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精霊の友として  作者: 北杜
六章 帝国領囚人編
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23 新しき御使い

 ジュゲムから話を聞いてオレとランド爺さんは黙っているだけだった。

ルルーシャル婆さんの事を聞いてオレは沈黙し何も言えない状態で、ランド爺さんは沈黙しながら泣いている。


「皇帝陛下はその後に亡くなり、その御子息が皇帝になった。新しい皇帝は戦争派の者で御使い様を戦争に参加させろとラスカル家に命令したが私は断った。そのせいで爵位が子爵から男爵に落ちたのだ。男爵になり他の貴族達からの嫌がらせでここまで落ちぶれてしまった」


 ……パトラッシュさんもだいぶ苦労していたんだな。権力者からルルーシャル婆さんを庇って今まで生活してきたのか。


「レローラの忘れ形見であるフローラはルルーシャル姉上の頼みで私の養女として育てた。男爵になり落ちぶれた所に来る嫁は居なくなり結婚が絶望的だったし、どうにかしてラスカル家を立て直さなければいけないからフローラに爵位を継いで貰おうと思っていたが、運よく私も結婚出来たから問題なくなった。フローラはとある貴族と結婚してラスカル家はその貴族の傘下になり、その寄付金でなんとかなっているのが現状だな」


 そこまでこの領地はヤバいのか?貴族の嫌がらせが酷いのか?それともパトラッシュさんの手腕か?


「フローラは私を母と呼んでくれる優しい子でね、あの子が生きていたから私も頑張れたわ。でも御使いの才能は無かったからパトラッシュに頼んで養女にしてもらったの。幸せになってほしくて私達は別れたわ。そしてフローラは結婚して幸せに暮らしているわ。子供もいるのよ」


 明るく装った声でルルーシャル婆さんは言う。フローラさんが幸せでなりよりだね。


「皆様にそのような事があったなんて……」


 涙を流しながら声を出すランド爺さん。精霊の友である御使いが精霊に周りのみんなを殺されてしまったからな。……嫉妬で。


「闇の精霊はドライセンに愛情をもって好いていて、そのドライセンの心を奪いかけていた先代御使いに嫉妬していた。だから王国で襲われたときにドライセンや周りの者達に暗示をかけて騙した。襲ってきた敵にドライセンが殺されたと彼女や私に聞かせた。そしてドライセンにも彼女と私が死んだと暗示をかけた。そうやって精霊はドライセンの心が自分のモノになると思ったが、帝国に居た妻や子供、王国への恨みなどがあって心を奪うことは出来なかった。ドライセンは闇の精霊を友としか見ていなかったからな。そして年数が経ち、ドライセンの頭が光り輝き、腹を叩けば太鼓のような音が出るハゲデブ貴族となったときに闇の精霊はドライセンから離れた。しかし先代御使いの事は忘れていなかった。彼女が居なければドライセンの心は自分のモノになると思っていたのだ。そしてドライセンとルルーシャルが再度出会い、その孫が生まれる事を知った闇の精霊は嫉妬と憎しみを持ち私達を攻撃したのだ。最後には闇の精霊も力を使い果たして消滅したがな」


 ……嫉妬の力って凄いな。本当に……。自分が死ぬまで相手を嫉妬したなんて。


「屋敷が破壊された事は皇帝の耳にも入ったわ。私とフローラは城で体を癒して皇帝にその日の出来事を伝えて、ラスカル領で留守番をしていたパトラッシュにも説明をしたの。その後はフローラと一緒に旅を始めたわ。レローラもランドの居ない旅をして子供や旦那の事を思い出しながら数年旅をしてね。旅の途中でフローラが御使いの修業をしたいと願ったから教えたけど才能が無くて御使いにはなれなかったわ」


 昔を思い出すように話すルルーシャル婆さん。そしてオレを見て言った。


「御使いが私の代で終わると思っていた。でもランドと一緒にトルクさんが私達と出会った。初代で御使いの才能が有る貴方が私達と出会った。私の代で終わると思っていた御使いの後継者だと思ったわ。そして私の子供の同じ名前だったのは本当に驚いたわ」

