066●老爺
村人たちは皆、無表情で口数が少ない。
大神島の連中もそうだったよな。
全国にはもっと陽気な村も、いっぱいあるんだぞ。
イヨの両親だけは礼を述べたが、その言葉にもどこかぎこちなさが残る。
何かが、引っかかる。
村を後にしようとするが、足が自然と止まる。
空気が重い。何かを見落としている気がする。ジンが言う。
「アキラさん、当面、次の任務もないですから、もう少し、このあたりを見ていきませんか。ちょっと気になることがあります。」
「うん、わたしも。アキラ、そうしようよ。」
エイミーの口調が、珍しくまじめだ。
「あれか?あの神社のことか?」
「ココア、データ検索してくれ。日ノ御子神社だ。」
「はい、ジンさん!」
日ノ御子神社。起源が古い。
サルのように木に登るこどもたちだな。
イヌのような坊さんが来たからだよ。
これは日ノ御子神社を訪れた平安時代末期の高僧が、
境内で遊ぶ子どもたちをからかった時に、逆にやりこめられた、
というエピソードである。
祭神は日の女神。
岩戸に隠れて、世界が闇に包まれたという伝承が伝わる地の1つが此処だ。
だが、それ以上はわからない。
おまけに村には宿泊施設が見当たらない。
野宿か?いくら俺の車がいいといっても、男女4人で車中泊、というのは困ったな。
日のあるうちに、ともかく歩き回ることにする。
例によって、俺とココア、ジンとエイミーという組み合わせだ。
ジンたちに神社周辺を任せ、俺たちは、あてもなく観光客を装い歩く。
狼も歩けば棒にあたるからな。
だが、目立つよな。こんなところに観光客、来ないからな。
村人は少ないが、それでも何人かとすれ違う。
皆、一様に押し黙り、視線を避ける。
新月期を過ぎたばかりでも狼の嗅覚なら、
どれだけ警戒されているか、まるわかりだ。
すれ違う中に、俺の直感を刺激するものがいた!
こいつは他の村人とちがう。老いた男だ。だが、この気配は・・・。
視線が合う。老爺が笑う。不敵な笑いだ。
口元から覗く鋭い犬歯が、獣の気配を放っている。
「その女、ヒトではないな。・・・お前もそうだな。」
「爺さん、鋭いな。俺はオオガミ アキラ。こっちはココアだ。」
「オオガミ、か。儂は犬上 直人。イヌガミとオオガミか。奇妙な出会いだな。」
着古したジャージに、汚れたスニーカー。
だが、その体からは常人ではない何かが感じられた。




