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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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22 ジュゲムの過去話

 私は遠方を見る術を使いルルーシャルの父親であるドライセンを確認する。部屋でなにやら書類を書いている人間。……頭の毛が無くなりハゲて太っているが本人に間違いない。


「ドライセン。久しぶりだな」


 声を送る。それを聞いたドライセンは立ち上がり周りを見る。


「ジュゲムか?ジュゲムなんだな!お前は無事だったのか!」

「無事とはどういう意味だ?」

「アーカイラが言ったんだ!ジュゲムは彼女を助ける為に最後の力を振り絞り逃がしたと!お前は死んだと聞いた」


 ……とりあえずドライセンの言い分を聞こう。アーカイラとはドライセンに印を付けた女性の闇の精霊だが近くにいないようだな。


「町で襲われたときの記憶があいまいなのだがアーカイラに助けを頼んだ。そのときに「死んだふりをしろ」と言われて実行したのだ。その後襲ってきた奴らは私を殺したと判断して馬車で運んで川に投げ捨てた。本当に死ぬかと思ったぞ!何とか這い上がって疲れた体に鞭を打ち家に戻ったら誰も居ない。その時に精霊が言ったんだ。「私を襲った者達に襲われ、ジュゲムが殺されそうになったが最後の力を使い彼女を救った。しかし彼女は魔力を失い御使いの力を無くし死んでしまった」と。子供も一緒に死んだと聞いたぞ!私は悲しみ、襲ってきた者達に復讐を誓った!」


 ……どうやって私を殺したのか聞いてみたい。精霊に物理攻撃は効かないぞ。魔術攻撃でも上級魔法で少し傷つける事しかできないのに。


「帝国に戻って私は王国を滅ぼすために動いたがまだ彼女の仇がとれない!そして皇帝である兄が病に倒れてしまった。兄の代わりに帝国を守るために王国と戦っているのだがバルム砦が落ちん!」

「ドライセンよ、彼女は生きているぞ。そしてお前達の娘のルルーシャルも生きている。お前と一緒にいた闇の精霊が死んだと言ったのは嘘だ。……そういえば精霊が近くにいないな?」

「アーカイラは居なくなった……。ハゲでデブな中年は嫌いって言って」

「そうか……」


 私はドライセンに先代御使いの事やルルーシャルの事を話した。そしてララーシャルと一緒に行動をしていた事も。ララーシャルが皇帝の密命で王国と会った事から死亡の原因まで伝えた。

 そして今はドライセンの孫が生まれようとしている事を話す。


「彼女は生きていたのか!娘も生きていたのか!そして孫も生まれようとしている!そしてララーシャルが死んだ原因は帝国のせいなのか!」


 ドライセンを納得させて私はルルーシャル達と一緒に皇都に行く。ララーシャルと一緒に帝都を出た生き残りで向かう。ルルーシャルとラッシーとレローラとレローラの旦那と子供のフローラ、そして護衛と侍女二人で帝都に向かう。途中でドライセンの側近と合流をして城でドライセンと出会った。

 私はドライセンの頼みで皇帝を癒し、ルルーシャルは御使いとしてララーシャルの事を皇帝に話した。皇帝はショックを受け、ドライセンにララーシャルを殺した者、ラスカル伯爵家を陥れた貴族達を捕まえる事を命令した。

 しかしドライセンは私達が帝都に来る前に容疑者を捕まえており尋問中だと皇帝に伝える。

 その後、皇帝とドライセンとルルーシャル達が会談中にラスカル伯爵家当主が部屋に乗り込んできた。


「ドライセンのブタめ!貴様だけは殺してやる!」

「皇族の居る場所にまで賊が乗り込んでくるとは!護衛は何をやっている!」


 血まみれで部屋に乗り込んできたラスカル家当主。そして賊と勘違いした皇帝の弟ドライセン。

 ラスカル家当主がルルーシャルを見てドライセンに攫われたと思い、ドライセンに殴り掛かるラスカル家当主。しかしドライセンも中年でデブだが若い頃は強かったし今も強い。二人は殴り合いを始めた。あの時の闘いは血沸き肉躍る闘いだった。

 そしてラッシーやレローラの旦那の護衛騎士達が二人を間に入って止める。今度は二人で口喧嘩を始めた。あの時の口喧嘩は良く相手を罵る事が出来ると思ったものだ。

 そしてルルーシャルと皇帝が二人に説明をしてようやく落ち着いたと思ったら再度殴り合いを始める。


「貴様は一発多く殴った!そのお返しだ!」

「逆だ!貴様の方が多く殴った!」


 ようやく、部屋の外から護衛兵が来て二人を取り押さえてくれた。護衛が来るのが遅くなった理由はラスカル家当主が牢屋を脱走して城の護衛兵を殴り倒してきながらこの部屋に来たからだ。全てはドライセンの魔の手からルルーシャルを守る為に闘った。

