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精霊の友として  作者: 北杜
九章 王都脱出編
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7 エイルドの婚約騒動

 辺境伯令嬢と男爵令息。エイルドは男爵令息でウィリバルテォイオン辺境伯令嬢とは身分が違う。エイルドはその程度の事は知っている。


「エイルド様はバルム伯爵の継承権もあり、次期伯爵予定です。それで私の婚約者候補に選ばれたという事なのですが。……ご存知なかったのですか?」

「……初耳です」


 エイルドの妹であるポアラも驚いている。先日、バルム伯爵である祖父と会ったが、そのような話題は出てない。……トルクの行方や帝国から来た者達のせいで話題に上がらなかったのだろうか? エイルドとポアラは考える。


「クラリベル様。エイルド君が知らないという事は、辺境伯がバルム伯爵に打診したという事ではないのですか? そしてバルム伯爵はウィール男爵と相談中でエイルド君には報せていないのでは?」

「早まったのでしょうか? 騎士ジェットン」

「問題ないでしょう。報告が遅いか早いかの問題ですから」


 ……馬車内が静寂に包まれる。それを破ったのはジェットンだった。


「エイルド君。とりあえず候補だから。他にも候補者が居て、君はそのうちの一人に入っただけだから。そこまで心配はしないで良いと思うよ」


 ジェットンがフォローするが、エイルドの耳には入っていない。いまだウィリバルテォイオン辺境伯令嬢の言葉が脳内に響いている。


「クラリベル様。お兄様の以外の婚約者候補は?」


 ポアラがクラリベルに問う。クラリベルとは何度もお茶会をしていたが、その婚約者の話題は出ていなかった。


「ピエール伯爵子息と辺境伯分家の御子息です」


 第一王子の側近である王宮貴族の王族派のピエール伯爵令息。そのような者達がウィリバルテォイオン辺境伯令嬢の婚約者候補だったとはポアラは初めて聞いた。


「騎士ジェットンは候補ではないのですか?」

「彼は私の護衛兼幼馴染で、候補ではありません。騎士ジェットンには婚約者が居ますよ」


 騎士ジェットンが分家の令息だと考えていたポアラだったが、その考えは見事に外れた。そしてクラリベルの婚約者候補の酷さに同情するポアラ。自分にはトルクが婚約者で良かったと思った。


「他にも候補が居たのですが、辞退したり、戦死したり、捕虜になったりして……」

「アイローン砦で捕虜になったり、バルム砦で戦死したりで、辺境伯派の婚約者候補が居なくなってしまったんだ。ウィリバルテォイオン辺境伯も王宮貴族子弟をクラリベル様と結婚させるのは反対しているし、第一候補と考えていた方は戦死して……」

「第一候補であった人は、私ではなく辺境伯という地位に魅力を感じていたようです。彼が戦死したと聞いたときは候補から外れて安堵しました。五歳以上離れていて、婚約者の私を付属品のように思っていた人ですから」

「そのため繰り上がって第一候補になったのがエイルド君、君だよ。辺境伯はバルム伯爵との繋がりを強固にしたいようだ。バルム伯爵領が帝国に攻め落とされると、王都と辺境伯領が危なくなる。バルム伯爵領を落とされる訳にはいかない。だから辺境伯はバルム伯爵に婚約を打診した。王都方面よりも辺境伯領方面の守りを強固にする為に」


 説明を聞いて納得するポアラ。しかしエイルドは王宮騎士になる為に、これまで熱心に訓練をしてきた。クラリベルと婚約するという事は、エイルドが王宮騎士を諦めてバルム伯爵を継ぐという事になる。ポアラは兄を見るが、まだショックから立ち直っていない。


「エイルド君には第四王子派から抜けてもらい、クラリベル様の派閥に入ってもらいたい。……エイルド君、聞いているかい?」


 ショックを受けて固まっているエイルド。どうやら話が耳に入っていないようだ。それに気づいたジェットンとクラリベルは、話を続けるのを一旦やめて様子をうかがっている。どうするべきかため息をつくポアラ。


「分家の令息とはどのような方ですか?」

「……現在、八歳の子で、彼が成人する前に私が行き遅れになるので」


 クラリベルの婚約者候補の酷さに同情して、本当にトルクが婚約者で良かったと思うポアラ。

 そして家族会議を開いてみんなと相談するべきだとポアラは考えた。





 屋敷に帰宅後、ポアラは家族を集めて家族会議を開く事にした。

 関係者であるクラリベルとジェットンも参加する事になり、ウィール男爵家のアンジェ、エイルド、ポアラ。バルム伯爵当主のサムデイルが集まり家族会議を始めた。ドイルはオーファンと訓練中なので不参加。


