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50話・お嬢ちゃんとおじさんと

「とっりゃあああああああ」


薄暗い迷路、鍛えられた鋼の如き堅い石壁に囲まれ魔物に囲まれる中、たなびく炎の髪を振り乱しこの上なく楽しいというように笑いながら、フールドラはペシュカドを振るう。

剣を飾り立てる金と赤、そして刀身の銀の残光が向かう先は魔物だ。

スケルトンやゾンビ、グールといった死者系の魔物が、迷路の角から水か空気のように次々と現れては、フールドラによって一刀のもとに伏せられている。

その様はまるで真っ赤に炎を巻き上げて荒れ狂う嵐がゆっくりと迷宮の奥へと目指し蹂躙していっているようで、近づいた先から斬られ動きの邪魔にならないよう壁際まで吹き飛ばされ山になるまでの流れは、実行者が疲れと力の限界がある生き物であろうとは思えなく天災と見えるのは人間の、いや少なくとも力の弱い者には当然のことだろう。


「……っふう、一旦打ち止めかな?手応えはないけど、数は多いから楽しいね!」

「お、おう……」

「魔族って、こんなに強いんですか……」

「おじさん勇者よりすごい」

「立場ないなあ」


とりあえず、迫り来る魔物の群れを全て排除し終わると、汗ひとつないが気分的に拭う真似をして辺りを見渡すと、思ったより酷い有様になっていて辟易する。

動く骸骨、スケルトンの体を支える魔力が無くなったことで、バラバラになった白いソレが散らばり、ゾンビとグールの腐った体液と肉片が壁と床にへばり付き、生き物の体内に迷い込んでいるかのように悪趣味なデコレーションとなっているのだ。

見栄えのしない地味な景色から一転、死臭と腐臭を撒き散らす地獄と化してしまったら……。


グキュルルルルゥゥウウゥ


「お腹減ってきたなあ」


生存本能としてお腹が減ってきてしまう。

他の4人はフールドラを信じられないものを見るような目を向けてくるが、仕方がない。

戦場では過剰なくらいエネルギー変換が高くなければ動き続けられなくなってしまうし、それなりに動いた。

なにより、今日はまだ2回しか食事をしていないし、肉の匂いが鼻をくすぐってくるのだ、不可抗力とかそんな感じのアレのせいだ。


「まあ……少し休憩するか、ここじゃなんだし少し戻ったところでな」

「賛成」


その空腹度合いをわかってくれたのか、勇者・ロウことおじさんが話に乗ってくれて、単純に疲労が溜まっていたレブラルが同意してくれる。

現在は大山脈を越えたところから森を抜け、街を2つ通り過ぎたところにあるなんとかという国のなんとかとい街のダンジョンとかいう場所に潜っている。

というのも、根無し草の冒険者であるロウたちが食べ物を食べるには、狩りをするか買い物をするしかないのだが、街の中に入ってしまったからには狩りができる場所まで出向くことは時間的に無理なので、こうしてお金を稼いでいるというわけだ。


(……まあ、どうやってお金を稼いでるのかわからないし、どれくらい稼げてるのかもわからないけど)


「しっかし、お嬢ちゃん、えらく強いな」

「そうですね、最強のDランクじゃないですかね」

「んぇ!?ん~、そうかな?」


ぼんやりと、街で食べた串焼きはいくらだったかなと考えていたら、ローバストとオプティムが話を振ってくるが、よく聞いてなかったので生返事しか返せない。

最低限の身分を証明できるようにと冒険者とかいうのになったけど、正直そんなものよりもこのダンジョンから出たら街でなにを食べようかということのほうが大切だ。

ロウは勇者だというのにお金の殆どを子供に渡して旅をしているから持ち合わせはあまりなく、3人もそれぞれ自分の装備の点検や補填、新調にお金がかかるとかであまりお金がないらしい。

