第8話「強力魔法草を求めて」
第2章「師匠は自宅療養生活中」
第8話「強力魔法草を求めて」
気がついた時には、極寒の山で、猛吹雪の中を歩いていた。
もう少し歩けば。もう少し歩けば……。薄く光る小屋にたどり着く。
ナズナに身体を支配されて、身体はいうことがきかず、服装まで操られていた。完全に防寒着を着て、ゴーグルもつけて。フル装備をしても、物凄い勢いで向かってくる吹雪のせいで寒い。
頭は物凄くクラクラするし。瞬間移動する距離が遠ければ遠いほど、目眩や頭痛が酷くなるのだ。
そんな状態なのにもうかれこれ30分、いや、1時間以上も歩いている気がする。
だけど全然前に進められない。猛吹雪になるまでは順調だったが、本当に、最悪な天候だ。
響子様。寒いのでこれ以上はムリでございます。ご武運を。
小屋の灯りがかすかに見えてきた。という時に、ナズナから声が聞こえた。
ちょうど風の勢いが物凄く強くなる。吹き飛ばされそうになって、反射的に座り込んでしまった。
ナズナの操作魔法が溶けてガクッと力が抜けてしまっていたのだ。
あぁ、そういえば。時空中毒を解除させる強力魔法草を求めてきました。と。そう言えば、絶対にもらえるはずですから!
と、ナズナの声は聞こえた。
寒すぎて、しかも風がとても強くて、小屋まであと数十メートルという所なのに、全く進められなくなってしまった。
とにかく寒いのだ。
しかもここは響子が知っている限りだと、べニア連邦でもこんなにも寒くなる極寒の山はない。
世界がぐるんぐるんと目まぐるしく回っている感覚が強い事から、べニア連邦ではないのはほぼ確実。じゃあどこ?
それ以外にも、いろいろ考えてしまう。
本当にこんな所に1人できて良かったのだろうか。工房はナズナに任せて大丈夫なのか。そして無事に帰る事ができるのか……。
寒さはもっともっと深刻になっていく。
フル装備しているというのに、指の感覚がなくなってきた。脚も。
座っている響子はどんどん窮地に陥っていく。
こんな極寒な山で。
ただ1人……。
呼吸するのも辛くなり、やがて、意識も朦朧とし始めた。
誰かの声が、聞こえてくる。
「おーい。おーい?」
幻聴だろうか。
身体の感覚もなくなっていき、本格的に命の危険を感じ始めた。
だけど、もう無理だ。
ビュンビュンと吹く風はまだまだ勢いを増す。
「ねむ……い……」
「おーいー?」
もうムリ。
寒さと、急にきた猛烈な眠気に勝てそうにもない。
幻聴も感じるのだから、迎えがきっときたんだ。とか思いながら、倒れ込んで、そのまま深い眠りへと落ちてしまった。
けれど、聞こえてきた声は幻聴ではなかった。
数十メートル先だというのに、小屋から1人の老爺様がきてくれていた。
★
ポカポカとする、暖炉から火と炭の香りがして目が覚めた。
思わずハッとして飛び起きようとした。師匠の身がとても危ないのに、ゆっくり寝ていたらダメだと思ったからだった。
けれど、慌てて起きた事で猛烈な勢いで頭に何かとぶつかった。
まるでバッドで頭を殴られたような。
目を開けて何とぶつかったのか確認をすると、カプセルのような、強化ガラス張りの中にいる事に気がついた。
それにとんでもない事に気がつく。
隣のカプセルの中には人骨があった。
あまりにも絶するその光景に驚愕して叫んだ。
「いやああああああ!!!!」
その叫び声で突然ある人が現れた。
奥の部屋から現れたのは白髪の爺さんだった。シワだらけのメガネをする年寄りが近寄ってくるから、響子は恐怖を覚えて逃げ出したくなった。
ナズナにハメられた。
嫌な予感しかしない響子は逃げ場などないのに逃げようと必死だった。