「お父様。エイルドの婚約の話は初めて知りましたよ」

「……打診されたので、クレインに手紙を送り、返事を待っている最中だ。返事が戻ってきたら話そうと思っていた」

「私にも相談するべきでは?」

「……この件に関しては政治的判断や他諸々が必要となる。だから先にクレインと相談しだのだ。報告が遅れてすまなかった」


 ポアラから家族会議の内容を聞いたアンジェは、父のバルム伯爵に問いただす。バルム伯爵も『失敗した』という表情で素直に謝る。


「しかしエイルドはまだ候補の段階だ。他にも候補者はいる……」

「王宮貴族と分家の令息とエイルド。誰が一番の候補なのですか? クラリベル様」

「私には父上の御考えは分かりません」


 アンジェの質問に答えないクラリベル。しかしエイルドが最有力候補ではないかと全員が思っていた。王宮貴族を好いていない辺境伯が王宮貴族と縁を結ぶとは思えない。分家の令息は年齢的な事を考えるとただの候補止まり。残ったエイルドが一番の候補ではないかと思うのは当然だった。しかし他にも候補が居たのではないかとアンジェは考えて、クラリベルに聞いてみた。それに答えたのはジェットンだった。


「戦死した婚約者候補が、自分のライバルになりそうな他の候補を脅したり罠にかけたりした為、有力な候補達はみんな婚約を辞退しました。その結果、クラリベル様の婚約者候補は酷い者達ばかり残ったのです」

「最終的に残った者達の中では第一候補は外面が良く、私も騙されました。……彼は凛々しい大人の雰囲気をしていて、守ってくれると思っていたの」


 クラリベルが愚痴をこぼす。最初は素敵な大人の男性だと思っていたが、段々と態度が変わっていった。優しさが我儘に変わり、大人びたゆとりが短気に変わり、知的な雰囲気が威圧的に変わった。外面が良いため正体を知っているのはクラリベルだけで、他の者達は全員騙されていた。


「戦死したと聞いて、彼と結婚しなくて済むと思ったら涙が出て……。その涙の理由が喜びなのに、両親は悲しさと勘違いをして……」


 クラリベルの話を聞いていた者達は何も言えなくなった。男性のせいで酷い人生を歩んだリリアを知っているので、全員がクラリベルに同情した。


「婚約者第一候補が戦死した後に残った候補達は、父のお眼鏡に適わない人達。脱落した候補者は既に別の婚約者が決まっていて。その為父はウィール男爵家のエイルド様に目を付けました」

「辺境伯とは同じ派閥で私としては良縁だと思っている。しかし義息子と娘と相談するから返事を待ってくれと頼んだ。……そして縁談を組むなら、エイルドにはバルム伯爵家を継いでもらう。ウィール男爵家はドイルが継ぐという事になるだろう」


 クラリベルの話の後にサムデイルが続く。クラリベルも不幸な結婚をしないで済むし、アンジェも良縁だと思った。そして納得がいかないのが兄妹であるエイルドとポアラ。


「お爺様! 私の王宮騎士になるという願いは!?」

「お爺様、医療ギルド設立は? トルクに爵位を継いでもらわないとギルド設立の許可が出ない」


 二人の願い。エイルドは王宮騎士となって帝国と戦う事。ポアラは医療ギルドを立ち上げて怪我人や病人を救う事。エイルドがクラリベルと結婚すると二人の夢が叶わなくなる。


「エイルドよ。王宮騎士になる夢は諦めよ。お前はバルム伯爵次期当主となれ。ポアラの夢である医療ギルドの許可は出してやるから心配するな。だからトルクと結婚してエイルドを助けるように」


 サムデイルが孫二人に言う。兄は夢が叶わず肩を落とす。妹は夢に保証され喜ぶ。しかし兄は諦めが悪かった。


「ではドイルと婚約を結べば!」

「クラリベル様を行き遅れにする気か? エイルドさえギリギリの年齢差なのだぞ」

「だったらトルクと結婚させれば! トルクは私と同じ歳だし!」

「トルクの結婚相手はポアラだろう。なにを言っている?」

「ポアラは医療ギルドを作る為にトルクと婚約を結んだだけです! ギルド設立の許可が下りたのならポアラにとってトルクの利用価値はなくなる! だからトルクがバルム伯爵次期当主の座を!」