ここは自分で自分が食べる分を稼がなければ、餓死してしまう。

妖精達の輪冠世界ア・ミッドサマー・ナイツ・ドリーム〉ではあまり仕事をするのは好きじゃなかったが、こうして目の前に現れる敵を倒していくだけでいいという仕事なら、狩りと違い少々回りくどいが楽しくて大歓迎だ。


「そうだぜ!やろうと思えばすぐにAランクにいけるかもな」

「その、ランクってやつがイマイチよくわからないんだけど」

「冒険者になる時に教えてもらったじゃないですか……。

身分証も、できればなくさないでくださいね?登録されたら再発行はできますが、相応にお金がかかってしまうので」

「こんな板っきれがねえ~」


13階級なら分かるけど、なにランクと言われてもピンと来ないので覚えづらい。

なにかよく分からない説明も受けたが、全部聞き流してしまっていたので、ただ冒険者になればダンジョンへ潜って戦うことができて、ついでにお金も稼げて美味しいご飯が食べれるという、おじさんの要約がなければここへ来ることもなかっただろう。

フールドラは、ただ単に面白そうな人間の街を見て回りたかっただけの理由で4人に付いてきたのだが、簡単な問題ではなかったというわけだ。

いや、簡単な問題はあったのだが、当たり前すぎて思いつきもしなかった。

動けば腹が減るし、腹が減れば食べなければならない。

人間の間では、それはもっぱらお金がなければ成り立たなくて、お金を稼ぐには何かしらの手段を講じなければならないということだ。


フールドラは世の世知辛さに呆れつつも、森の中を出歩けば見つかるような木片を眺めながら、一緒に出した林檎を齧る。

甘酸っぱい果肉がシャクシャクと葉と舌の上で踊るのが心地いい。

お金がかかるということは、その分の食べ物に値する価値のものだろうに、全くそんな感じがしない。

種もガリガリと、芯も残らず腹の中に収めると、これと肉や果物が交換できればすぐにしちゃうんだけどなあ、と心の中で呟き、そういえばと気になることが生まれる。


「それにしても、お金って今どれくらい稼げたの?」

「それは……まだわからないですね」

「えぇ~」


多分、今一番重要なことだろう。

なにせ、そのお金次第で自分が食べるご飯のグレードが変わってくるのだから。

なんだか心配事が食いしん坊のソレみたいになっているが、生命線を気にしたり確保するのは当然のことなので、断じて食い意地が張っているなどではない。


死屍累々の場所から2つ角を戻って離れた場所に腰を下ろすと、身分証でありギルド証の板切れを荷袋のなかにしまって、代わりに食料を取り出しながらオプティムにブーたれる。

目標がなければどれくらい頑張ればいいのかわからないのだから当然だが、おじさんが金属でできた丸い水筒に口をつけながら答えてくれる。


「それはな、換金できるものの確認してないからだよ」

「換金?」

「そう、アンデッドの換金部位はもっぱら、体中に巡らない魔力が結晶になって出来た魔石なんだけど、状態と質でどれくらいのお金になるかわからないんだよ」


ゴブリンなど肉をもって生きている魔物は体内に魔石を作ることはなく、魔石を精製している魔物は対処の仕方を知らなければかなり厄介であり、手に入れるのは相応のランクをもった冒険者でなければ難しいが、その用途の広さから需要は高く受け取りを拒否されるということが無いので、倒せば倒した分だけ安定した収入を得ることができるのだという。

商品価値とか値崩れとかの説明は右から左に受け流したけど、要はお金――貨幣みたいに値段が安定して、純粋にモノとしての信頼もあるけど、お金に銅貨とか金貨の違いがあるように魔石にもランクがあるのだとか。

お金と違うのは、一目見ただけでどれくらいの価値かわかりづらいから、ギルドの鑑定士に見てもらわなきゃいけないくらいだけど、だからこそ鑑定士じゃないオプティムには詳しい内約はわからないのだそうだ。

