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なんでも屋さんの弟子  作者: ソフィア・ラグナロク
第2章「師匠は自宅療養生活中」
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第9話「知らない世界」

第2章「師匠は自宅療養生活中」

第9話「まだ足りない」


 点滴を受けて数時間。

 注入していた液体が終わるのとほぼ同時に、やっとの思いで響子は元通りになれた。

 目を覚まして普通に起き上がる事ができ、普通に会話もできるようになった。


「やっと元通りになれたな。もう、よかろう」

「……あれ? 私……。ん……?」

「なにも覚えておらんのか?」

「……死ぬかと、思いました。寒くて。とにかく、寒くて……」

「そうじゃろうて。ここは魔界の雪山じゃ。防御魔法なくして歩いてくるなど、まるで自殺行為じゃな」

「……………」


 響子は爺さんにあれこれされた事を思い出せないでいた。された事が本当なのか空想なのかも定かじゃないくらいに。

 不明な事が多くて、あれ? といろいろ疑問を感じながら周りを見渡した。

 暖房やテレビなど家電製品がまるでなくて、まさに山小屋といった感じの雰囲気がある。

 外ではまだ猛吹雪で、窓ガラスが今にも割れそうなほどガタガタと悲鳴をあげている。

 内装や見た目はボロボロな、といった感じはないけど。しっかりと頑丈に作られた山小屋らしく、外の気温とは全く違い、凄くポカポカとしている。

 暖炉からパチパチと音をたてながら、火の温もりが感じられるほどで。この温かさは暖炉だけの効果なのか? と思うくらい、凄く温かいのだった。


「ここ、凄く暖かいですね。外は凄く寒いのに?」

「魔界だからこそ、じゃ。永続的に魔法を使えるでな。魔法効果があって、ここは暖かいんじゃ」

「そう、なんですか。私……本当に知らない事だらけ、です。店の事はいろいろできるのに、外の世界の事は、なにも知らない……」

「なにも知らない訳ではないだろう? こうしてここにいるのは、わしを求めてきたからなのでは?」

「それは……。ナズナから。あ、労働者なんですけど。強力魔法草を持ってこいと言うから。途中までは瞬間移動で」

「どうして、強力魔法草を?」


 爺さんは本当は知っているが、あえて聞いてきた。

 

「師匠が病気なんです。怪我、かもしれないんですけど。ドクターも。これまでに治療した事のない、初めて見る病気だと」

「どうして、そのような病気になったんじゃ?」

「戦闘中、弱ってしばらく倒れていた時に、虫が口から体内に入ったからのではと、ドクターから聞いてます」

「どうして、倒れたんじゃ?」

「別の蜂タイプの新種に刺されて」

「モンスターに犯され、さらにまたモンスターに犯され、か」

「それに、最終手段だからと言われて、治療目的で別の虫も食べさせられて……。透明化や虫になりつつあった師匠は、なんとか人間に戻る事ができました」

「まさに、最終手段じゃな」


 お爺さんは今の話を聞いてだいぶ状況を理解できたらしい。

 すると、考え事をしながら響子が横になっているベッドから奥の方にある書斎に行った。心当たりでもあるのか、ブツブツ呟きながらある本を取り出そうとした。


「病気……時空中毒……透明化現象……虫……。確か……。これ、か? いや、こっちか?」


 どっちだっけ。

 これでよかったか?

 ジャンル分けされてる仕切りから、これかもしれない、それかもしれない、と、数冊を机に置いて、さらに厳選していく。

 最終的には5冊が置かれ、その中から、お爺さんは数ページめくってさらに厳選し始めた。

 不思議そうに響子が様子を見ている。ナズナはいろんな事を知っているが、体験談や聞いた話を自慢そうに話す事が多いから、今回の師匠の未知の病を把握していない気がしてきた。

 けれど、この山小屋に住んでいるらしいお爺さんが重要人物である事は確かだった。

 このお爺さんなら的確な治療法を教えてくれるかもしれない。

 

「滞在……潜伏……うむむむ……」

「難しい、ですか?」

「そう、じゃな。どの症例にも、どの病気にも、確実性がないなぁ……」

「複数の病気の可能性は……?」

「可能性があるとするのならば、まずひとつに、確実にいえるのは時空中毒じゃな」

「時空中毒は、どんな症状なんですか?」

「時空を彷徨い、現実との区別ができなくなるのが主な症状じゃなぁ。ハマり過ぎると現実で別の意味で生きる事ができなくなり、自殺してしまうケースが多いの」


 そういえばナズナが言っていた「生きる事が辛くなる」というのはそういう事なのか。と、納得する事ができた。

 けれどなんで、そんな時空中毒になるのかが不明だった。


「けど、なんで、時空中毒なんかになるんですか?」

「おそらく、だが、その、あれだ。最初に体内に侵入した幼虫、だったか? それが時空中毒の初期症状をもたらしたのかもしれん」

「あくまでも、推測でしょ?」

「いやぁいやぁ、近頃発見されるモンスターは未知なる魔法すらも使えるやもしれん。ここに来る時、モンスターの時空移動の力を借りたのじゃろうて?」

「そう……ですが」

「だったらなおさらわかるだろう」

「だけど、人間は動物達の肉だけじゃなく、モンスターの肉も食べてますよね。しかもモンスターは動物とは違って成長スピードが異様です。だから成長スピードの遅い動物よりも、モンスターの肉は安いしたくさん売られて――」