 部屋の外や近くにいた騎士や兵はラスカル家当主が倒したので他の兵が来るのが遅くなったそうだ。

 ラスカル家当主とドライセンを椅子に座らせてロープで縛る護衛兵。これで落ち着いてくれると良いが。しかし説明をしている最中でも二人は罵り合う。犬猿の仲だな。

 最後にルルーシャルに子供が出来たと伝えると二人は文字通り飛び上がって喜んだ。そして床に倒れて転がった。

 その後、床に転がっている二人はルルーシャルの取り合いをしていた。


「私の娘だから私の屋敷に住ませる!孫の出産まで面倒を見る!」

「息子と結婚をした私の義理の娘でもある!帝都にあるラスカル家の屋敷で面倒を見るのが筋だ!」

「黙れ!皇族に逆らうのか!」

「皇族如きがラスカル家を潰せるとは思わない事だ!御使い様の為なら皇族など塵芥同然!ブタだって簡単に殺せるわ!」

「反逆者として貴様を潰してくれようか!貴様程度ワシだけで十分!」

「ハゲブタ如きが何を偉そうに!」

「何を言う!殴った回数はワシの方が多いぞ!口だけ伯爵!悔しかったら殴り返してみろ」

「このハゲー!」


 ……二人の会話は無視して話を進める事にした部屋の者達。ルルーシャルの住む場所は皇帝がララーシャルに譲る予定だった屋敷を貰った。そしてララーシャルを頼むとルルーシャルに頭を下げる皇帝。

 皇帝はルルーシャルとラスカル伯爵家を陥れようとした貴族を厳罰に処する事を約束した。

 そしてラスカル伯爵は皇族批判で男爵まで位を落とす事になった。


「確かに冤罪で捕まって牢屋に入れられたが、脱獄をして騎士や護衛兵を殴り倒し、ドライセンと良い勝負をしたとしてもこれは隠し切れない。爵位剥奪、放逐するべきと他の貴族達が言うと思うが、冤罪であった事の恩赦を考えて爵位を子爵に落とす。その後にラスカル家に頼み事をして手柄を立てさせて爵位を伯爵に戻す事にする。……だから二人とも争うのを止めろ!お前達のせいで面倒な事になったのだぞ!」


 皇帝に注意されても二人は罵り合う。周りの者達も呆れて何も言えないようだ。




 その後、ルルーシャル達は皇帝から貰った屋敷で生活を始めた。

 レローラは娘を育てながらルルーシャルの付き人として働き、侍女の二人も屋敷で働く。レローラの夫は屋敷の護衛長として屋敷を守る仕事をする。

 ドライセンから必要な荷物や手配してもらい、ラスカル家当主からは領地内の人材を屋敷に送った。

 二人は事ある事に争いを続ける。殴り合いは禁止されているので口喧嘩が多い。しかし口喧嘩が酷くなるとルルーシャルから屋敷の出入り禁止がされるので屋敷では控えている。

 ラッシーはルルーシャルを見守りながらドライセンやラスカル家当主の間に入って二人を抑えている。一番苦労しているのがラッシーだろう。

 そしてラスカル家を陥れ、ドライセンに嘘の報告をした貴族達を裁いているときは仲の良いドライセンとラスカル家当主。その事をルルーシャルに愚痴っているラッシーを何度も目撃している。

精霊になったララーシャルはルルーシャルといつも一緒に行動をしているか寝ている。まだ子供だから仕方がない。そのうち煩くなるだろう。

 私はルルーシャルの母親に連絡を取ってドライセンが生きている事を伝えた。王国の辺境に居たから探すのに時間がかかった。

 そしてルルーシャルが子供を産んだ。名前はラッシーと二人で考えた名前が採用された。赤子の名前はトルク。

 トルクはみんなから祝福されて生まれた。

 しかしその日は絶望の日となった。

 祝っていた日に突然襲撃が行われた。

 その攻撃にレローラの旦那と近くに居た人間が当たり死んだ。

 襲った敵はドライセンに印をつけた友人である闇の精霊のアーカイラだった!