魔石は内包魔力量がどうだとか、大きさとかの基準でわかりづらいけど、普通に魔獣の骨の鑑定くらいなら出来ますよと周囲の灰色から浮いた森林迷彩の細い胸を僅かに反らす。

なんだか誇らしげな様子だったので、凄いことなんだろうなと拍手してあげると、照れ臭そうに困ったような笑いを浮かべる。


「なるほど……ごめんね、オプ」

「いえ、いいですよ。

ちゃんと言ってなかったですしね」

「そうそう、お嬢ちゃんに任せっきりにしないで説明する時間も作ればよかったな。

でもま、魔石回収しておくからお嬢ちゃんはゆっくり食ってな」


言われればなるほどと納得できる。

フールドラも戦闘以外ではからきしだし、専門外のことを期待されても困るというものだ。

オプティムも、そんな的外れなことを聞かれて勝手に落胆されても何を勝手にいう具合に苛々くるだろうが、そんなことはおくびにも出さずに笑いを引っ込めて困ったような顔をしている。

もっと謝ったほうがいいかと口を開けかけると、ローバストがオプティムとフールドラの頭をグシグシと撫で回し片方を連れて行ってしまう。

ハッハッハー、と高笑いを後に残してそそくさと鉄臭い角へと曲がっていく2人を呆気にとられながら見送ると、


「もしかして、避けられちゃった?」


そんな言葉が出てしまう。

機嫌を損ねたから、これ以上話したくないなと逃げられてしまったのかなと。


「いや、フールドラが強すぎて嬉しいやら困るやらなんだろ」

「んがんが、もんで困るの?」

「フールドラはその……魔族だからな、戦う可能性を考えてるんだと思うよ」


荷袋から取り出した食料――細長い堅焼きのパンに具を盛りだくさんに詰めたBLTサンドイッチにかぶりつくと、おじさんがよくわからないことを言ってくる。

フールドラがオプティムに言った言葉となんの関係があるのかわからないが、嬉しいも困るもないと思うんだけどと聞いてみると、意外な答えが返ってきて一瞬思考が止まる。


焼いてから時間がたっているが、香ばしい小麦の香りと少ししんなりしてしまっているがパリパリの皮のパンが美味しい。

もっちりとしている生地を噛み切れば、最初に口の中で主張してきたのはトマト。

瑞々しい果肉と真っ赤で酸味のある汁を溢れさせ、ベーコンの塩気と香辛料の香り、肉の脂と旨みを乗せてやってくる。

さらに咀嚼していけば、レタスのシャクシャクとした歯ごたえがパンで疲れる口の中を楽しませてくれて、トマトと共になってベーコンの少し濃い味をちょうどいいものにしてくれていく。

ひと噛み、ふた噛みしていく度に口の中で味が馴染んでいき、次へ次へと舌が胃がせがんでくる。


ハッとする。

思考は停止しても、ものを食べる口は止まらないのは本能ゆえのことで仕方がないもの……ではなく、おじさんたちは自分と戦うかもしれない可能性も考えていて、どう接したらいいのか未だ掴めていないということだが、魔族としては、いやディセンダント・オーブラの生き物は家族であろうと仲間であろうと隙あらば殺そうとするものも少なくないので、なんでこんなことで接し方を迷っているのかわからないが、人間はそんなものなんだなと適当に納得してみる。


「スケルトンとかゾンビはともかく、グールも一脚だからな」

「ふーん、そんなものなのかー」

「あと、単純に見なきゃいけない魔石の数が多すぎる」


人間とは基準が違いすぎて、色々細かいことに目を向けるとそれが顕著になってくる。

正直、ゾンビもグールも名の前に付く称号持ちでない限り違いなぞ殆どわからないくらいなので、おじさんの言う話の重要性もボヤけて首を傾げながらBLTの三重奏を楽しむしかできない。