「それはそれじゃ。人間が喰うておるモンスターの肉は、加工されておる。焼けば魔法の効果はなくなる。モンスターにはたくさんの特性があってだな」

「けど……」

「師匠を心配に思う気持ちは、話していてよおく感じる。不運だったな。じゃが、おそらく。求めておる強力魔法草のジュースを飲めば、時空中毒は軽くなるはずじゃ」

「本当にですか!?」

「確証はできん。だが、万能薬として、とてもよく知られておる。高額ではあるがな」

「いくらあればいいんですか!?」


 ナズナが言っていた強力魔法草が効果があると聞いて、すがる思いでどんな手を使ってでも手に入れたくなった。

 すぐに財布を取り出そうとしたが、爺さんは首を振った。


「金などいらん。師匠を救いたというその強い気持ちを聞いたら、金など受け取れんよ」

「え。でも、いいんですか? 高いんですよね?」

「わしが栽培しておるのは、確かに高額じゃ。じゃが、今回は本当にいらんよ。さぁ、財布をしまうのじゃ。そして、この草を大切に保管しなさい」

「ありがとう、ございます」


 保管箱に入れていた葉っぱを10枚も手渡してくれて、とても優しいお爺さんだと感じた。おまけに、不思議な丸い球体を掌にのせた。

 大きさは親指程度で、様々な色に輝いていた。

 

「これは?」

「マテリアルじゃ。知らんのか?」

「知りません……」

「君は魔法のこと知らんのかい?」

「魔法くらいは知ってます!!!」


 凄くバカにされた気がしたから思わず怒鳴ってしまった。

 

「回復系だったら最終まで使えます! ケアルガだって!」

「ほう。エスナとストナも使えおるのか?」

「もちろんです!」

「では、レジェンドエスナとレジェンドストナも」

「……はい?」

「知らんのかい! と、なると、もちろんユニゾンキュアも?」

「……………」

「エスナは麻痺・毒を解除できるんじゃ。じゃが、スーパーポイズンにはスーパーエスナを。レジェンドポイズンにはレジェンドエスナじゃ。ストナの気絶にもしかり、じゃ」


 スーパーとレジェンドのレベル階級も知らない様子を見て、爺さんは呆れてしまっていた。

 

「ちなみにユニゾンキュアは、全ての状態解除でき、ケアルガ相当の体力回復もできるんじゃが」

「……知りません、でした」

「全然じゃなぁ」


 回復魔法は使えると自称していたのに、全然だと爺さんから言われてショックを受けた。

 でも、それどころじゃないんだ。この爺さんとゆっくり喋ってる場合じゃない事を思い出して、早く話を切り上げようと思った。


「すみません。早く師匠に飲ませないと――」

「待つのじゃ。そのままで出て行ったら、また凍え苦しむぞ。だから、これを装備しなさい」

「これ? これって、この、丸い球体の?」

「だから言っただろう。マテリアル、と」

「……その、マテリアル? どんな効果が?」

「簡単に説明をすると、防寒対策に非常に強い。だから、それを装備するべきなんじゃ」

「だけど、このマテリアルをどうやって……?」


 お爺さんは響子が装備していた軽装のアーマーを観察しようとした。けれど、観察するまでもなく。あきらかに、ただの防寒着である事がわかった。

 誰が見ても、マテリアルを装着できる装備ではないとわかるほど。


「よく、その格好で、ここまでこれたなぁ」

「どういう意味ですか……」

「さっきも言ったはずじゃが。通常世界と魔界では、気温差はおろか、環境もまるで違うんじゃ。だから、相応の装備をしなくてはならない」

「で、も……」

「なら質問を問う。どうやってきた?」

「ナズナ……。あっ、いや。ネーミングの労働者なんですけど。近くまでは瞬間移動してもらえて、それから少し歩いて……。途中で、物凄く寒くなって……」


 話しながら、その時の状況がよみがえってきて血の気が引いた感覚に強く襲われ始めた。

 ぽかぽかして半袖でも過ごせるような状態から、気が付いたら防寒のフル装備をさせられていて。

 なのにも関わらず、いっきに体温が奪われて、体液が凍るんじゃないかと思うくらいの、そんな、身体を凍らせるくらいの寒さを思い出した。

 それはもちろん、もう経験したくないほどの恐怖だ。

 けれど、今ここは暖かい。

 響子は戸惑いと恐怖で判断が鈍った。

 けれどお爺さんには全部お見通しだったのだ。


「迷うことなんて、ないだろう。ほら、これならマテリアルを装着できるから、着けなさい」


 渡してきたのは、キラキラと光を反射させる、綺麗なネックレスだった。

 ネックレスにつけられている丸い環。赤く丸いのが、マテリアルのようだった。


「タダであげるわい。ほら」

「……ありがとうございます」

「急ぐんじゃろ? 大切な人を、早く助けてあげなさい」

「は、はい。ありがとうございました」

「無事じゃといいな」

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