009⚫️面接官の合否
こいつ、なんだか雰囲気が違うな。
そうだね。ヒトであってヒトでない、そんなオーラを持っている。
いや、こいつだよ、あの夕陽の浜辺の激闘の!
あっ、だからヤハチが話を通してきたっていうことか?
それだけじゃないぞ!ラベンダー伯からの推薦書だ!見ろよ!
うわっ!これって、合格を出せってことだよな?
うーん、大丈夫か?強さがすべて、じゃないのか?
じゃあ、ともかく面接、始めよう・・・。
「では、お名前をどうぞ。」
「はい!ハバタキと言います!」
「元気があってよろしい!あなたは、なぜ公国軍に入隊を希望していますか?」
「わたしは、力が全てだと思っていました。ですが、それは違っていました。」
「どう違っていたの?」
「力のあるものが、その力を使って弱いものを支配する、っておかしいんです。」
「でも、動物なんか、弱肉強食ではありませんか?」
「そう思っていましたが、違います。例えば・・・」
’自然界は弱肉強食である’・・・この言葉は、あまりにも頻繁に、そしてあまりにも安易に使われすぎてはいないだろうか。まるでそれが、森羅万象を語り尽くす唯一の真理であるかのように。強者が弱者を食らい、力ある者だけが生き残る。それは確かに、自然の厳しさを象徴する一面だ。しかし、そこに目を奪われすぎると、私たちは自然界のもう一つの、より豊かな真実を見失ってしまう。
共生の物語
私たちの思考に深く根を下ろした弱肉強食という概念から、少しだけ視野を広げてみよう。すると、驚くほど多くの共生の物語が息づいていることに気づく。例えば、ハチと花の関係はあまりに有名だ。ハチは花の蜜を吸って自らの命を繋ぎ、花はハチが運んでくれる花粉によって子孫を残す。どちらか一方が他方を一方的に搾取するのではなく、互いが互いの存在を必要とし、支え合っているのだ。
この共生のネットワークは、私たちの目には見えにくい場所でも広がっている。森の土の中、植物の根に共生する菌類は、植物が吸収しにくい水分や栄養分を集める手助けをする。その見返りに、菌類は植物が光合成で作った糖分を受け取る。この地下に張り巡らされた壮大なネットワークこそが、森全体の健全な成長を支えている。
競争と協力のタペストリー
弱肉強食が個体間の激しい競争を語る言葉だとすれば、共生は、より大きな生態系全体の安定と繁栄を語る言葉だ。自然界は、弱肉強食の「競争」という力強い筆致と、共生という「協力」の繊細な色彩の両方を使って、この複雑なタペストリーを織りなしている。
どちらか一方だけを真理とすることは、この世界の豊かさを見過ごすことにつながる。私たちは、弱肉強食という単純な力学から一歩踏み出し、その背後にある複雑で、そして美しい共生のネットワークに目を向けるべきだろう。そうすることで、この世界に対する私たちの認識は、より深く、より豊かになるはずだ。
「だから、わたしは競争から共生へと変化して行きたいんです。」
どうする?
いや、そのとおりだけど。
これで不合格、ってなるとどうなるのよ?
ラベンダー伯、けっこうねっちこいぞ。いやな圧力、くるんじゃないか?
いや、ここはそんなこと、考えてはいけません。
イワシ・ジロー、君は不合格だというのか?
いえ、合格だと思います。問題は、わたしたちが伯の依頼を忖度しないということです。
でもなあ・・・。
これは、わたしたちへの伯の審査だと思います。
どういうことだ、ジロー?
公国の領主であろうと、王国の主であろうと、誰かの圧力で人選するものではありません。伯は、この面接を通して、わたしたちを試しているのではないでしょうか?ラベンダー伯が試しているのは、ハバタキではなく我々自身の判断力と倫理ではないでしょうか。
うわっ、じゃあ合否判定を受けているのは、実はわたしたちなのか?!
いかん、いかん!初心に帰らないと。うーん、なるほどなあ。
だが、ジロー、君はどうしてそんなに自信を持って言えるんだ?
だって、わたしたちは、この世界線でも互いに共生しているんですから。
なっるほどお!!