「いっぱい来たからね、張り切ったよ!」

「凄かったよ」

「えへへ~、ありがとね!それにしてもここの食べ物は美味しいね、セルヴァのほどじゃないけど」


魔石の数については、単純に向かってきた敵の数なのでフールドラは知ったことではない。

むしろ刈り取った命の数だと思って得意げになる。

サンドイッチの残りを全て口の中に詰め込むと、胸を反らして満面の笑みを浮かべる。

久しぶりに数ある敵と戦えたことで、今はかなり気分がいいのだ。

純粋なレブラルの眼差しを受けて、ついつい頬が緩んでしまい食が進む。

荷袋から干し肉を出してモニュモニュと食べていく。

香辛料の香りが口から上に突き抜けていき、滲む塩辛さをおじさんから受け取った水筒で洗い流すと、量の割には中々の満足感を与えてくれる。


「セルヴァ?」

「うん、メイドのセルヴァ、なんだかんだ言うけど色々作ってくれるご飯がおいしいんだ」


セルヴァの美味しい料理が恋しくもなるけど、人間の食べ物もこれはこれで美味しいからホクホクする。

まあ、お金がなければ食べられないというのが少し不便でもあるけど、フールドラの感覚では勝手に湧き出てくるようなものなので、それほど拘束感はなかったりする。


「ほぉ……メイドなんているのか」

「ん?そりゃあ――ってこれは言っちゃ駄目なのかな?ごめんね、やっぱさっきの無しで」


と、おじさんが妙に食いついてくるが、すんでのところで我に返る。

あんまり〈妖精達の輪冠世界ア・ミッドサマー・ナイツ・ドリーム〉の話をしちゃうと、怒られるどころか帰ることもできなくなってしまうかもしれない。

誤魔化すように手についたパン屑を払い落としながら立ち上がると、いざぁと2人が魔石回収へと向かった現場へ向かう。


「無しって……」

「まあまあ、お腹もちょっと膨れたし、行こうよ」

「あ!ちょっ、荷物は持とうか!?」

「おじさん早く」

「俺、一応これでも勇者なんだけど……」


荷袋とかは持つのが面倒くさかったので手ぶらのまま、レブラルと一緒に手をつないで。

なんだかんだでおじさんは面倒見が良くて、3人分の荷物を担いで付いて来てくれるという信頼があり、実際その通りにしてくれたので気にせず進む。

レブラルもなんだかノリノリで、一緒になって両手を開いて迷宮の壁に指をつけながら。


迷宮――〈不朽迷宮(ふきゅうめいきゅう)〉は基本的に3mほどの幅の通路の繋がりと交わりによって出来ている。

何人か並んで歩くこともできるが、武器を振るうことを考えると2人が並んで歩くのが限度という狭さだろう。

そんな壁が同じく3mほどの高さまで続いて天井にぶつかっているので、かなりというわけではないが少し閉塞感があるので、空気は問題なく巡っていて息苦しいものではないが、四方の壁に押し付けられて精神的に疲れるものがある。


爪でカリカリと壁を削りながら真っ赤な自分の足跡を辿って行くと、


「っと、どう?」

「おー、かなり集まってるぞ」

「損傷が激しすぎたり、小さすぎて価値が低い物を避けても、袋いっぱいですからね。

このまま帰っても、そうですね……銀貨6,7枚くらいになりそうですよ」


迷宮に入ったときはペシャンコだった荷袋をパンパンにしながら骨と腐肉の山を掻き分けている2人がいた。

声をかけると腐った体液に塗れたローバストが笑いながら手を振って寄ってくると、レブラルが自分を盾にしてくる。

「臭い」とのことだけど、こちらとしては気にならない程度だったので、後ろにしがみついているレブラルを引きずりながら「く、臭いー」腰に手を当てゴキゴキと背を鳴らしているオプティムへと近づくと、これまたいい笑顔で出迎えてくれる。