「凄い偶然だよね」


 前世はルルーシャル婆さんの子供ではないよ。前世の記憶を持っているからね。


「それで改めてお願いします。貴方に御使いを継いでほしいの。トルクさんに出会えてララーシャルにも出会えたし、私は思い残す事は何もないわ。寿命も三ヶ月位だしね」


 そう言って真面目な顔で言った。


「私の最後の願いを聞いてほしいの、トルクさん。御使いになってくれませんか?」


 ルルーシャル婆さんの残りの寿命や生き様を聞き、断る人は居るのだろうか?婆さんの最後の願いと言われて無下にする事は出来ないよな。


「……分かった。御使いを継ぐよ。今までの御使いの名を汚さない様に努力する」


 その言葉を聞いてルルーシャル婆さんは喜びのあまり泣いた。それを慰めるララーシャルとサクラ。


「おめでとう、新しき御使いよ。ラスカル家は君を支援する。私に出来る事は何でも言ってくれ!」

「よく決心したな。流石は初代と同郷の者だ」


 パトラッシュさんとジュゲムが祝福してくれたが、オレが御使いになっても良いのか少し心配になった。ルルーシャル婆さんの様に上手く出来るのか?


「おめでとう!トルク。大丈夫よ、私が助けてあげるわ!一緒に旅をしてあげる」


 あれ?サクラって墓守じゃなかったの?一緒に旅をして良いの?


「ライの遺言でね、同郷の者が困っていたら助けてくれって言われているの!私も一緒に行くわ!」

「ありがとう、サクラ」

「私も一緒に行くわよ!印を付けた精霊で貴方の友なのだから!」


 ララーシャルもオレと一緒に旅をしてくれるそうだ。この二人が一緒に旅が出来るなら心配ない……よね。少し別の不安が……。


「ジュゲムはどうするの?トルクさんと一緒に行く?」

「私はルルーシャルの側にいる。そしてサクラの代わりに初代の墓を守ろう。ライからは子供や孫達を頼むと言われていたからな。その子供はルルーシャルで最後だ。ここで少し休ませて貰おう」


 ジュゲムは旅には参加しないようだ。ジュゲムが旅に参加したら凄く大変な事になったかもしれないな。ある意味良かったのかな?


「ではこの事をフローラにも伝えないといけないな」

「フローラも新しい御使いの事を教えないといけないわね。手紙を出さないといけないわ。ここに来る前にロックマイヤー公爵領に手紙を送ったけどまだ届いていないでしょうし」


 ……ロックマイヤー公爵?どこかで聞いた事がある名前だな。聞いた事ある名前だよね!主にバルム砦で聞いたよね!


「フローラは養女となった後でもいろいろと頑張ってくれていて。私も結婚をしていたが男爵位に落とされた事で妻とは死別してな。ルルーシャル姉上の話を聞いて私はフローラを養女にしたのだけど、フローラはロックマイヤー公爵家の御子息と大恋愛の末結婚をしたのだ」

「公爵家と恋愛結婚とは珍しいですね」

「フローラの旦那様は誠実で真面目な貴族でね。ジュゲムに調べてもらったから間違いないわ。あの子は幸せに生活しているわ」


 ランド爺さん達はフローラさんの事で話し合っているがオレは話を中断させて聞く。


「……話の腰を折るけど、ロックマイヤー公爵家にはクリスハルトという名前の人物がいない?」

「居るぞ、フローラの息子だな。確か王国に捕虜となっていたが解放されたとフローラからの手紙に書いてあった」

「クリスハルトの部下にローランドとスレインっていう名前は居ない?」

「……確かエディオン子爵家にスレインとローランドという兄弟が居たと思う」

「待って!それって!」


 ルルーシャル婆さんが叫ぶけどオレは気にしなかった。敵の正体が分かったからな。

 そうか、クリスハルトはパトラッシュさんの孫なんだな。そしてエディオン家の事も分かった


「そうか……殺人対象者の手掛かりを掴んだよ。御使いとして初めての仕事が決まったな。クリスハルトの所に行って締め上げて容疑者を白状させてやる」


 御使いとしての最初の仕事はスレインとローランドを血祭りにあげる事だ!スレインの部下達も地獄を見せてやる!そしてダニエルの事を聞かないといけないな!


