いのね……」

「そうですね、レイファ様の言う通り凄いですね……」

「トルクお兄ちゃんって昔以上に苦労人になっているね……」

「ランナ、気を確かに。大丈夫?」


 ルーシェがリリアに問いかけ、レイファとニューラはランナに苦笑いしながら御使いの感想を述べる。

 会わないうちに更に苦労人になったトルクにマリーはため息をつき、クイナはトルクの取った行動に頭を抱えているランナを心配し、リリアに至っては意識が飛んだ。


「私は用事が有るので失礼します。お邪魔しました」


 オーファンは混乱している皆から逃げるように部屋から出て行った。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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[一言] 御使い関連なら精霊がいる と、わかっていながら 秘匿しろと言われた情報をあっさり暴露するランナ 自分から勝手にオーファンの素性を暴露して聞かなかったことにするルーシェ なにやってんだろう…
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