額に浮かんだ汗と腐った体液を拭いながら、膨れている荷袋を見てお金に換算すると……と教えてくれる。

詳しくは分からないが、大体の見込みくらいなら大雑把ながらできるらしい。

といっても、持ち込んだ時の値段を当てはめているだけだから胸を張れたものではないけどね、と苦笑するけど、それでも十分にすごいと思う。

だけど、


「それは多いの?少ないの?」

「ここは魔石の名産地ですからね、必然に売値は低くなりますけど量が量ですから、ひと月は――いえ、半月?一週間?ま、まあ……結構な額ですよ」

「お嬢ちゃんは沢山食うからなあ、それでもかなり食えるぜ?」


銀貨というのが6つぽっちというのは、戦闘の対価として釣り合っているのかどうかが分からないので反応のしようがないので、素直に聞いてみる。

と、よくわからないがそこそこ稼げたらしい。

だんだん価値が下がっていくような言い方なのが引っかかるが、一週間分の食料がこれだけで買えてしまえるなんて素晴らしいと思う。

今は階層構造になっている迷宮の地下の3階にいるのだけど、地上に出されている出店の数々を思い浮かべてヨダレが止まらない。


「おー!串焼き何本くらいかなッ!」

「あん?そりゃあ……沢山だ!」

「沢山か!やった!」

「…………」


沢山と聞いては突っ立てはいられない。

2人の手伝いとして、あーうーと物言わぬゾンビたちの中に入って魔石の回収の手伝いをする。

基本的に、魔石は心臓のある場所にできたり頭蓋の中にできたりするので、手早く開いてポイポイっと荷袋の中へと放り込んでいく。

さすがに、適当に投げて地面に落ちたりしたくらいで壊れたり欠けたりするほど脆くはないので、割とぞんざいになってしまうが、その分早く終わった。

レブラルもスケルトン中心にだが手伝ってくれて、数えてみたら36個の魔石が回収できてホクホクだ。

これでたくさん串焼きを食べられるし、他にも南瓜のスープやキノコ包みのパイなども食べられるなあと愉快な妄想が止まらない。


「で、どうすんだ?オプティムの言うようにもう帰ってもいいと思うぞ、野宿も懲り懲りだしな」

「んー、まだまだやる気だったけど……そうだね、上に戻んないとご飯食べられないし、戻ろうかな」

「いや、食料ならまだ――ってもう全部食ったのか!?持ってきたもの全部?」


浸っていた妄想の中で、頭大のブリオッシュにかぶりついていたところでローバストから声がかかる。

フールドラとしては、歯ごたえのないゾンビたちではまだまだ戦い足りなく、逆に久しぶりの多数戦闘に滾っていたのだが、たしかに迷宮から出なければ食べ物にありつけないので、少し迷ったが戻ることにする。

食べようと思えば、ローバストたちの荷物からちょろまかしてしまってもよかったが、それも大した量にはならないだろうしそこまでして粘る必要もない。

緊急時の為に2日分の食料はダンジョンに潜る際に余分に持っていくとは聞いたけど、元々少し見るだけのつもりで入ったのだから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。


「ん?んー、おいしかったよ?さ、さあ行こう!ご飯のもとへッ」

「おい!わかったから先走るな」


特に果実系、洋梨の蜜漬けなどは〈妖精達の輪冠世界ア・ミッドサマー・ナイツ・ドリーム〉では食べられない代物なので、かなり嬉しかった。

思わず迷宮を降りる道中で2つ分食べ尽くしてしまうほどのとろける様な甘さは今も忘れられないので、レブラルの手を取って「フールドラ、臭いよ……」気にせず来た道を戻っていく。