「何を言っているのだ? ポアラがそのような考えでトルクと婚約する訳がなかろう」

「あります! それにトルクはポアラとの婚約が嫌なら婚約破棄が出来る状態なのです!」


 サムデイルがポアラを見る。……視線を逸らして黙るポアラ。

 アンジェを見る。……同じく視線を逸らすアンジェ。


「だからトルクが婚約破棄してクラリベル様と婚約すれば!」


 家族を説得しようとするエイルド。サムデイルは娘と孫娘に確認をとる。しかし二人は「駄目」と言って反対した。

 アンジェは娘がトルクと結婚してほしいと思っている。トルクとポアラの二人は、婚約し破断し再度婚約をした。ポアラが子供でトルクの事をなんとも思っていなかった事が原因だった。しかしトルクがバルム砦に行く前に、ポアラはトルクに告白をして正式に婚約者になったと、アンジェはポアラから聞いた。

 ポアラもトルクに告白した。バルム伯爵領の屋敷の中庭の大木の前で、ポアラはトルクに想いを告げた。トルクが捕虜になって生死不明だったが、生きて帝国に居る事が判明したのでポアラは喜んだ。

 しかし、トルクに婚約破棄の許可を出したままだった事をアンジェもポアラも忘れていた。トルクがポアラとの婚約を辞退すると言うのなら、リリアもトルクの味方になって婚約破棄を願うだろう。ポアラはまだトルクの婚約者候補でしかない事を今感づいてしまって、アンジェの表情が硬くなった。


「……あの、とりあえず。この場所に婚約予定者がいるので、そういう込み入った話は後でしてもらいたいのですが。ほら、クラリベル様が泣きそうな表情ですよ」


 ジェットンの言葉を聞いてハッとする人達。エイルドの婚約拒否を目の前で聞いていたクラリベル。泣きそうな顔にエイルドは罪悪感を感じて謝罪した。


「それでトルク君? かな。エイルド君が推薦する彼はどのような人物なのかな? バルム伯爵の子供? 親族? でもバルム伯爵にはアンジェ様以外子供がいないはずだし……」


 クラリベルの話題から話を逸らすジェットン。サムデイルとアンジェは口をつぐむ。王国を裏切ったアイローン伯爵と水の聖女の息子とは言えない。しかし子供達は言う。


「私の友人で将来の右腕。そして一緒に世界一の剣の達人になるんだ!」

「私の婚約者で苦労人。レイファの兄」

「レイファ?」


 ジェットンの質問にポアラが「リリアの娘」と言ってしまう前に、アンジェがポアラを止める。そしてサムデイルが「ワシの親族じゃ」と言って話を終わらせようとするが、


「トルクという方はバルム砦で捕虜になった騎士トルクの事ですか? 確かデンキンス子爵令嬢の婚約者候補の……」


 全員が「え!?」という表情で発言者のクラリベルを見る。トルクがデンキンス子爵令嬢アルーネの婚約者候補になっている事など聞いたことがなかった。


「アルーネ様から聞いた話では、デンキンス子爵がウィール男爵と交渉中との事ですが……」

「初耳だ」

「初耳です」


 サムデイルとアンジェが口を揃えて言う。エイルドは「浮気か?」と言って二股説を述べ、ポアラは「トルクはアルーネが好きだったの?」とショックを受けている。


「……思い出しました。騎士トルク。回復魔法の使い手でバルム砦での戦死者を減らした騎士兼魔法使い。彼に救われた人達は多く恩を感じているらしい。しかし帝国の捕虜になり生死不明」

「その通りだ。しかしトルクは生きている。私の密偵から生存が確認された」


 サムデイルの言う密偵はオーファン達の事だ。今は帝都のロックマイヤー公爵の所に居るという事を先日知り、それまでは本当に生死不明の状態だった。そしてジェットンとクラリベルはトルクが水の聖女の息子という事までは知らないようだ。


「話が逸れたな。とりあえずバルム伯爵当主として、エイルドを後継者に指名して、ウィリバルテォイオン辺境伯令嬢との婚約を前向きに考えている。アンジェ、エイルドよ、これは当主としての命令だ」

「……分かりました。エイルドがバルム伯爵次期当主なのですね。エイルドには伯爵家の後継者として立ち振る舞いと礼儀作法と領地経営を勉強させないといけませんね」


 サムデイルは話を戻し、エイルドをバルム伯爵後継者に指名した。それを承諾したアンジェは、夫クレインにてデンキンス子爵令嬢との婚約の件を詳しく聞かなければならないと、手紙を出す事にした。