けれど爺さんは乱れる女の子が前にいても、なにも動じることなく、カプセルを慣れた操作で開けた。だけど足を機械のアームで掴まれて動きを封じられる。
「何をするの!?」
「落ち着きなさい。なにもせんよ」
「だったら離してよ!」
「それはムリじゃな」
「意味わかんない!」
今度は手をアームで掴まれて、腰までも固定された。
それに今度は口に変な布をあてられた。
その途端に物凄い眠気に襲われから、この爺さんは普通じゃないと直ぐに感じた。
「な、にを……っ!」
「さぁ、試験スタートじゃな」
★
「っ!!!」
凄い嫌な予感がして目を覚ました瞬間に飛び起きる。けれど、またしても頭が何かと猛烈にぶつかり、またしても苦痛に悶える事になった。
こんな事、している場合じゃない。
直ぐにでも強力魔法草が欲しいというのに、爺さんとあれやこれやと付きまとわれてる場合じゃないんだ。
けれど、そんな願い通りになんてなる事はなく、響子は全く訳の分からない状況の中にまた放り込まれていた。
自分の身体が自分のではなくなっている。
男の身体付きになっていて、しかも、変な武器のようなのが直ぐ横にある。刃はないし鋭利な物でもない。柔らかい、何なのかも想像できない武器だった。
しかもまた同じカプセルの中にいる。
物凄い嫌な予感……というよりも、こんな状況にさせられて、平常心でいられる訳がない。しかも、さっき目にした隣の人骨までも同じ。
そんな、まさかだよね……。
とにもかくにも、男になってしまった響子はこの状況から逃げたい一心になる。解決策なんて何もわからないけど。
だけど、デジャブが起こる。
爺さんがまた現れたのだ。
嘘でしょ嘘でしょ!?
「ねぇ、これどういうつもりよ!?」
カプセルの中から盛大に叫ぶと、爺さんは笑いの表情を見せてきた。凄く薄気味の悪い顔だ。
ゾッとする。
「出してよ! 出せよ! ここから出せ!!!」
「失敗じゃな? やり直しじゃ」
「はぁ!? どういう……ちょ、ちょっとっ!?」
カプセル内に煙が入ってくる。
白い見た目の煙が足元からきて、それを吸ってしまったらダメだと直ぐに感じた。だけど、カプセルの内側からはどうしようも出来ない。
非常に焦る。そんな状態の中で更に追い討ちをかけてくる。
足元から奇妙な感触がのぼってくる。それはとてつもなく嫌で、全身に悪寒が走る。
同時に全身を拘束具で固定されて、頭の後ろからとんでもない物が視界に入ってきた。
口を開けようと機械というかアームが口の中に入りこんでこようとする。
硬く口を閉ざすが、何分も我慢などしていられない。
だけど口を開けたら終わりだ。
だけど、だけど……。お腹を伝って、ついにはソレは首をも上ってくる。
凄く嫌な感触。
それは、見たくも触りたくもない幼虫だった。
「い、いやだぁああああああああぁっ!!!!!」
激しく抵抗するが、幼虫はしっかりと身体に縛りついているから振り飛ばせない。
幼虫が口の中に入り、煙も吸い込んでしまい、響子は声に出した事のない悲鳴をあげながら、また意識を失った……。
★
「っは!!!」
また目が覚めるが、また同じ現象が起こってしまうのではと思って突然起き上がるのはやめた。
だけど直ぐに近くにある、さっきはあった意味のわからない武器を手にしようとした。が……。
「いやだぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!」
反射的に触ってしまったのは人骨。あろう事か、同じカプセル内にいて、その人骨は動き始めたのだ。
激しく抵抗する。人骨はへっへっへっと笑いながら響子に覆い被さってくる。どうせまたリスタートとか何かできるのなら、さっさと終わらせて! とも考える。
けれど、今回は白髪の爺さんが出てこない。