おじさんは3人分の荷物を背負って行ったり来たりでげんなりしているけど、同意してくれるのか文句も言わずに付いて来てくれる。

だけど、他人の荷物を持たされている現状に対しては文句を言ってもいいんじゃないかなあ、と思うけど、お前がそれを言うなと突っ込まれそうだったので黙っておく。


「大丈夫だよー、子供じゃないんだから」

「……お嬢ちゃん、なんさ――」

「ローバストさん、女性に年齢を聞くのは失礼ですよ」


魔族であり、ローバストの何倍も生きている自分にいまさら年齢を気にする気持ちなんてないのだが、実は100を超えてから自分の歳を数えるのが億劫になって、今何歳なのかわからないので助かった。

こんなやり取りをしていると、モルレウスたちのことを思い出しておかしくなってくる。


「あっははははは!楽しいなあ、人間もローみたいのばっかだといいんだけどね」

「魔族も、フールドラみたいに面白いやつばっかなら楽しいんだがな」

「まあ、色んな奴がいるからね~」

「その通りだけど、お嬢ちゃんに諭されるように言われるのはなんか違うと思う」

「あれ?これ馬鹿にしてる?馬鹿にしてるよね?」

「してないしてない」


魔族はその種族で大体の性格というか、性質のようなものが似通ってくるけど、人間は同じ種族の中でも個性がバラバラ過ぎて面白い。

鉄なのに柔らかかったり、すぐ溶けてしまったりするような感じだ。

自分を侮ってきた者は大体を肉塊か灰にしてきたけど、ローバストならば付き合いは浅いがなんだかエミルやセルヴァのように許せるのが不思議でもある。

まあ、あまり力を込めすぎると壊れてしまいそうでこわいが、こうして言い合うのはあっちではあまりできないので、ついついノってくる。


「そういえば、こんなに歩いてるのに他の人間と合わないね」

「入場制限かかるからな、じゃないとごった返していらん怪我するから」

「なる~」


ノってくると、どうでもいいことにまで気が回ったりする。

冒険者というのはそんなに数が少ないのかな?となんとなくだけど思ったのだが、違ったらしい。

まあ、3m幅の迷路に何人も野営道具やら武器やらを持った人間が詰めかけて行ったら、敵に詰められた際に同士打ちでマトモに戦えなくなるのは火を見るのよりも明らかなので当然といえば当然のことなのだろう。


「っと外だね、うあ……もう暗くなってる」

「戻るのにも時間かかるから」


そして、そんなことを話しているうちに迷宮の出口が見えてくる。

階段を幾つか上がってここまで来てすぐにそれだとわかったのは、漏れてくる松明の灯りと街の喧騒が触ったからだろう。

ここ、〈不朽迷宮(ふきゅうめいきゅう)〉は街の中に、いや最初にダンジョンが出来てその周りに人が集まって出来た街だそうで、一歩出なくてもかなり賑やかな場所となっている。

ダンジョンから魔物がひょっこり顔を出してきたりしたら大惨事にならないのかな?とも思うが、まあ何かしらで上手くやっているのかなと心の中で適当に頷いておく。


「ふむ~、〈不朽迷宮(ふきゅうめいきゅう)〉って予想以上にめんどくさそうなとこだね」

「しかも、月が変わるごとに構造も変わっていくんだぜ、攻略は無理だろこれ」


ダンジョンの出入り口を守っている衛兵さんに軽く挨拶して、カバの口のように空いている〈不朽迷宮(ふきゅうめいきゅう)〉への地下階段を囲んでいる壁をくぐり抜けると、ようやっと一息つける。

壁によってくぐもっていた喧騒も今では耳が痛いほどに聞こえ、話すときの声のボリュームも自然大きくなる。


潜るだけなら〈不朽迷宮(ふきゅうめいきゅう)〉はダンジョンの中では難度が低い方らしい。

しかし、攻略しようと取り組もうものならその難度は一気に何倍、何十倍にも跳ね上がる。

なぜなら、不朽と呼ばれるように壁を壊して迷宮のショートカットをしようにも、半端な攻撃では傷は付けられても穴を空けることはできず、そして血が固まりカサブタとなって傷が治るように、迷宮に付けられた傷は小さいものは一瞬で大きいものでも1分以内には跡形もなく消え去ってしまうという特性があるそうで、そのせいでマーキングをするにも苦労をする始末だと。