「オレの夢が……、剣の使い手に……、勉強したくない……」


 夢破れてショックを受けるエイルド。そして、


「そうだ! トルクに頼もう。オレはバルム砦に行って帝国と戦おう! トルクに立ち振る舞いと領地経営を任せて、オレはバルム砦の責任者になって……」

「そのような事、許可すると思うか? 諦めろ、エイルド」

「なら、バルム伯爵を継いだら、トルクに執務全般を任せて……」

「お兄様、これ以上トルクを苦労人にさせないで」

「だったら! クラリベル様が好きな人は居ますか? その人と結婚をすると言うのは!」

「私には好意を持っている男性はいません。それに私は辺境伯家の娘として、家に有益となる男性と結婚する事を幼少の頃から言われていますので、辺境伯当主が決めた相手と結婚するだけです」


 エイルドの思いつく限り反論したが却下されて終わった。力尽きるエイルドにクラリベルは言った。


「エイルド様は私との婚約は嫌なのでしょうか?」

「嫌だ! 面倒!」


 美人の辺境伯令嬢は間髪入れず断言されて泣きそうになる。ここまで拒否された事は生まれて初めての事だった。


「エイルド!」


 さすがのアンジェもエイルドの無礼な言葉に怒る。


「婚約者なんていたらトルクと一緒に修行の旅に出る事が出来なくなる。きっとトルクも残念がります! トルクが私に先んじて修行の旅をしているのに、私は王都でつまらない者達の相手をして……。今のトルクが私を見たら失望します!」

「だからと言ってクラリベル様になんて酷い言葉を言うのですか! それこそトルクに失望されます!」


 娘と孫の言い争いにため息をつきそうになるサムデイル。エイルドの中では『トルクは修行の旅の最中』となっている。私の孫は大丈夫だろうかと本気で頭が痛かった。そしてクラリベルを慰めている孫娘のポアラが、


「クラリベル様、お兄様はちょっと残念で馬鹿な人なの。だから婚約したら大変な事になると思うから、嫌なら嫌と言った方が良いと思う。その方がお互いの為だと思うから」


 ……トドメを刺して婚約を止めさせようとしている。その事で更に落ち込むクラリベルは、顔に暗い影を落としてブツブツ呟いている。

 ため息をついてジェットンはエイルドを説得する事にした。


「エイルド君。君は王宮騎士になり、王国一の剣の使い手になる事が夢なのかな?」

「そして領地を守り、帝国と戦います! それが私とトルクの夢だ!」


 いつの間にかトルクと夢を共有している。この場にトルクが居たら『そんなこと言ってないって!』とツッコミを入れるだろう。


「……王宮騎士になる事はお勧めしないよ。王宮ではコネと賄賂で王宮騎士の強さが決まるから。剣術が強くても王宮では無意味だよ。コネで王宮騎士に入団して、上層部への賄賂で出世するのが今の王宮騎士だよ」


 ジェットンはエイルドに王宮騎士の実態を説明する。

 昔の王宮騎士は王族を守護して帝国から国民を守っていたが、今では腐敗しきっている。王宮貴族が牛耳っており遣りたい放題、領地持ちの貴族が入団しても腐敗の酷さに退職する者が多い。腐敗を正そうとした者達も居たが閑職に回されている。


「エイルド君は第四王子から認められているけど、他の側近達からは嫌われているから、高い確率で冤罪をかけられて良くて追放、最悪の場合は死罪かな。側近達の親族は上層部にコネがあるから、賄賂を渡せばエイルド君に罪を着せる事は簡単にできるよ」


 エイルドは第四王子の側近から嫌われている。今は嫌味を言われるくらいだが、今後は更に酷くなるだろうと、ジェットンは説明する。


「王都に住む貴族達は質が悪いからね。彼等は自分達が一番偉いと思っているから、領地持ちの貴族を見下しているし。エイルド君はそんな相手に恥をかかせたから王宮騎士になって出世する事は出来ないと思うよ。今日模擬戦をしていた上級生、君は勝っちゃっていたけど、彼の親族は王宮騎士のお偉いさんだから。出世は絶望的だよ」