「あの女が憎い!あの女の娘が憎い!」


次の攻撃でレローラや侍女達、護衛の者達が殺された。


「どうしてこんな事をする!」

「ドライセンの心を奪ったあの女が憎い!」


 普通なら私の方が強いが嫉妬により強さが増している闇の精霊。ルルーシャルを狙って攻撃しているが何とかそらす。

 アーカイラはドライセンの魔力を使い攻撃する。初代としての能力があったドライセンは御使いの修業をしていないので精霊に魔力を取られる。

 奪った魔力で強くなった闇の精霊は屋敷に向けて攻撃して住んでいる者達を殺した。

 ルルーシャルを狙った攻撃を代わりに受けたラッシーも死んだ。

 そして闇の精霊から魔力を吸い取られたドライセンも倒れ、必要以上に魔力を奪われて死んだ。

 ルルーシャルから魔力を受け取って戦えれば嫉妬に狂った闇の精霊のアーカイラと互角以上に戦えるのだが、ルルーシャルは産後で体力が戻っておらず魔力を受け取る事が出来なかった。

 そしてルルーシャルとルルーシャルの胸に抱かれていたトルクにも攻撃が当たり二人は倒れてしまった。

 そして闇の精霊が私達にとどめの一撃を食らわす瞬間に他の者からの攻撃を受けた!

 ルルーシャルの母親で先代の御使いだ。アーカイラは目標を先代御使いに変えて攻撃する。私は彼女を守る為に立ちふさがった。

 ルルーシャルの母親から魔力を貰い闇の精霊と戦う!嫉妬の力で苦戦をしていたがギリギリで勝つ事が出来た。

 闇の精霊は消滅して消えた。私も魔力を使いすぎて疲労した。

 ルルーシャルの母親も魔力を使いすぎて倒れてしまう。私にルルーシャルを癒してと言うが魔力がないので癒す事が出来ない。


「ジュゲム!ルルーシャルを癒して!」

「すまない、魔力がないのだ。癒す事は出来ない」

「そんな……。私のすべての力を使っても無理なの?」

「無理だ。私自身に魔力が少ない。魔力があって回復できる精霊……。ララーシャルなら……覚醒させて本来の記憶を表に出すのなら」

「どういう事?」

「ララーシャルという半精霊の者がいる。今は幼い精霊が表に出ているが、回復魔法が使えるララーシャルが表に出るなら何とかなるかもしれない」

「半精霊?」

「回復魔法が使える人間とその人間を慕った精霊が融合して半精霊として生きている。ララーシャルは精霊の為に深層意識で寝ているが、それを起こせば……」

「そんな事が出来るの?」

「それこそすべての力を使うしかない。しかし成功する確率は低いぞ」


 私と先代御使いが話しているときにララーシャルが私達の近くに来た。レローラの子供を助けていた様だ。


「ジュゲム!どうしたの?いきなり家が壊れたから近くの子供を助けたけど……ルルーシャル!大丈夫!」


ララーシャルがルルーシャルに呼びかける。ルルーシャルは生きているのか?


「貴方がジュゲムの言っていたララーシャルね。貴方に私の力のすべてをあげるからルルーシャルを助けて!ほんの少しだけ本来の貴方が覚醒すると思うから、その力でルルーシャルを助けて!」


 ララーシャルに力を注がれてララーシャル皇女の記憶が蘇り回復魔法が使えるようになった。その結果、力をすべて失ってルルーシャルの母親は死んでしまった。

 ルルーシャルに回復魔法を使う覚醒したララーシャル皇女。ルルーシャルは助かるだろう。しかし子供のトルクが死に、夫のラッシーが死んだ。

 レローラやドライセン、屋敷に住んでいた者達は死んでしまった。

 生きているのはルルーシャルとフローラだけだ。

 そして皇帝がドライセン達の死を知ったのは襲撃のあった日の次の日の事だった。

 皇帝は体調を崩していたルルーシャルを思って数日間休ませたが、ルルーシャルは皇帝に全てを話した後に、フローラを連れてラスカル領に戻った。

 ラスカル領にいるパトラッシュに全てを話してルルーシャルはフローラと一緒に旅に出た。

 数年後、ルルーシャルはフローラと一緒にラスカル家に戻ってきてフローラを引き取って貰う事をパトラッシュに頼んだ。

 フローラには御使いの才能がなく、ラスカル男爵家に預けられてラスカル家の養女となった。

 今は貴族と結婚して幸せに暮らしている。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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[一言] 口喧嘩の内容子供かな……?
[良い点] キャラクターが生き生きしているし、しっかりしたバックボーンがあってとても良いです。 [気になる点] 読み続けている理由として、主人公のトルクがどう物語の中で動いて行くのか、トルクが他の登場…
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