そしてなによりダンジョンの深さ。


最深部には魔素溜りがある。

なので、自然に魔素の影響が強く出てより素晴らしい鉱石、より効果が強い薬草、より強い魔物と出会える為に目指すのだが、往復のことを考えなければいけないのであまり無茶な行軍をしようものならば、目的地にたどり着けたとて帰りの道で衰弱したところを魔物に襲われるか、食料が尽き飢え死にするか、終わり方のバリエーションは数あれど、同じ結末になるのは目に見えており、無謀者とてしない愚業になる。

かといって慎重に下りていくにも深さが尋常ではなく、しかも階を重ねるごとに階層の広さが大きくなっていくという呆れた構造と、地道に積み重ねるマッピングを嘲笑うかのように一定の間隔で姿を変える有り様は、よほどの物好き以外の攻略の意志を吹き飛ばすには十分だった。


「私ならあれくらいできそうだけどね~」

「でも、ご飯を持っていける量にも限りはありますよ?」

「やっぱり無理かな!」


フールドラも、口にできる魔物がいないダンジョンで住むように攻略するのは辛い。

やろうと思えば1年くらいは飲み食いせずに空気中の魔素を取り込むだけで生きることもできるだろうが、そんなことは絶対にしたくない。

それこそ、持って歩けないような食料が必要となれば他の冒険者たちと同じように端からギブアップする。


「今まで何階くらいまで下りれたの?」

「最深記録は、どこかのAランクパーティーが打ち立てた42階でしたね」

「そんなに深いのかぁ……」

「これでも魔素溜りに到達できないんですからね、異常ですよ」


何日ほどかかったのか分からないが、それがすごいというのはなんとなくわかる。

地下3階から出てくるのにも半日以上使ったのだ、それが倍々と積み重なっていくとしたらどんな覚悟をもって取り組めば実行しうるのか想像もできない。

というか、そこまでして最深部へと辿り着けないというのにもショックだ。


「む~、まあ、気にしても仕方がないか!ご飯食べに行こうッ」

「元も子もねぇ……」

「いいじゃないですか、どこへ行きます?ぼくが探しておいたお店にでも行きますか?」


ただ、現段階での重要度は圧倒的にダンジョン<食べ物となっているので、余計なことを考えずに食欲の赴くまま歩を進めようとすると、オプティムがそこに指針を加えてくれる。

どこか出店を漁ろうと思っていたのだけど、それよりも腰を下ろしたほうが食う飯は美味かろうと、


「それでいいね、俺も飯屋は詳しくないし。

――皆もいいよね?」

「たくさん食べられるならどこでもいいよ~」

「私も別にどこでも」

「酒が美味いとこだといいんだが」

「ふふ、お酒の保証はしますよ」


おじさんもローバストも、レブラルも同意する。

もちろん、フールドラにも断る理由なぞありはしないので賛成すると、オプティムを先頭に人の波を掻き分けていく。

ダンジョン周りは武器や防具を売ったり鍛えたり直したりする店に囲まれ、さらに輪を描くように各種ギルド会館、宿屋から薬、食料を取り扱う諸々の店、街壁といった具合に、本当にダンジョンを中心として出来上がり、街のいたるところには古い街壁の名残なども残っていてフラフラと視線を漂わせるだけでも面白い。