「ちょ、ちょっと待ってくれ!クリスハルトがなんだと言うのだ!あの子は帝国の貴族だぞ。クリスハルトと知り合いなのか?それに殺人対象者ってどういう意味なのだ?」

「……トルクさんの探している人がクリスハルトの部下だったのね。世間は狭いわね。知り合いがトルクさんを殺そうとしたなんて」

「そのようですね。ローランドとスレインという者の事はわかりましたね。残りの人間はダニエルという者だけですね」

「御使いを殺そうとした!どうしてクリスハルトがどうしてその様な事を!」


 とりあえずパトラッシュさんにオレの生い立ちとランド爺さんの事を話した。


「何という事だ……。クリスハルトの部下が二人を殺そうとしたなんて。私はどうすれば……」


 パトラッシュさん悩んでいるな。それはそうだな。孫の部下が御使いと知り合いを殺そうとしたからな。ランド爺さんは刺されてマジでヤバかったからな。


「ランドは魔獣に殺されて食べられていたし、トルクも魔獣にデザートとして食べられていただろうな。ララーシャルが見つけなかったら二人ともこの世にはいないだろう」


 ジュゲムがおかしな事を言う。ランド爺さんが殺されて食べられていた?爺さんは生きているぞ?ルルーシャル婆さんを見ると顔をそらされた。

 ……爺さんは死んで生き返った?ジュゲムの回復魔法は死人も生き返らせることが出来るのか?


「ランドの場合は死んで間もないから回復する事が出来た。流石に数日間放置している死体を生き返す事は私にも出来ないぞ」


 それでも凄いと思うよ。この事はランド爺さんには言わない方が良いよな。魔獣に食べられていたとは。

 よし! そうと決まればロックマイヤー公爵家に行ってクリスハルトからローランドとスレインの事を聞きださないといけないな。


「待ちなさい! トルクさん。貴方は御使いの修業を修めていないでしょう。精霊に体を乗っ取られるのを防ぐ術を身に付ける事が先決よ」

「でも手掛かりを見つけたのに。それに急がないと敵が逃げるかも……」

「大丈夫、エディオン家の者なのでしょう。それに旅の準備もしないといけないでしょう。トルクさんの身分証は無いのでしょう。身分をしっかりしないと帝国の人達に捕まるわよ」


 しかし、折角の情報が……。


「それにロックマイヤー公爵家に行っても門番に追い返されるわ。フローラに伝えてクリスハルトと会えるようにするから今は修業をした方がいいわ」


 確かにアポなしで上位貴族に会う事は出来ないよな。


「フローラをラスカル家に呼んでその時に紹介するから、トルクさんはフローラと一緒にロックマイヤー公爵家に行けばいいわ」


 ……そっちの方が効率的かな?


「それに精霊から身を守る術を身に付けないと!ほら精霊達が寄ってくるわよ」


 確かに近くに精霊が寄ってくる。でもサクラとララーシャルが居るから今の所は大丈夫だけど……仕方がないか。精霊術の修業をするか。


「そうだね。精霊術の修業をするよ。その後にフローラさんと一緒にロックマイヤー公爵領に行くよ」

「そうと決まれば修業は明日からで、今日は宴会ね!新しい御使いの誕生を祝いましょう!」

「そうだな、久しぶりに飲むか!」

「私の中のララーシャルが成長したからお酒が飲みたいって!私も久しぶりに飲みましょう。ルルーシャルも一緒に飲みましょう」

「あらあら、宴会ですか。トルクさんが御使いになったお祝いの日ですけど、羽目を外さない様にしてくださいよ」


 精霊どもが宴会を希望してきた。大丈夫なのか?ラスカル家は財政難だぞ。


「ではこの日の為に取って置いた秘蔵のワインを出しましょう」

「では私は宴会の準備を始めましょう。パトラッシュ様、道具の場所は前と同じですか?」


 ……大丈夫の様だな。財政難と言っても貴族だから蓄えくらい有るみたいだな。


「そういえばトルク、精霊の料理の準備は出来ている?」

「確か王国で流行っている料理だな。私も見た事がない料理で美味い料理らしいが」

「そんな料理が王国には有るのね。食べてみたいわね。でも精霊の料理ってトルクが流行らせたのよね」

「どうして知っている!」


 なんでララーシャルが知っているんだ!王国での事は誰にも教えていなんだぞ!


「ほら、私と奥義を使ったときに貴方の記憶も流れてきたの。その時に知ったわ。テンプラとかハンバーグとかカラアゲとか」

「オレはララーシャルの記憶は知らないぞ!」

「当り前じゃない。女性の記憶を見る事は出来ないわ!」


 理不尽な理由だが真理だと思う。でもララーシャルはどこまでオレの記憶を見たんだ?結構気になる。


「トルクに料理を作ってもらってお祝いをしましょう!」


 サクラよ……祝福される人間に働かせるとは……流石は精霊だな。自分勝手で我侭な精霊だ。

 まあ良いか。久しぶりに料理を作りたい気分になった。ランドの爺さんと一緒に料理でもするか。

 ラスカル家の台所に食材があればいいけど。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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