 エイルドは自分の行動で王宮騎士への道が閉ざされた事を知った。これほど酷いとは思わなかった。


「だから王宮騎士よりもバルム伯爵領で出世した方が良いと思うよ。バルム伯爵領は最前線で帝国と戦っていて、騎士や兵達も精鋭だ。それに次期当主となれば王宮騎士になるよりも出世するだろうし、君のように強ければすぐに隊長クラスになるだろうな」


 バルム伯爵次期当主の利点を聞いたエイルドは一筋の光が見えた気がした。王宮騎士になって帝国と戦うよりも、バルム伯爵領で武勲を立てる方が良いと感じ始める。


「騎士トルク。彼はバルム伯爵家の騎士で、噂では素晴らしい人物だと聞いた事がある。彼を部下にという人達がいるようだけど、バルム伯爵家次期当主だったら彼と一緒に武勲を立てることくらい出来るな。そしたらあっという間に大隊長、いや将軍の地位くらいはいけるかもしれないな」


 独り言のように呟くジェットン。エイルドは『なるほど!』という表情をする。


「魔獣から王国を守護しているウィリバルテォイオン辺境伯領の騎士達も精鋭揃いで、クラリベル様と婚約したら辺境伯領への武者修行も簡単に許可できるな。そうなったら剣術の腕も格段に上がり、王国や帝国でも勝てる者は居なくなるかも……」


 更に呟くジェットン。

 エイルドは新しい世界に目覚めた気分になった。なんて素晴らしい提案だろう! トルクと一緒に帝国と戦い、世界一の剣の使い手になれるという夢が叶えられると感じた。


「この婚約はポアラ様にも利点がある」


 ジェットンはポアラの方を向いて言う。


「医療ギルドだけど、素晴らしい案だと思うよ。バルム伯爵領だけではなく、辺境伯領でも設立して欲しいくらいだ。エイルド君とクラリベル様との婚約で縁が出来たのだから、ポアラ様さえよければ医療ギルド設立に向けて協力したいと考えている」

「本当?」

「もちろん本当さ。医療ギルドという名称だから、怪我や病気を治したり研究したりする組織だよね? 素晴らしい考えだ。クラリベル様もそう思うよね」

「え? そ、そうですね。辺境伯領では魔獣によって怪我をする者達が多いので、そのようなギルドがあれば犠牲者も減らせますね」

「ウィリバルテォイオン辺境伯も医療ギルド設立の許可を出すように説得するから、どうかな?」


 落ち込んでいたクラリベルに話を振って、ポアラの願いである医療ギルド設立に同調するジェットン。


「お兄様とクラリベル様との婚約に賛成します。クラリベル様、残念な兄ですがよろしくお願いします」


 エイルドの婚約などどうでも良いと思っていたポアラは、二人の婚約に賛成する。


「それでエイルド君。君はどうする? クラリベル様との婚約は?」

「え? 婚約? ……仮の婚約者として、嫌なら破棄できるのなら良いです」


 エイルドの返答に全員が驚愕する。「エイルド! 何を言っているんだ!」「どうしてそんな答えになるの! エイルド!」「お兄様、頭大丈夫?」などの怒声を親族から受けるエイルドは、


「え? トルクにはポアラとの婚約に関して拒否権あるのでしょう。だったらオレも拒否権があった方が良いと思って」

「拒否権だと? そうなのか? アンジェ、ポアラ」

「え、えっと、ポアラが子供だったから、婚約させる為に仕方なくね、でも大丈夫よ、トルクは婚約破棄なんてしないから。ポアラがこんなに好いているのだから」


 話が横道にズレてため息をつくジェットン。そして「なんか面倒な家族だな」と呟いて再度ため息。


「あー、もう婚約者候補で良いんじゃないか?」

「……そうですね。とりあえず候補としましょう」

「とりあえずは外堀を埋めて……」

「学校内で噂を流しておきます」

「女性陣は任せた。私は男性陣に噂を流すから」

「よろしくお願いいたします」


 ジェットンとクラリベルは話が纏まらないウィール男爵家の話を聞き流しながら、エイルドとの婚約成立の噂を流す作戦を立てる。この噂が流れたらエイルド達も無視は出来ないだろう。

 そのような作戦を当事者達の目の前で立てているのに、ジェットン達の会話は誰も聞いていない。二人は改めて「婚約間違ったのではないだろうか?」と思った。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] エイルドが一番マシな婚約者候補とかひどすぎる。 この国はどこもかしこもボロボロですね。
[一言] >腐敗を正そうとした者達も居たが官職に回される。 閑職かも? 島流し的な意味なら。
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