今日は遅いからと時間がかかる魔石の鑑定と売却は次の日に後回しにして、真っ直ぐに向かうのは宿屋が建ち並ぶ一角。

飯だけ、酒だけを店もあることはあるが、宿屋と兼業しているところも少なくないらしい。

オプティムが向かう先もそのような形態をとる店で、胃袋を掴んで宿泊客を引っ張っていくと知る人ぞ知る店なのだそうだ。

そして、ご多分に漏れずおじさんパーティーもそこに泊まるらしい。

泊まるといってすんなり泊まれるようなとこなのかな?とも疑問が湧いたが、オプティムがすごくいい笑顔で実際にその疑問を口にしたローバストを黙殺してたので、フールドラも黙っておく。

と、着いた。

看板には「粟の水亭」と掲げられており、白い色が特徴的なレンガで組まれた綺麗な3階建ての建物であり、1階からは騒がしくはないが楽しそうな話し声や笑い声が窓から漏れてきて、その上からは暖かい蝋燭の光が静かに人の気配を教えてくれる。


「って、それにしてもこれは……頼みすぎじゃね?本当に食えんのか?」

「えー、セルヴァは普通にこれくらい作ってくれたよ」


そんな中に入り、注文を受付に来た男性からもらったメニューをダッと見てここからここまでと注文したものがズラズラとテーブルの上に置かれていくのを見て、ローバストが口の端を引きつらせながら聞いてくるが、この人数でなにを言っているのだろうと思う。

6人がけのテーブル2つ分の料理なんて普通に食べられるだろうに、体を使うんだから少食はダメだよ!とお姉さん風を吹かせて注意してあげると、モリモリと自分の分を取るついでに取り皿に載せていってやる。


「まだ見ぬメイドさん、どんだけだよ……」

「専属さんだったのかな?」

「いや、セルヴァはエミル様のメイドだけど、皆の食事も用意してたりしてるよ」

「皆、か……」


茹で焼いて薄く切った牛肉の上に酢と根野菜とハーブが散らされた料理をフォークでガバッと掻き込みモシャモシャと食べる。

うむ、酸っぱくて美味い。

蒸したパンを手づかみで口に放り込み、モッシュモッシュと咀嚼する。

もっちりした生地の中に茹でた卵と野菜と肉が入っていて、美味い。

なんだか甘くて不思議な風味がする米をスプーンで含む、これはこれで美味い。

鶏や川魚の揚げ物をサックゥと食べていく。

なにかわからないけど、下味がついていて美味い。

丸いパンをナイフで切ってモニュモニュと食べる。

焼きたてでないが、そんなことは関係なしに素朴な味がなんかいい。

口の中の水分を持っていかれるので、間髪入れずにスープを流し込む。

コンソメベースの中に、ジャガイモやらニンジンやら豆やらなにやらがゴロゴロ入っていて美味い。


「どれくらいの人数であの小屋ですんでたんだ?」


順調に並べられてきた皿を平らげていくと、話す余裕も出てきたのだろう、おじさんがビールをグビリと煽ぎ聞いてくる。

フールドラもお酒は飲めるが、ビールは飲んだあとにお腹の中からグワァっと臭いが立ち上ってくるのがいやなので、なにより苦いので好きじゃない。


「ん~、たくさん?数えたことないや、エミル様なら知ってるかもしれないけど」

「どういうことだ……」

「フールドラはいつもなにして過ごしてたの?」

「んとね――」


その代わりと真っ赤なワインを舐めるように飲んでいると、舌も動きやすくなって色々と話す。

ディセンダント・オーブラや日常の事、エミルの詳しい話や〈妖精達の輪冠世界ア・ミッドサマー・ナイツ・ドリーム〉のことはぼかしておいて、代わりにダンジョンや人間、冒険者の話を聞けた。

おじさんたちに付いてきてから少ししたら、もしかしてセルヴァに少しじゃなく、ものすごく怒られるかもしれないと思い至ったけど、こんな感じの話をたくさん聞けて持って帰れるなら文句は少なくなるだろうと思うと少しだけホッとできる。

ついでに美味しいものも食べられるなら万々歳だ。

ワインの甘さと自分の天才さに酔いしれながら、夜は更けていく。

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