何か脱出するヒントがあるのではないかと周りを確認するが、何もない。武器もない。いつも腰に携える防衛用のナイフもない。
何も装備していない。
「いやだぁあああ、やぁめてぇええええ!!!!」
「へっへっへっへぇ、シャ、シャアアアアアっ!!!」
人骨が大きな蛇へと変わって、響子は声が壊れるくらいに大絶叫した。
ヌメヌメする気持ち悪い体液が足にまとわりついてくる。
人間の頭と同じくらいに大きい頭もあり、身体はとてつもなく大きい。そんな蛇が響子を包み込んでいき、身動きができなくなっていく。
「っ! あ、っ!」
ぎゅうっと締め付けられていく。
呼吸が辛くなり、口を開けて深呼吸しようとすると、蛇が直に目を見つめてくる。
こんな状態じゃあ、もうさすがに死を覚悟するしかない。
もうムリ。
そう思って目を閉じると……。
何か変な大きな音が聞こえて、身体に変な違和感を覚えた。
何が起きたのかさっぱりわからない。
猛烈な寒さにも襲われる。恐る恐る目を開けると……。
山頂にあった小屋は木っ端微塵になっていて、自分の身体が……。巨体になっていた。
もう巨人になる事はないと思っていた響子は、激しいショックを覚えた。
二度とこんな身体になりたくない。
激しい後悔と苦しみが押し寄せてきて、強い不安に押し潰されそうになる。
すると、どこからか現れた白髪の爺さんが問いかけてくる。
「お主のその力、何なのか、理解しておらんじゃろ?」
理解も何もない。
あの時、10年も前、気付かないうちに巨人にとなったのだから。
「わしにはわかる。神から授かりしその力と、巨人になれるその力。だが煮えたぎるその血は人間そのもの。矛盾こそが、この世の象徴じゃ」
全く意味がわからない。
だけどこの爺さんは、この世界の事の全部を知っているかのような話をしてくる。
「さぁ、願うのだ。願ってみよ。汝のその美しき力に眠る、願いを言うのじゃ」
「わ……たし、は……。し、しょ、う、を……、すくい、たい」
巨人の身体だと喋りにくい。けれど、心から願う強い気持ちを、そのまま口にした。
「世界、を、敵、に、し、ても、助け、たい」
「ならば、強く我の心に問うのじゃ。今一番に欲しい物を。今一番の気持ちを」
★
「お見事じゃったな」
声に導かれて意識を戻した。深い、深い、眠りから、目を覚ましたような感覚にも近い。
何が現実で何が夢もしく仮想の世界にいたのか。感覚があやふやになるような錯覚が強く、ぼんやりとして、考える気力も出ないくらいに。
爺さんは何も動けない響子をベッドから起こしてくれた。
物凄い倦怠感にも襲われている。何も動けないでいる様子を見て、そっとお茶を差し出して目を覚ますように促す。
目の前に差し出されても、それでも響子はうつろのままでいる。
あまりにも無反応で虚空を見つめているから、お茶を差し出すのをやめた。
代わりに、ペットボトルの水を渡そうとした。その前に。フタを開けて、白い粉薬を入れてかき混ぜた。
その白い粉薬はすぐに溶けて透明となり、響子は薬入りの水を渡されても何も気づかずにいる。
「ほら。これを飲みなさい」
それでも無反応。
こんなにも呆然とされたら介抱のしようにも困る。とにかく飲めと響子に指示をするのだが、それでも、動く気配すらも感じられない。
爺さんは非常に困惑するが、アレをやるしかない、と決心をした。
無防備で何も身動きひとつしない響子を横にさせて、左腕にゴムバンドで少しキツく締める。医者ではない爺さんが点滴をしようとする。
なるべく痛くさせないように、慎重に針をいれる。
一瞬だがピクッと身体を震わせたが、拒絶反応はなかった。
あまり慣れない手付きで点滴セットを準備させ、響子が通常に戻るまでしばらく休む事にした。




